子は親に似るとよく言われます。

サラブレッドは特にその傾向が顕著で、だからこそ血統による評価が成り立っているわけです。

私たちがよく注目するのは、例えば「この父系は全般にダートがこなせる」だとか、「ここの母系は成長曲線に特徴がある」だとか、あるいは「この種牡馬の仔は特定の毛色が多い」といったところでしょう。しかし競走能力には直結しないものの、生物にとって大事な要素があります。

それは、寿命です。

私たち人間にも長寿の家系があるように、サラブレッドも、おそらく遺伝によってある程度の寿命が決まっているものと思われます。長寿といえば、35歳の長命を保った三冠馬シンザンと、32歳まで生きた二冠馬ミホシンザンの親子が有名ですね。

そこで今回は、そうした長寿の系譜をいくつかご紹介いたします。

なお、何をもって長寿とするかが曖昧なのですが、ここではおよそサラブレッドの平均寿命を、一般的に言われる20~30歳の中間である25歳とします。

さらにどの代もこれに達し、なおかつ平均寿命がこれを上回る家系を長寿として扱います。なお、年齢表記は満年齢とし、※印は生没とも月日不詳のため可能性のある年齢を両方併記しています。

1 ゲインズボロー~ユウセンショウ(8代)

1代目 ゲインズボロー 牡 1915年生

英クラシック三冠 30歳

2代目 ハイペリオン 牡 1930年生

英クラシック二冠 30歳

3代目 ロックフェラ 牡 1941年生

種牡馬 26歳又は27歳※

4代目 チャイナロック 牡 1953年生

本邦輸入種牡馬 28歳

5代目 ハイセイコー 牡 1970年生

皐月賞、宝塚記念 30歳

6代目 カツラノハイセイコ 牡 1976年生

東京優駿、天皇賞・春 33歳

7代目 ユウミロク 牝 1983年生

優駿牝馬2着、カブトヤマ記念 34歳

8代目 ユウセンショウ 牡 1992生

ダイヤモンドS

ゲインズボローとハイペリオンは優れた競走成績を残しただけでなく名種牡馬にもなり、そのうえ長寿の持ち主でもありました。子孫もロックフェラとチャイナロックこそ30歳に達する前に死亡してしまったものの(それでも長命の部類に入りますが)、ハイセイコー以降は軒並み30歳の大台を突破しています。ちなみにユウミロクの第三仔ユウセンショウは本稿執筆時点(2018年2月)で25歳を迎え存命中であるほか、その弟たちであるゴーカイ・ユウフホウヨウも20歳を超えて尚、お元気なようです。

またハイペリオンの別の子孫にも長命な一族がいて、直仔のオーエンテューダー(英ダービーほか)、孫のテューダーミンストレル(英2000ギニーほか)はいずれも没時25歳を超えていました。

2 ファラモンド~トスマー(5代)

1代目 ファラモンド 牡 1925年生

ミドルパークSほか 26歳又は27歳※

2代目 メノウ 牡 1935年生

シャンペンSほか 28歳又は29歳※

3代目 トムフール 牡 1949年生

ニューヨークハンデ三冠 27歳

4代目 ティムタム 牡 1955年生

米クラシック二冠 27歳

5代目 トスマー 牝 1961年生

ベルデイムSほか 31歳

ファラモンドは前述のハイペリオンの半弟に当たり、長寿の遺伝子を子孫に伝えています。平均は30歳に達していませんが、いずれも25歳を超えています。なお、トムフールは30戦21勝の戦績を残してブラッドホース誌による「20世紀のアメリカ名馬100選」11位に選ばれています。トスマーも重賞勝利多数を含む39戦23勝の成績が評価され、トムフールとトスマーの2頭は「アメリカ競馬名誉の殿堂」において殿堂入りしています。長寿だけでなく、高い競走能力を兼ね備えた系譜と言えそうです。

3 ソードダンサー~アワエンブレム(5代)

1代目 ソードダンサー 牡 1956年生

ベルモントSほか 28歳

2代目 ダマスカス 牡 1964年生

米クラシック二冠 31歳

3代目 プライヴェートアカウント 牡 1976年生

ガルフストリームパークHほか 28歳

4代目 パーソナルエンスン 牝

1984年生 BCディスタフほか 26歳

5代目 アワエンブレム 牡

1991年生 種牡馬

ソードダンサーの父サングロウはさほど長命でなかったにもかかわらず、彼自身は28歳まで生き、長命の子孫たちが命脈を繋いでいます。

前述のファラモンドの系譜に負けず劣らず競走能力が高く、こちらも「20世紀のアメリカ名馬100選」で、32戦21勝のダマスカスが16位・13戦全勝のパーソナルエンスンが同48位に選ばれ、どちらも「アメリカ競馬名誉の殿堂」で殿堂入りを果たしています。

またアワエンブレムは日本で種牡馬をしていたウォーエンブレムの父でもあり、現在はブラジルで種牡馬活動を行っています。存命中であることもあり、この先も長命の子孫が続くかも知れません。また、ウォーエンブレム自身や、日本に残されたその産駒次第では長寿の系譜がさらに延びる可能性もあります。

4 ナタルマ~メジロライアン(5代)

1代目 ナタルマ 牝 1957年生

繁殖牝馬 27歳又は28歳※

2代目 ノーザンダンサー 牡 1961年生

米クラシック二冠 29歳

3代目 ノーザンテースト 牡 1971年生

フォレ賞、本邦輸入種牡馬 33歳

4代目 アンバーシャダイ 牡 1977年生

有馬記念、天皇賞・春 30歳

5代目 メジロライアン 牡 1987年生

宝塚記念 29歳

20世紀の大種牡馬ノーザンダンサーとその母ナタルマは、ともに長命でした。

そのため、上記以外にもビーマイゲスト(30歳)、ダンジグ(29歳)、サドラーズウェルズ(30歳)と、長寿の産駒が多く見うけられます。

ノーザンテースト産駒にも同様の傾向があるようで、アンバーシャダイ以外にダイナガリバー(29歳)、ギャロップダイナ(25歳)、ダイナアクトレス(28歳)、ダイナフェアリー(31歳)と、長生きの傾向があるように思われます。

さらに、メジロライアンの娘であるメジロドーベルが本稿執筆時点で存命であり、牝系を通じて長寿の系譜が受けつがれていく可能性もあります。

また、ノーザンダンサーの他のラインでは直仔リファールが36歳、日本に輸入されたその息子モガミも31歳まで生き、さらにその産駒であるシリウスシンボリ(東京優駿勝ち馬)は30歳没、1985年生まれのシンボリクリエンス(中山大障害勝ち馬)や1989年生まれのレガシーワールドに至っては本稿執筆時点で存命と、同父系は長寿の傾向にあるようです。


今回ご紹介できたのは、私の調査が及ぶ範囲であくまで比較的著名なサラブレッドのみです。

ただ、こうして調べてみるとサラブレッドの競走能力は向上していると言われる一方で、飼料が改良され獣医学等も発達しているにもかかわらず寿命は昔と大差ないように見えます。

配合の選択はあくまで競走能力をベースとしてなされているからなのか、競走年齢や繁殖可能な年齢に限りがあるために寿命は重要視されていないからなのか、それともサラブレッドという生き物そのものに寿命の限界があるからなのか……。

はっきりとした理由は分かりませんが、私個人としては獣医学のさらなる発展とともに、事故等を防ぐべく環境も整えられるようになった今日ですから、競走生活を終えて余生を過ごす馬たちも大いに長生きしてくれることを願っています。

写真:ウマフリ写真班

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