[重賞回顧]花散らしの雨を切り裂く末脚を発揮したエンブロイダリーが、49年ぶりの快挙で桜の女王戴冠!~2025年・桜花賞~

5年ぶりに良馬場以外、雨中の決戦となった桜花賞。近年は阪神ジュベナイルフィリーズからの直行組が結果を残しているものの、2024年の同レースは史上初めて京都で開催された。また、トライアルのチューリップ賞とフィリーズレビューは、これまでより1週前倒しで開催されるなど、桜花賞に至るまでの過程は例年とやや異なっていた。

さらに、ここまでおこなわれてきた2、3歳の牝馬限定戦は1番人気が全敗。平穏な決着が続いている桜花賞とはいえ、ここ数年で最も混戦といっても過言ではなく、花散らしの雨としぶった馬場が混戦に拍車をかけた。

そんな2025年の桜花賞に駒を進めた18頭で、最終的にオッズ10倍を切ったのは4頭。その中で、エリカエクスプレスが1番人気に推された。

10月京都の新馬戦で初陣を飾ったエリカエクスプレスは、2ヶ月半ぶりの実戦となったフェアリーSも完勝。従来の記録を0秒9も上回るレースレコードで、内容も優秀だった。

父はエピファネイアで、過去5年、同産駒は桜花賞を2勝しており、そのうちの一頭が無敗の三冠馬デアリングタクト。2頭はいずれも杉山晴紀調教師の管理馬で、厩舎の偉大な先輩に続き無敗で桜の女王戴冠なるか、注目を集めていた。

僅かの差でこれに続いたのがアルマヴェローチェ。

8月札幌の新馬戦を逃げ切ったアルマヴェローチェは、続く札幌2歳Sでもハナ差2着と健闘し、そこから臨んだ阪神ジュベナイルフィリーズを快勝。2歳女王の座に就いた。

今回は4ヶ月ぶりの実戦となるものの、阪神ジュベナイルフィリーズ1着から直行してきた馬は、過去5年で3頭が出走し2勝2着1回と好走。GⅠ連勝が期待されていた。

そして、3番人気となったのがエンブロイダリーだった。

デビュー戦こそ2着に惜敗するも、2戦目を7馬身差で圧勝したエンブロイダリー。昇級初戦のサフラン賞こそ5着に敗れたものの、1勝クラスとクイーンCを連勝し、重賞初制覇を成し遂げた。

鞍上は、前年の優勝ジョッキーであるジョアン・モレイラ騎手。新馬戦以来となるコンビ再結成で、マジックマンとともに3連勝でGⅠ制覇なるか。こちらも注目を集めていた。

以下、きさらぎ賞で牡馬相手に2着と好走したリンクスティップ。阪神ジュベナイルフィリーズで2着に好走したビップデイジーの順に、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、エリカエクスプレスがロケットスタートを決め、早くも1馬身のリード。対照的に、ブラウンラチェットは1馬身ほど出遅れ、スタート直後に隣の馬と接触したリンクスティップも、後方からの競馬を余儀なくされた。

前は、エリカエクスプレスがそのまま逃げ、2番手以下はボンヌソワレ、ショウナンザナドゥ、クリノメイ、ナムラクララが一団。最終的に、クリノメイとナムラクララが2番手につけた。

一方、その後ろもビップデイジーを筆頭にヴーレヴーなど5頭が一団となり、エンブロイダリーとアルマヴェローチェはちょうど中団を追走。出遅れたブラウンラチェットは後ろから2頭目で、さらにそこから5馬身離れた最後方にリンクスティップがつけていた。

800m通過は46秒6とミドルペースで、先頭から最後方まではおよそ18馬身。ただ、間隔を開けながら追走していた後ろ4頭以外の14頭は、10馬身以内の圏内に固まっていた。

その後、3~4コーナー中間でリンクスティップが一気にスパート。後ろから3頭目にいたチェルビアットも上昇を開始したことで馬群は一気に凝縮した。そんな中、逃げるエリカエクスプレスは物見をしたか逆手前となり、やや外へ膨れながら4コーナーを回るも、1馬身のリードをキープしたまま直線勝負を迎えた。

直線に入ると、馬場の中央に進路を取ったエリカエクスプレスが後続を突き放しにかかったものの、半ばで失速。替わって、中団から差を詰めていたエンブロイダリーとアルマヴェローチェが先頭に立ち、大外から追い込んできたリンクスティップを含め3頭の争いとなった。

その後、残り100mでこの争いから抜け出したエンブロイダリーが1馬身のリードを取ると、ゴール寸前でアルマヴェローチェに再び差を詰められるも先頭ゴールイン。クビ差2着にアルマヴェローチェが入り、2馬身1/2差3着にリンクスティップが続いた。

稍重馬場の勝ち時計は1分33秒1。中団から末脚を伸ばしたエンブロイダリーが、2歳女王との叩き合いを制し3連勝でGⅠ初制覇。開業2年目の森一誠調教師はGⅠ初挑戦初制覇の快挙で、モレイラ騎手は連覇達成。また、クイーンC勝ち馬の桜花賞制覇は、テイタニヤ以来49年ぶり3頭目の快挙となった。

各馬短評

1着 エンブロイダリー

2番手から抜け出した前走とは異なり、中団待機から直線で末脚を伸ばす競馬。追い出してからの加速が素晴らしく、モレイラ騎手に導かれながら内へ外へと進路を巧みに切り替え、アルマヴェローチェとの叩き合いを制した。

筆者は、早目先頭から押し切ったクイーンCや、逆に差し遅れた3走前のサフラン賞の内容から、差し比べ、末脚勝負になると分が悪いのではないかと思っていた。ところが、馬場の恩恵を受けた可能性があるにしても、今回は差し比べを制して勝利。マイル戦ではどんな競馬もでき、よほどスローペースからの瞬発力勝負にならなければ、NHKマイルCはもちろん、一見距離が長そうに思えるオークスでも十分に好走可能だろう。

2着 アルマヴェローチェ

道中はエンブロイダリーをマークするように追走。ただ、3~4コーナー中間で同馬の外から並びかけたことで、4コーナーでもやや外を回る格好に。結果論とはいえ、この僅かな差が勝敗を分けたが、これは責められない範疇。むしろ、勝ち馬とモレイラ騎手を褒めるべきだろう。

2歳女王でありながらやや過小評価されていたのは、おそらく同じハービンジャー産駒のナミュールやチェルヴィニアが桜花賞で凡走していたことが原因。ただ、これまで桜花賞に出走した同産駒はすべて二桁馬番で、とりわけこれら2頭に関しては、内枠有利のレースでは最悪ともいえる大外枠を引いたことが敗因だった。ハービンジャー産駒が桜花賞で好走できない要因がそれだけとは思わないが、阪神ジュベナイルフィリーズ勝ち馬(特にノーザンファーム生産馬)が同レースから直行してきた際は、よほどの原因がなければパフォーマンスを著しく下げることは考えにくい。

3着 リンクスティップ

スタートで隣の馬と接触。スピードに乗るまで時間がかかり、一時は17番手のブラウンラチェットから5馬身も離れた最後方を追走することに。そこから早目スパートでよく追い上げるも、このロスが響いて最後は失速し、前2頭からやや離れされての3着だった。

逆に、今回の内容や血統などからオークスが最も楽しみになったのはこの馬。4ハロン延長となる府中で逆転があっても、なんら驚けない。

レース総評

レース当週は木曜日に4.5ミリ、金曜日に1ミリの降雨があり、ほどよい水分量を含んだ土曜日は終日良馬場での開催。傷みはほとんど進まず良好な状態だった。その後、日付が変わる頃から雨が降りはじめ、朝9時の時点で3.5ミリの雨量を計測。午後1時前に稍重となった。

そんな中おこなわれた桜花賞は、エリカエクスプレスのロケットスタートで幕を開けた。理想は、前走のような好位抜け出しのパターンだったはずだが、無理に下げるわけにもいかず、陣営は逃げることも想定内だったためそのまま逃げた。結果、前半800m通過は46秒6とハイペースに近いミドルペースで、同後半は46秒5。前後半ほぼイーブンで、勝ち時計は1分33秒1だった。

また、道中の隊列や先頭から後方までの差を見ると、3~4コーナー中間まで後ろ4頭以外の14頭はほぼ一団で、4コーナーでは全馬一団。あまりに位置が後ろ過ぎても厳しいが(それでも3着に追い込んだリンクスティップは好内容)、中団付近に位置した馬にとっては馬群さえ捌ければ差し届きやすい隊列で、エリカエクスプレスをはじめとする先行馬には厳しい展開だった。

さらに、後半4ハロンは12秒0-11秒7-11秒4-11秒4と加速し、最後も失速していないため、中団以下から差し、追い込んできた人気・実力とも上位の3頭と、それ以外の差は大きく広がってしまった。

勝ったエンブロイダリーは、この世代が初年度の新種牡馬アドマイヤマーズの産駒。新種牡馬の産駒が桜花賞を制したのは、エピファネイア産駒のデアリングタクトが勝利した2020年以来5年ぶり。

一方、母父はクロフネで、3代母はビワハイジという名牝系の出身。ビワハイジは1995年の阪神3歳牝馬S(現・阪神ジュベナイルフィリーズ)覇者で、産駒のブエナビスタとジョワドヴィーヴルも阪神ジュベナイルフィリーズを制覇(ブエナビスタは桜花賞も制覇)。さらに、母母父の母アグネスフローラも桜花賞馬で、母父クロフネ、父父ダイワメジャーとも直仔が桜花賞を勝利し、父アドマイヤマーズも現役時に朝日杯フューチュリティSを制するなど、エンブロイダリーの血統表には、至るところに阪神のマイルGⅠ勝ち馬や、それに関係する馬の名前を見つけることができる。

最後に、2025年からチューリップ賞とフィリーズレビューの開催がこれまでより1週前倒しされたため、桜花賞上位入着馬の前走レースを改めて確認した。すると、勝ち馬から順に、クイーンC、阪神ジュベナイルフィリーズ、きさらぎ賞、クイーンC、フェアリーSで、フィリーズレビュー2着で出走権を手にしたチェルビアットが6着という結果。チェルビアットは3コーナーで決して小さくない不利を受けており(エンブロイダリーの鞍上モレイラ騎手に過怠金5万円)、着順をもう一つか二つあげていた可能性は否定できず、今回の結果だけですべてを判断できないものの、3つあるトライアルから臨んできた馬が本番で一頭も掲示板に載れなかったのは、2021年以来4年ぶり。2000年以降でも、今回とその時の二度しかない。

対照的に、クイーンC勝ち馬が桜花賞を連勝したのはテイタニヤ以来49年ぶりで、きさらぎ賞組が3着内に好走したのもグレード制導入以降初。トライアル組の不振が今後も続くようであれば、スケジュールの再々考を余儀なくされるかもしれない。

写真:@gomashiophoto

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