
クロワデュノールの凱旋門賞挑戦が決定
感動の日本ダービー制覇から1か月、ダービー馬になったクロワデュノールの秋の予定が発表された。
個人的に「秋は天皇賞秋かな? 個人的には父子制覇のかかった菊花賞に行って欲しいけど」「海外もあるけれど、今年行かなくても良いのかな」などと思っていた矢先…。
「ダービー馬クロワデュノールが凱旋門賞挑戦!」との報が飛び込んだ。
デビューより競馬場で彼を応援してきた身としては、テレビ観戦になるのが少々残念な気もするが、それを踏まえても非常にワクワクするニュースである。
そして、そのニュースを更に嬉しいものにしたのが、「鞍上は北村友一で」のコメントだった。

北村友一騎手が、やっと凱旋門賞で騎乗!
──ユウイチの騎乗を、パリ・ロンシャンで見られる!
私は熱烈な北村友一推しとまではいかないが、「騎手・北村友一」は好きな騎手の一人である。彼の騎乗は時にはハラハラさせるが、一瞬の判断で騎乗馬を御する“腕”は確かなものだと思う。納得のいくレースをするためか、その行動から話題になることも度々ある。2013年の斜行→裁決室大暴れ事件を起こしたり、何度も落馬で大怪我を負ったり、心配させるニュースも少なくない。それでも北村友一騎手の騎乗キャリアは、超一流である。
2006年にデビューし、初年度14勝を挙げ中央競馬関西放送記者クラブ賞を受賞した。3年目の2008年には、通算100勝達成の翌々週に初の重賞制覇(デイリー杯2歳ステークス・シェーンヴァルト)を成し遂げる。そして、7年目(2012年)には300勝、12年目(2017年)には500勝を達成し、順調にキャリアを積み重ねて行く。
中央競馬での初GⅠ制覇は2019年、大阪杯でアルアインに騎乗し、キセキをクビ差退けて優勝。更にその年の秋シーズン、秋華賞をクロノジェネシスで、阪神ジュベナイルフィリーズをレシステンシアで制覇し、年間3回のGⅠ制覇となる。
ここまでの騎乗キャリアだけを見ると順調に見えるものの、14年の間に3回の落馬事故で長期休養を挟んでいるのも事実。もう、落馬事故を起こして欲しくない…応援している我々以上に、それを願っているのは北村友一騎手だとは思うが──。
15年目のシーズンとなる2020年、北村友一騎手は、クロノジェネシスを宝塚記念、有馬記念のグランプリ春秋連覇に導いた。そして翌年のドバイシーマクラッシックで、直線3頭の激しい追い比べの中、優勝のミシュリフにクビ差屈しての2着となる。世界一に、一瞬手が届きかけた北村友一騎手。この後のローテーションで、凱旋門賞という噂を聞いてどんな夢を馳せていただろうか。
しかし、悪夢は再び北村友一騎手を襲う。ドバイ遠征から2か月後、阪神競馬場の向正面で他馬の斜行による落馬負傷。椎体骨折および右肩甲骨骨折と診断され手術を行い、後日に背骨8本以上の骨折も見られ、復帰まで1年以上かかることが発表される。海外GⅠ制覇の夢も、相棒クロノジェネシスとのラストイヤーでの騎乗もできなくなってしまう。クロノジェネシスは宝塚記念をルメール騎手で連覇し、凱旋門賞出走(7着)後、有馬記念(3着)を最後に引退する。北村友一騎手が競馬場に戻ってきたのは、事故から13か月後だった。
相棒クロワデュノールとの出会い、そして大願成就
2024年6月。北村友一騎手とクロワデュノールがタッグを組んだ。3番人気のクロワデュノールは、直線で先頭に立つと2着以下を突き放して優勝する。これはモノが違うぞ…と誰もが思ったクロワデュノールの鞍上が、北村友一騎手。来年のダービーに、是非このコンビで向かって欲しいと思ったのは、私だけではないだろう。
クロワデュノールは、2戦目の東スポ杯2歳ステークスも楽勝し、暮れのホープフルステークスで、北村友一騎手に4年ぶりとなるGⅠ制覇をプレゼントした。
北村友一騎手に初の牡馬クラッシックタイトルを~。
誰が見ても、どう考えてもクロワデュノールが負ける要素は無い。皐月賞は中山2000m、ホープフルステークスと同じレースをすれば先頭ゴールインするはずだ。そして日本ダービーだって、北村友一騎手が落ち着いて乗れば…。

皐月賞で2着に敗れたクロワデュノール。仕掛けのタイミングが早かったのか、モレイラ騎手の術中に嵌ったのか、クロワデュノール自身の体調の問題なのか──。
しかし、斉藤崇史調教師の「馬は一生懸命に走っており、ジョッキーも上手く乗ってくれました。動きたいところで下げざるをえない不利が痛かったです」のコメントで、ダービーへの不安は一掃した。斎藤師と北村友一騎手の信頼関係の厚さは、北村友一騎手とクロワデュノールが日本ダービーでリベンジすると信じるに値する。初夏の府中で、北村友一騎手の、斉藤崇史調教師の笑顔が目に浮かんだ。

日本ダービーが終わり、検量室に戻ってきた北村友一騎手の満面の笑顔は、19年間の苦労を全て吹き飛ばす笑顔だった。厩務員さんの笑顔、斉藤崇史調教師の笑顔。関係者たちの笑顔に囲まれた中で、一番ホッとしていたのはクロワデュノールだったのかもしれない。
後日視聴した北村友一騎手のジョッキーカメラは、感動的なものだった。ウイニングランに向かう際、一緒に戦った騎手たちから次々に湧き上がる祝福。「おめでとう」だけでなく、誰かが言った「良かったな」のメッセージ~
「北村友一は誰からも愛される騎手だ」。ジョッキーカメラを見て、私は改めて思った。
さぁ、秋は凱旋門賞だ!
4年前、クロノジェネシスと立つ可能性もあった凱旋門賞の舞台。北村友一騎手は、どんな気持ちでロンシャン競馬場の風景を見るだろうか。クロノジェネシスと共に見ることが叶わなかった景色。クロワデュノールの鞍上で、クロノジェネシスの思いも背負って、世界の強豪に挑んで欲しい。
なんだか、いいじゃないか!
日本調教馬が初めて凱旋門賞を制した時の鞍上は、苦労して苦労して頂点を掴んできた19年目の日本人騎手、ユウイチ・キタムラ!
そう思うと、秋に向けて夢が広がるのである。
Photo by I.Natsume