2025年現在ではサマースプリントシリーズの1戦に組み込まれ、夏の短距離レースとして開催されているCBC賞。だが、過去には12月のG2戦として開催されていた歴史もあり、阪神カップが設立されるまでは同競走が暮れの風物詩として親しまれていた時代もあった。

とはいえ、過去も現在も短距離G1を目指す馬たちにとっては重要な1戦であることは変わらない。秋に向けての試金石と言えるレースである。

そんなCBC賞、今年は戦前からジューンブレアとヤマニンアルリフラの一騎打ちムード。最終的な単勝オッズはこの2頭のみが一桁台で、3番人気のドロップオブライトからは10倍を超える倍率となっていた。

この2頭のうち、人気で上回ったのはジューンブレアの方。ここまで10戦4勝という成績で、古馬となってからは初の重賞挑戦となった前走の函館スプリントステークスはハナ差の2着だった。しかもその内容は、レコードタイムで勝利したカピリナとタイム差無しというもの。600m通過が32.5秒のハイペースを先行し、そのまま押し切るかに思われた走りはほぼ勝ちに等しく、ここで重賞初制覇を果たしてもおかしくないという評価だった。

一方ヤマニンアルリフラも、前走で北九州記念を制覇した出世頭。彼は初勝利が2勝クラスという異色の経歴を持つ馬だが、その後は3着を1回挟み、3連勝でG3を勝利するまでの成長を見せた。血統的にも兄であるヤマニンウルスが2週前の東海ステークスを制しており、勢いは十分。重賞2連勝に向けて注目は高まっていた。

レース概況

メイショウソラフネが出負けした以外は、全馬がほぼ横一線となるスタートを切った。

先行勢の中では内のクラスペディアの出が良く、そのままハナへ立つかに思われたが、外からそれ以上の勢いでインビンシブルパパが先頭を主張。一気に先手を取り切った。彼に続くような形でベガリス、カルチャーデイが追走していく。

この動きに一旦は行きかけたクラスペディアは引いて、4番手あたりにつけたジューンブレアの後ろに続くような形に。その横にエイシンワンド、グランテストがつけ、直後にジャスティンスカイ、ミルトクレイモー、バルサムノートを見るような形でヤマニンアルリフラ。

中団でじっくり脚を溜める彼女をマークするような形でポットペイダーとメイショウソラフネ、テイエムリステットが続き、後方集団をワイドラトゥール、シュトラウス、ドロップオブライトが形成。先頭の600m通過が34秒というペースで、馬群は最後の直線を迎えていった。

直線に向いたところで、逃げるインビンシブルパパは再加速。坂の上りでさらにリードを広げ、2番手以下に3馬身程の差をつけて200mのハロン棒を通過した。

後続も追うが、控えていたヤマニンアルリフラは伸びあぐね、先行したジューンブレアも先頭に迫れるだけの脚色がない。唯一、後方待機で脚を温存していたシュトラウスとドロップオブライトが飛んでくるが、2着争いに加わるまでが精一杯。先頭を取り切ったスピードのままに、インビンシブルパパが重賞初制覇のゴールへ飛び込んだ。

各馬短評

1着 インビンシブルパパ

これで10戦6勝。芝のレースはCBC賞が2戦目となるが、早くも重賞を勝利。今後が非常に楽しみな存在になってきた。

前走の函館スプリントステークスで600m通過が32.5秒というハイペースで逃げていたことを考えれば、34秒で通過した今回は多少楽なレース展開だったのかもしれない。ゆえに、最後の直線でもう一度加速ができたと考えても良さそうだ。

この走りができるならスプリンターズステークスでも面白い存在になってくれそう。先週のアイビスサマーダッシュを制したピューロマジックとの速力勝負も見てみたい。

2着 ジューンブレア

前走に続き、またも2着。今度こその重賞制覇とはならなかった。

上り3Fも33秒と速く、最後もしっかり脚は使って1/2馬身差まで迫っているだけに悔しい結果。惜しむらくは勝負所で包まれたことだろうか。鞍上の武豊騎手も「3角手前でごちゃついて折り合いを欠いた。うまく乗れなかった。もったいないレースでした」と振り返っていたように、決して力負けではないだろう。

3戦3勝の中山に戻るスプリンターズステークスでこそ、夏を超えて成長した本当の姿を見せてくれるかもしれない。

3着 シュトラウス

これがキャリア初の1200m戦となったが、最後は良く追い込んで3着。重賞では2023年の東京スポーツ杯2歳ステークスを制して以来、1年8か月ぶりの入着となった。

2歳時から能力は高く評価されていたが、前に行こうとする気持ちが強く、うまく実力を発揮できていないこともあったシュトラウス。だが、今回はスタートから多少口を割ってはいたものの、これまでより落ち着いて走っているように見受けられた。

最後の直線も自身最速の上り32.6秒を使って追い込んでいるように、秘めたる力が確かなものは間違いない。今回の経験が良い方に向けば、再度の重賞制覇、そしてG1勝利が見えてくる可能性もある。

総評

レース全体のラップは34秒0-33秒4と、速い時計を刻みながら後傾ラップ。逃げて上り33秒4の脚を使い勝利したインビンシブルパパの強さも際立ったが、上り32秒台の馬が多数いたことも注目すべきポイントではないだろうか。瞬発力に秀でた馬が上位に来た印象と言える。

今回、2戦目の芝挑戦で重賞制覇を果たしたインビンシブルパパ。彼のように条件戦時代はダート戦を使い、オープン昇級後にCBC賞で初重賞制覇を果たした馬にはレッドファルクスがいる。同馬は勢いそのままに秋のスプリンターズステークスを制し、国内短距離の頂点に輝いた。インビンシブルパパも偉大な先輩へ続けるか。

そして、彼に跨っていた佐々木大輔騎手は、これが重賞通算6勝目。2025年の夏競馬では3回目の重賞勝ちとなる。しかも同騎手は前日のエルムステークスもペリエールで制しており、土日での重賞制覇をマークした。2日連続での重賞制覇は2024年4月6日、7日にジョアン・モレイラ騎手が達成して以来、JRA所属の騎手では同年3月23、24日に坂井瑠星騎手が達成して以来となる。

また、CBC賞を関東所属の騎手が制覇するのも、2004年の蛯名正義騎手(現:調教師)以来21年ぶり。新進気鋭の若手ジョッキーが作り上げた2つの記録は、大きな快挙と言っていいのではないだろうか。

レース後、佐々木騎手は「先生とはハナにはこだわらなくていいと話していたのですが、出方を見ながら速かったので行きました」と語っている。捲って勝利した函館記念でもそうだったが、佐々木騎手には大胆かつ強気な競馬を出来る強みがある。今回のCBC賞でも、自身の相棒の速力を信じたからこそ最高の結果に繋がった。この勝利でサマージョッキーズシリーズでもルメール騎手に並び、1位タイに。ベテラン騎手たちを抑えてのトップ浮上という結果からも、彼の今後が非常に楽しみである。

スプリント界へ新たに出現した実力馬と、彼を勝利へ導いた若手のホープの実力が見えた今年のCBC賞。それは十分に「秋へ繋がる夏競馬」を予感させたと言っていいのではないだろうか。

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