[遊駿+]トウカイテイオー、ハイセイコー、ウオッカ… 金沢の2歳馬たちに宿る、名馬の血

現役時代にどれほど優れた成績を残してもその血が時の流れとともに廃れ、その名も血統表からも消えてゆく。優勝劣敗の競馬の世界では幾度も起きている血統の理である。

そんな中でもあの名馬の血統を絶やすまいと理に抗い、中央ではなく地方での片隅で細々とでも血統表に名を残し続ける事もある。そんな中央ではあまり見かけなくなった血脈を持つ金沢の2歳馬を取り上げる。

■キモンダグラス(牡 菅原欣也厩舎)

デビュー戦で既走馬や中央からの移籍馬相手に単勝1.6倍の1番人気で制したキモンダグラス。彼の血統を見ると、父は今年産駒がデビューした新種牡馬のタニノフランケルである。

14戦14勝、名種牡馬ガリレオの最高傑作とも謳われたフランケルの子──と言うよりも、日本では、牝馬ながらにダービーを制したGI7勝のウオッカの子と言った方が通りが良いだろうか。

タニノフランケルは重賞勝ちはなく、2019年の小倉大賞典2着が最高。それでもこの超良血の魅力に惹かれたホースマン達の尽力で種牡馬となったと言う。

この父に、母の父がスウィフトカレント。2006年の小倉記念を制し同年の天皇賞(秋)2着で重賞戦線を賑わせた名バイプレイヤー。産駒は芝もダートもこなし、地方の重賞勝ち馬も出している。

父系の血統だとダート向きとは言えそうには見えないが、母系はダートもこなした馬が見られてその辺りが出ると地方で化けるか。

体質が弱く、ひどい夏負けをして今年デビューできるかどうかと言うほどだったが、涼しくなると急速によくなって今年のデビューにこぎつけたと言う。

2歳の重賞戦線には間に合わなかったが、3歳の重賞戦線に出走して父が叶えられなかった重賞制覇を目指してその良血が目覚めることを期待したい。

キモンダグラスと栗原大河騎手(筆者撮影)
■イットールビー(牝 川添明弘厩舎)

SNSで話題になったため、その名を知っている競馬ファンもいるであろう。

父はクワイトファイン。金沢競馬を長く走ったトウカイテイオー産駒で他にもミスターシービーやシンザンの名が並ぶ。

母の父はディープインパクト、そして、母系をたどるとダイイチルビー、ハギノトップレディ、イットーにまで連なる「華麗なる一族」が燦然と並んでいる。さらにトウショウボーイのインブリードを持ち、彼女の血統表はまさに日本競馬の殿堂のようである。

金沢の中でも一際小柄な380kg前後の馬体の彼女。7月にデビューを飾るもシンガリ負け。その後も掲示板にすら届かないレースが続いている。

しかしながら、父もデビューから4戦連続のシンガリ負けでスタートして初勝利はデビューから1年2ヶ月後の35戦目。この時には馬体もデビュー時から25㎏増やしていた。そんな父のようにコツコツ走り続けて結果が出るかもしれない。それまではケガをせずに元気に走り続けてほしい。

イットールビーと服部大地騎手(筆者撮影)
■キタスイッチ(牡 金田一昌厩舎)

父ケープブランコ、母の父がスクワートルスクワートの青森県産馬。

彼の血統表で目を引くのが母系の四代前の父(母母母父)のカツラノハイセイコ。そしてその父の元祖怪物ことハイセイコーである。

ハイセイコーの血統は直系は既に断絶し、母系で細々と残っている程度。そのハイセイコーからカツラノハイセイコの血筋を、生産者であり馬主の北村守彦氏が大切に守っているとの事。

400kg前後の小柄な馬体で9月にデビューして最低人気ながら4着(6頭立て)と掲示板を飾るがその後はシンガリ負けやそれに近い苦戦が続いた。しかし、近走では最低人気ながらも5着(9頭立て)と再び掲示板を飾り上昇の気配が出てきている。

デビューから7戦1400m戦を使い続け、タイムもデビュー時から5秒近く縮めてきている。
7戦中最低人気が6回、ブービー人気が1回の彼と、地方から中央へ移籍して全国を席巻したあの血統の逆襲が始まっているのかもしれない。

キタスイッチと魚住謙心騎手(撮影miwa)

中央ではほとんどお目にかかれないような馬の名前を血統表で見ることができるのは地方の魅力の一つ。古臭いとか化石と言うなかれ。その血脈が残る、血統を残す事に意義があり、それが今の血統が行き詰まった時の起爆剤になるのかもしれない。

多様な血統のゆりかごのように、今日も金沢競馬であの名馬の血を引く馬が走っている。

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