
『子供の頃に読んだ物語の世界では、王子様は必ず白馬に乗ってやって来る』
美由紀さんにとって、「白馬」は神聖なもので、その鞍上の男性は絶対に素敵な人である…。
物心ついた頃から、父親にくっついて競馬場通いをしていた美由紀さん。ポニーの試乗にふわふわドーム、ベンチに座って食べるアイスクリーム…中山競馬場の内馬場は、庭のように慣れ親しんだ遊び場だった。メインレースになると父親と一緒にパドックに陣取り、歴代の名馬を見てきた。ディープインパクト、ウォッカ、ハーツクライなど、父親が「スゲェなあー」と口走る馬は一生懸命見たつもりだ。凛々しい顔立ちの馬たちは、レースが始まると凄い走りを披露する。ただ、それらの馬たちの鞍上は、見慣れた武さんやアンカツさんが多く、美由紀さんが大好きな「嵐の松潤」みたいな若い騎手はいなかった。
馬がいても中山競馬場には、白馬の王子様なんていない〜と思っていた矢先、メインレースのパドックに白馬の王子様が現れた。
2008年皐月賞。パドックに現れたのは、黄色と黒のストライプの勝負服を纏ったヤングジョッキー。白い馬に乗った王子様が美由紀さんに向かって周回してくる。武さんとアンカツさんと、その他おじさん騎手の3パターンしかなかった美由紀さんの「騎手名鑑」に、新たなパターン「白馬に乗ったお兄さん騎手」が刻み込まれる。父に名前を聞き、「カワダユウガ」という名前の騎手であることを知った美由紀さんは、俄然カワダ騎手に注目した。カワダ騎手はゼッケン6番の白い馬、キャプテントウーレをスタートから先頭に立たせると、他馬を従えて競馬場を1周回り先頭のままゴールインする。デビュー5年目、23歳のお兄さん騎手が、武さんやアンアツさんの追撃を封じて逃げ切ったことで大喜びした美由紀さん。優勝インタビューでターフビジョンにその姿が映し出された時、小学生だった美由紀さんの心が射抜かれた。カワダ騎手の髪形は、オールバックでも、七三分けでも坊主頭でもない。ルックスこそ違えど、嵐のメンバーたちと同じような髪形だった。
美由紀さんの「川田推し」は大人になっても変わっていない。時々瑠星君や明良君に靡きかけるものの、川田ファーストは馬券も含め貫いている。ただ、子供の時に見たキャプテントウーレとカワダ騎手は、「白馬に乗った王子様」ではなかったという事実を知ることになる。大人になって知ったことは、キャプテントウーレは芦毛で、実は白毛という毛色が別にあるということ。英語表記でも芦毛は“Glay”で白毛は“White”となり、白馬は白毛の馬である。年齢を重ねて真っ白になった芦毛馬と、ソダシの白い毛色を比べてみると、明らかに違う。ソダシを初めてパドックで見た時、その鮮やかな白さに感動し「白馬=白毛馬」を再認識した。
川田騎手の白毛馬への騎乗は、何度か見ている。マシュマロが、白毛馬初の新馬勝ちした時の鞍上は川田騎手だった。シロニイにも騎乗し平場の条件戦を勝っている。しかし、ソダシが白毛馬としてGⅠを3勝した時の鞍上は、いずれも吉田隼人騎手だった。
ねがわくば、白毛馬に川田騎手が騎乗してGⅠを勝ってもらいたい。そして、美由紀さんの「白馬に乗った王子様」像を完結して欲しい。ただし、川田騎手に「王子様」のイメージが残っているうちに…。話題の白毛馬が登場する度に、美由紀さんはそんなことを思うようになった。
チャンスがやって来たのは、ソダシの引退レースとなる2023年の安田記念。ソダシの鞍上が、川田騎手と発表された。前走のヴィクトリアマイルではレーン騎手が騎乗し、ソングラインに差されたものの2着にまとめた。まだまだ、力の衰えは無いはずだ。テン乗りでも、川田騎手ならソダシを勝利に導くのでは…。そんな期待を胸に、美由紀さんは満員のパドックに陣取った。

逃げるウインカーネリアンをジャックドールと共に追いかける展開も、最後は後続に飲み込まれて、優勝のソングラインから0秒6差の7着で、ソダシはフィニッシュした。
結局、ソダシと川田騎手による「白馬に乗った王子様」の実現は叶わなかった。
ソダシの跡継ぎは、安田記念から2週間後の府中競馬場に現れた。美浦・宮田厩舎所属のアマンテビアンコ、ユキチャンが送り出す白毛の牡馬である。パドックで見た、父ヘニーヒューズの純白の馬体は、美しさに迫力が加えられていた。C・ルメール騎手を鞍上に、レースでは圧巻の末脚を繰り出して楽勝した。翌日のスポーツ紙は、どこも白毛牡馬のデビュー勝ちを写真入りで報じている。美由紀さんは満足そうに読みつつも、関東馬、初戦でC・ルメール騎手が騎乗したとあれば、川田騎手に回ってくることは無いと確信していた。
アマンテビアンコは、11月のカトレアSで2勝目を上げると、翌年よりスタートする中央・地方交流の「3歳ダート三冠競走」の路線を歩むことが発表される。もちろん、C・ルメール騎手で…。
三冠出走に向けた第一歩として、アマンテビアンコは雲取賞に出走。スタートで躓くも2着に追い込み、第一冠羽田盃の出走権を確保した。

羽田盃はアマンテビアンコ中心——。3歳ダート三冠競走の初戦は、アマンテビアンコとC・ルメール騎手が制覇すると思われていた。しかし3月末、C・ルメール騎手が、米国馬キャットニップに騎乗したドバイターフで落馬負傷する。助骨・鎖骨骨折、更に肺に穴が開く重症を負ったC・ルメール騎手は、羽田盃での騎乗が不可能になり、川田騎手への騎乗変更が発表された。

4月の雨が降り続く、夜の大井競馬場。美由紀さんが見ている前を正真正銘の「白馬に乗った王子様」が通過する。ナイター照明に照らされたアマンテビアンコは、馬体の白さが際立っている。初めて見た時からは、ずいぶん年齢を重ねてきた川田騎手。それでも、美由紀さんにとっては大好きな「お兄さん騎手」である。夢中でスマホを向けながら、先頭でのゴールを祈った。

夢の実現は、ゴール前100mで完結する。直線に入っても軽快に飛ばすアンモシエラを、先頭集団を追走していたアマンテビアンコと川田騎手が、満を持して外から交わした。
美由紀さんが見ている前を「白馬に乗った王子様」が通過する。白毛のアマンテビアンコに川田騎手が騎乗してJpnⅠのグレードレースを制覇した。記念すべきダート新体系三冠レースの初戦は、白毛馬がその名を刻んだ。同時に美由紀さんが小学生の時に見た、芦毛のキャプテントゥーレと川田騎手が「白馬に乗った王子様がGⅠレースを制覇する」シーンは、アマンテビアンコにより本当の『白馬』で上書きされた。

次は、中央のGⅠで川田騎手が白毛馬に騎乗して優勝するシーンを見たいと美由紀さんは思っている。そのためにも、白毛馬のことをもっと研究し、次に登場する白毛のヒーロー、ヒロインを誰よりも早く発見したい。そして、その馬に川田騎手が騎乗してくれたら最高だ。
Photo by I.Natsume
![[イベント]『サラブレッド大辞典』刊行記念! 「競馬好き声優・折原日菜さんと体験するサラブレッドのひみつ─毛色・馬体・血統がわかると、競馬はもっと面白い!─」が開催(3/9、オンライン&アーカイブ配信あり)](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/03/IMG_7141-300x300.jpeg)
![[今週の競馬]今年初の中京開催スタート! 日曜には金鯱賞が開催](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/03/202603082-300x200.jpeg)