
「三冠馬が出るかもしれない」
2025年の皐月賞は、競馬歴が短ければ短いほど、胸が高鳴るようなクラシックとなっているように感じていた。
というのも、コントレイルの牡馬三冠はコロナ禍という事もあり観客の動員はなく、観客を前にしたクラシック三冠馬となると2011年のオルフェーヴルが最後となる。逆に言えば、ある程度拮抗したクラシックが続いていたという事が言えるだろう。
だが2025年は少々様相が違った。絶対的な三冠候補、クロワデュノールがいたのだ。
世代情勢
クロワデュノールは、名馬への登竜門・東スポ杯2歳S、2歳GⅠホープフルSと続けて勝利し世代のトップに君臨。皐月賞へは直行が発表された。
皐月賞トライアルとなる3レースの勝者である、ファウストラーゼン(弥生賞)・ピコチャンブラック(スプリングS)・ジョバンニ(若葉S)はホープフルSですでに負かしており、きさらぎ賞を勝ったサトノシャイニングにも東スポ杯で勝ちきっていた。
皐月賞出走馬で所謂「格付け」が済んでいないのは、有力どころでは京都2歳S勝ち馬のエリキングのみ。そのエリキングも骨折休養明けのぶっつけ本番という事もあり、不安視する声が上がっていた。
今年の3歳牡馬クラシック路線はクロワデュノールを頂点として、以下の有力馬は横一線に並んでいるイメージ。ただ、頂点と言われているクロワデュノールも直行ローテという事で全幅の信頼まではおけないという意見もあった。

波乱の皐月賞
結果は、ご存知の通り。絶対的な世代の頂点と思われたクロワデュノールは敗れた。僕としては彼の勝ちを疑ってなかったし、疑いたくなかった。疑う必要などないとすら思っていた。
それほどに僕は、彼に、彼の存在に心酔していたようだが、競馬の神様とはなかなかに意地の悪いものである。僕の父は「意外とミュージアムマイルが三冠を獲ったりしてな」なんて言っていた。そうなるかもしれないと予感させるレースであったことは間違いない。
王者として君臨していたクロワデュノールが2着に敗れたことで、世代のピラミッドが崩れた。勝てないと思っていた馬にわずかなほころびが生じた。まして次の舞台、ダービーは東京だ。トリッキーな中山コースが合わなかったという出走馬もいたであろう。東京でなら…と考える陣営・騎手も確実にいるはずだ。
そういったクラシック世代でこそ生まれるドラマも含めて、個人的にではあるが、2025年のクラシックは例年に比べ、なかなかに華のあるメンバーの揃っている世代の様にも感じられる。
そして頂点へ
繰り返しにはなるが、皐月賞が終われば次の目標は東京競馬場、日本ダービー。クロワデュノール・ミュージアムマイルと同世代の3歳馬は、全部で7,868頭にものぼる。
日本競馬において、数あるGⅠの中でも最も格の高いレースの一つであり、日本の競馬ファンのみならず、海外や競馬ファン以外にも大きな注目を浴びるレースであることは間違いない。
競馬関係者にとってはここが期の切り替わるタイミングという話もよく聞く。翌年のダービーを目標にまた一年が始まるというわけである。

多くのドラマが生まれ、多くの感動を呼び、多くのジョッキーが憧れ、同時に歓喜や無念の涙を流してきた舞台である日本ダービー。
数ある世代戦を勝ち抜き、怪我をすることもなく、無事にこの頂上決戦たどり着いたエリートの中のエリートたちの、さらにその一握りのみが今年も集っている。
皐月賞馬となったミュージアムマイルが二冠達成となるのだろうか。2歳王者クロワデュノールの逆襲、もとい王座奪還となるのだろうか。
トライアルから優先出走権を得たファイアンクランツ、ショウヘイたちはどうだろうか。皐月賞組の巻き返しはあるのだろうか。
一強状態と言われていた世代が、世代の頂上決戦である日本ダービーを前に、混戦を感じさせる情勢へ変わっているように感じる。
すべての競走馬の活躍を願って
オグリキャップの馬生を描いたアニメ「シンデレラグレイ」も放映され、ウマ娘界隈もこれまで以上に活気を見せている。この流れは競馬界にもいい影響をもたらすことは間違いないだろう。
シンデレラグレイで好きなセリフがある。
一流のウマ娘に必要なことはなにか。人々を惹きつけるカリスマ性があるか。一着を獲り続ける圧倒的な力があるか。或いは…人に夢を見せる力があるか
このセリフはそのまま、日本問わず全世界のサラブレッドに用いてもなんら遜色ないセリフだ。
2025年クラシックであれば、ある人にとってはクロワデュノール、またある人にとってはサトノシャイニング、更に別の人にとってはミュージアムマイルである。別路線はどうだ。人の数だけ答えがある。人の数だけ夢がある。
すべてのサラブレッドが一着を獲れるわけではない。そこは勝負の世界だし、そうあるべきだと思う。また、すべてのサラブレッドが無事にゴールにたどり着けるわけではない。
ただ、僕は2025年の牡馬クラシック世代に大きな夢を見ている。
スペシャルウィークをはじめとした黄金世代と呼ばれる98世代に次ぐ、新たな黄金世代と呼ばれる世代に──歴史に燦然と輝くような世代になれるのではないかと感じている。
がんばれ。負けるな。
君たちが一生懸命に走るターフの先には、君たちが想像もしていないような未来が待っている。
約束された不定形の未来へ。