白毛一族は芝でも重賞を勝てる - 2020年札幌2歳S・ソダシ

流行語大賞に選ばれた「そだねー」という言葉を覚えているだろうか?

2018年平昌五輪女子カーリングで銅メダルに輝いたLS北見の選手がコミュニケーションを取るのに使っていた北海道弁である。標準語に訳すと「そうだね」という意味だ。そのLS北見の支援者である國分純氏が自身の所有馬に「ソダネー」と名付けた。ちなみにソダネーの母は同馬主でカアチャンコワイという馬。「母ちゃん怖い」「そだねー」と親子の馬名で会話が成り立っている。

その2年後に「ソダシ」と名付けられた馬が登録された。馬主は金子真人HDである。この馬名を聞いたとき、「そだねー」の活用形かと思った。標準語に訳すと「そうだし」のことなんだろうな、と。ソダシは白毛馬だが、その母の母は白毛馬シラユキヒメ。シラユキヒメから連なる一族は白毛馬が多いが、白毛馬が金子真人さんの所有馬になるとユキチャン、マシュマロ、シロインジャーなど「白」に因んだ馬名が付けられることが多い。ソダシの母ブチコにしても、白とは直接関係がないものの、見た目からその名前が付けられている。「ここに来てこの白毛馬はなぜ外見と無関係な『ソダシ』と名付けられたのだろうか?」と感じた。

登録されている馬名の意味・由来を調べたところ、ソダシは北海道弁ではなくサンスクリット語なのだそうだ。「純粋、輝き」という意味らしい。なるほど、純粋とはしばしば白色で喩えられる。きっと、母は白毛に斑があったが、その仔は先祖返りなのか混じり気のない純粋な白毛だったので、ソダシ(純粋)と名付けられたのだろう。

函館の芝の新馬戦でデビューしたこの馬は、7頭立てで3番人気と、そこまで人気になってはいなかった。牝系にダート馬が多いシラユキヒメ一族な上に父がクロフネというコテコテのダート血統と思われる馬が、芝のレースに出てきたことにもよるのだろう。しかし、その新馬戦はあっさり勝って、約2ヶ月後の札幌2歳ステークスに駒を進めた。

札幌2歳Sでのソダシは2番人気だった。重賞勝ち馬の仔で芝1800mの新馬戦を快勝しているが、ダートのイメージがあり、また、札幌ではなく函館で勝ち上がったせいか、札幌で新馬戦を勝ち上がったバスラットレオンの方が人気だった。希少価値があって見栄えもする白毛馬は人気先行になりやすい印象もあるが、それでも1番人気は別の馬に譲ることとなった。

レースが始まると、ソダシは道中、中団の外につけた。外枠だったので外につけるしかなかったのだが、捲り気味に上がっていくには絶好のポジションである。3コーナー手前から徐々に進出すると、3コーナー過ぎで先行する人気馬バスラットレオンに並びかけて先頭に立った。バスラットレオンの外に被せるように4コーナーを回って来る。この2頭のマッチレースになるかと思われた。直線に入るとソダシの純白の馬体が抜け出していった。後方からはユーバーレーベンが物凄い脚で迫ってきたが、どうにかそれを振り切って、白い馬体が先頭でゴールを駆け抜けた。見事なレコード勝ちだった。ダート重賞で活躍したブチコの仔が、芝の重賞を制した。真っ白な馬体が緑の芝に映えていた。白毛馬の芝重賞制覇は史上初だそうである。

余談だが、この翌日の小倉2歳ステークスを勝ったメイケイエールもシロインジャー→ユキチャンと連なるシラユキヒメの牝系である。2日連続で白毛一族シラユキヒメ牝系の馬が2歳重賞を制した。ただし、メイケイエールは白毛ではなく鹿毛である。ダートの活躍馬を多く輩出してきた牝系が、2日連続で芝の重賞を制したことになる。

本質的にダート馬だが仕上がりの早さで2歳の早いうちは芝でも活躍する馬というのは、ありがちなパターンである。正直、この時点で私はソダシも(そしてメイケイエールも)そのパターンだと思っていた。

しかし、ソダシはその後もアルテミスステークス、阪神ジュベナイルフィリーズを勝つと、鉄砲で桜花賞を制し、3歳夏には古馬と対戦して札幌記念を制した。その後はダートにも挑戦し、フェブラリーSで牝馬ながら3着に好走する。その後は芝に戻りヴィクトリアマイルを制するなど、大いに活躍。メイケイエールも負けじとシルクロードSや 京王杯SCなどを制覇し、2頭は改めて自らの牝系が持つ底力を見せ付けたのであった。

写真:安全お兄さん

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