泥中を駆けた少女。ステイゴールドの血を感じさせたレッドリヴェール

小柄でパワー型で粘り強いといえば、ステイゴールド産駒の特徴の一つであろうか。三冠馬のオルフェーヴルや破天荒で予測不能なゆえにファンが多かったゴールドシップ、障害の絶対王者と称されるオジュウチョウサンなど、個性的で強い産駒たちも父同様に愛されている。今回はそんなステイゴールド産駒の一頭・レッドリヴェールについて語ろうと思う。

レッドリヴェールもまた、父譲りのパワーを受け継いだ代表産駒と言えるだろう。馬体も小柄の方である。どことなく似ているのかも知れない。そんな彼女は阪神JFを勝ち、2歳女王となるのだが、そこに至るまで三連勝している。今回記述する札幌2歳Sはその強さの片鱗が垣間見えたレースと言えるだろう。

2013年8月31日。この日の函館は雨が降っていた。その影響で馬場は不良。となると、良馬場以上にパワーが必要となる。彼女は最内の1枠1番に入っていた。外と比べるとボコボコに見える。荒れた馬場では持っている脚を中々活かせない馬もいる中、彼女には条件が整っていたのかもしれない。小柄な馬体の威力を発揮できる──。

ゲートが開いた瞬間、彼女は最も荒れている最内を走り始める。ここはイン突きを得意としている鞍上の岩田康成騎手の判断であろう。そして中団に構えた。良馬場なら、最内は経済コースではあるが、この日は様子は違う。さらに、中団で運ぶとなると、泥を被る覚悟も必要である。泥を被るのを嫌がる馬もいるが、結果を見る限り、彼女はそのタイプではなかったのかもしれない。もしくは、馬の力を信じての判断でもあったのかもしれない。

一方、先団では、激しい先頭争いが始まっていた。横一線に並び火花を散らすのと同時に泥が舞い上がる。その中で先頭を奪ったのはマイネグレヴィル。対してレッドリヴェールは後方に構え、ひたすら最内を走り、気がつけば後方に陣取っていた。その後のレース展開を考えれば何となく“不気味“であり“侮れない“ようにも見えた。今か今かと進軍の機会を狙っていたのかもしれない。そんな彼女が動いたのは、最終コーナーであった。

最終コーナーを曲がってラストスパート。相変わらず先頭を引っ張るのはマイネグレヴィルだ。が、その時、スペースが空いた。そこを狙ってやってきたのが、レッドリヴェールであった。経済コースを周り、いつの間にか先頭に取り付く位置にやって来ていたのだ。隙をついた彼女は、先頭を奪いにかかった。そして直線を向く。

ここからが手に汗握る展開であった。マイネグレヴィルが押し切るかと思われたが、レッドリヴェールが1馬身差に迫っていた。そして交わしにかかる。そのまま抜かしてもおかしくない状況となった。しかし、マイネグレヴィルも負けてはいない。レッドリヴェールと並んだ瞬間、根性を振り絞って先頭を守ろうとした。レッドリヴェールも負けてられないとばかりにポジションを譲らない。一度は先頭に立ったレッドリヴェールだが、再びマイネグレヴィルも差し返した。勝敗はこの2頭に絞られた瞬間とも言える。ゴール板まで残り僅か……私はこの瞬間、彼女に流れるモノを見た。

ステイゴールドのラストランとなった香港ヴァーズ……何となくそれに近かったように思えたのだ。

燃えたぎるような意志が彼女の中でさらに燃え上がったのだろうか。マイネグレヴィルを再び差し返し、そのままゴール板を駆け抜けた。荒れた馬場を走り続け、好機を狙い、粘り強く走り切った彼女は泥に塗れていた。しかし、美しかった。美しい少女であった。それは、“黄金の血“を証明した瞬間でもあった。

この証明の後、レッドリヴェールは阪神JFに出走する。その展開もどことなく、札幌2歳Sと似ていた。ゴールを目掛けて諦めずに追い込む姿こそ彼女の持ち味と言っても過言ではなかった。翌年牝馬クラシック路線に進むことになるが、一つだけ“大きな挑戦“をした。日本ダービーへの挑戦。牝馬が歩むには敢えて険しい道を選択した。恐らくそれに見合う力があると陣営が判断したのだろう。

陣営といえば、この彼女のローテーションは、このチームならではのものであった。彼女の所属する須貝厩舎は、新馬戦で北の地を選択し、その後の2歳重賞でも札幌2歳Sを使うことで有名だ。彼女もその一頭であった。そして、彼女の先輩にはあのゴールドシップがいる訳だが、彼もまたレッドリヴェールと同じローテーションを使っている。北の大地で才能を開花させるのが、この厩舎の特徴とも言えるだろう。

 さらに運命的と言えるのが、彼女を担当していたのが、ゴールドシップと同じ腕利の今浪隆利厩務員であることだ。そして、その後、この経験が白毛の女王・ソダシへと活かされた。彼女も運命と言うべきなのか、レッドリヴェールと同じローテーションを使い、同じ2歳女王となっている。ひょっとしたら、“この物語“はレッドリヴェールから始まっているのかもしれない。

レッドリヴェールは2016年の札幌記念を最後に引退。奇しくも2歳女王となる契機となった北の大地であった。その後、母として産駒をターフへと送り出しているが、ちょっぴり期待してしまう。親子2代で2歳クラシックを制覇することを……。母が挑んだダービーに挑戦する馬が現れることを……。そして、掴めなかった“最も運の良い馬“の称号を手に入れることを……。

もしかしたら、その血が爆発するのは、母と同じ“北の大地"なのかもしれない。

写真:Horse Memorys

あなたにおすすめの記事