金色の“アイツ“に魅せられて〜『ゴールドシップ伝説』を読んで〜

「アタシと出会えてアンタの人生、面白くなっただろ?」

『ウマ娘』のゴルシちゃんこと、ゴールドシップの台詞である。これが全てだったのかもしれないと思う。ゲームがきっかけで馬という生き物を調べようと思った時、まず調べたのがゴールドシップであった。そして、思った。

──ニンゲンみたいだな、この馬は。

本が好きで歴史が好きな私は、彼と出会ってから、このニンゲンみたいな“ゴルシ“の伝記が発売されないかと密かに思っていた。この馬、かなり面白い。皐月賞で後方にいたのに例の"ゴルシワープ"で先頭に躍り出て一着になったり、宝塚記念三連覇がかかった折に俗に"120億円事件"と呼ばれることになるゲート立ち上がりをしでかしたり、凱旋門賞で観客に所謂"ファンサービス"をしたりと、かなりの個性派である。かと思えば、担当の今浪厩務員さんとタオルで遊んだり「頑張って走ってきたんだから撫でろよ」と言わんばかりに甘えたり…と、どこかカワイイ馬でもある。

そんな"ゴルシ本"の登場を待っていたら、遂に世に出た。

『ゴールドシップ伝説』。

仕事帰りに直ぐに書店に走って購入したのは言うまでも無い。

──読んでみて思ったのは、この馬、かなり分かりやすい。

本書に記されている戦績を見ると、「今日はやる気あるからニンゲン様の期待に応えてやんよ」とか「今日はやる気出ねぇんだよな〜。ま、程々にしとくぜ」とか、"ゴルシの声"が聞こえてきそうである。それから、彼は阪神が好きだったのだろうか。阪神大賞典三連覇に宝塚記念二連覇という戦績から、もしニンゲンだったら、関西弁で喋って、力の出しどころを理解していて、要領よく生きているかもしれない。そんなところが、好物がやきそばというウマ娘ゴールドシップの属性につながったのかもしれない…なんて想像も膨らんだ。

馬券的には、こういう馬は「走ってみないと分からないヤツ」がいると予想しにくいだろうけれど、そういうところが競馬ファンの心を擽ったのだろう。現に"120億円事件"で馬券がパーになったファンの一部が彼にアレコレ言ったらしいが、同時に「ゴルシなんだから仕方ない。批判するな」という声も多かったらしい。多分、私もその場に居て“被害者“になっていたら、「まあまあ批判しないでよ」派だったと思う。その時の馬券はフォルダーに挟んで、宝物として残しておくだろう。

そして、彼が走っていた時、周りのメンバーも豪華なことも印象に残った。

特に彼のライバルと言えば、仲良しの僚馬であり"世界一の豪脚"をもつジャスタウェイ、三冠牝馬のジェンティルドンナだろうか。ゴールドシップ・ジャスタウェイ・ジェンティルドンナ…この"三つ巴"(私はそう呼んでいる)それぞれの代表産駒と言っていいのが、ユーバーレーベン・ダノンザキッド・ジェラルディーナだとして、彼らが同じ2018年生まれでありG1馬であるのは、ファンからしたらオイシイ巡り合わせなのかもしれない。ただ、3頭での直接対決が叶わなかったのが残念だが。

もう一頭、印象的な馬を挙げるとしたら彼よりも年下であるが、ハープスターだろうか。札幌記念での対決後に、鞍上同士が互いの健闘を讃えあうのと同時に、この2頭も何かテレパシーを使って会話しているのでは…? と思わせるような写真を見たことがある。

「お嬢ちゃん、よおやるなぁ」

と言っていたのだろうか。ちなみにこの2頭、本書にも書かれているが、共に凱旋門賞に挑んだ仲である。札幌からロンシャンへ夢が駆けていった瞬間をこの目に焼き付けたかったという私の後悔は嘘ではない。

もう一つ興味深いと思ったことがある。ゴールドシップの心音の話だ。何でも、「ドーンドーン」というバズーカみたいな音だったという。そういえば、こんな話を聞いたことがある。『スタミナのある馬は心臓が強い』と。淀を愛したと呼ばれるライスシャワーも小柄な馬体ながら、心臓の音は強かったらしい。一度聞いてみたいものだが、タフな馬というのは、ゴールドシップのような馬なのかもしれない。現に彼は、現役を終えた後の検査で馬体にほとんど異常が見られなかったという。気分屋だったという説もあるようだが、もしかしたら、この"バズーカ音"が関係しているのでは…? と思ったりもした。

心音だけでなく、ゴールドシップは身体も柔らかいらしい。そういえば、陸上選手の如くクラウチングスタートのような格好をしている彼の写真も見たことがあるが、あれも体が柔らかいからこそ成せる技なのだろう。まぁ、あれはクラウチングスタートをしようとしていたのではなく、立ち上がるところを撮った写真が偶然そう見えたらしいが…しかし、エンターテイナーなところもある彼なら、そういう"ファンサービス"をしてもおかしくはないかもしれない。

知れば知るほど、この馬、面白いヤツである。
彼の父、ステイゴールドのヒーロー列伝のキャッチコピーは『愛さずにはいられない』であるが、この言葉をゴールドシップは受け継いだように思える。繁殖生活を送っているビッグレッドファームで、のびのびとした生活を送っているゴールドシップも見てみたいが、やっぱり、彼が走っている姿が見てみたかった。タイムマシンが開発されたら、彼の現役時代に時を戻してみたいものだが、まだまだその夢は叶いそうにない。

──しかし、ゴールドシップは夢を紡いでくれている。

2021年のオークス。先述したユーバーレーベンはゴールドシップの子供である。ビックレッドファームの総帥・岡田繁幸さんが亡くなった後の“天に捧げるG1制覇“という物語と共に、ゴールドシップがG1馬の父となった瞬間でもあった。胸の奥が熱くなったのは、今でも覚えている。他にもウインキートスやウインマイティー、ブラックホールも相馬野馬追で活躍している。子供たちが色々な夢を見せてくれるから、退屈ではない。

幸いにも私が暮らしている近くに競馬場があり、よくそこへ行くのだが、レープロを手に入れて必ずすることがある。「父ゴールドシップ」の表記を探すことだ。一頭でも見つけると胸がドキッとする。パドックにウキウキして向かって、"ゴルシっ子"の写真をパシャパシャ撮る。どの子も父譲りのつぶらでキラキラした目をしていたり、芦毛だったりして、可愛い。そして『父のような追込を魅せてくれないかな』と思ったりもする。彼の産駒たちに夢を託す形で、間接的に、ゴールドシップの走りをこの目でみたかったという想いを私自身も紡いでいるのかもしれない。


話が変わるがある日、競馬場へ行くとゼッケンプレゼントという企画が行われていた。どの馬のゼッケンに応募するか迷っていたが、その中に"ゴルシっ仔"のものを見つけた。「ゴルシっ仔のゼッケン欲しい!」と、勢いで応募した。そうしたら、当たってしまったのだ。嬉しいハプニングである。

手渡されたゼッケンを見ると、馬の毛がついていた。

「ゴールドシップからのプレゼントかな」

いつかこのゼッケンを身につけていた馬も、父にたくさんのプレゼントを与えてくれないかという新しい夢を見つけた。これからもゴールドシップという馬は、スケールの大きな夢を与え続けるだろう。

すっかりゴールドシップという馬に魅せられてしまったようだ。

「アタシと出会えてアンタの人生、面白くなっただろ?」

──うん、面白くなったよ、“ゴルシちゃん“

「結局お前はオレのこと愛しているんだろ?」

──うん、愛しているよ、“ゴールドシップ“

この本には、こんな言葉がある。

「愛するのか、愛せないのか」

愛せない訳がないじゃないか! 黄金の"アイツ"のことを!

写真:Horse Memorys


ゴールドシップの魅力や強さの秘密、ライバルたちにスポットをあてた新書『ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児』が2023年5月23日に発売。

製品名ゴールドシップ伝説 愛さずにいられない反逆児
著者名著・編:小川隆行+ウマフリ
発売日2023年05月23日
価格定価:1,250円(税別)
ISBN978-4-06-531925-3
通巻番号236
判型新書
ページ数192ページ
シリーズ星海社新書
内容紹介

気分が乗れば敵なし! 「芦毛伝説の継承者」

常識はずれの位置からのロングスパートで途轍もなく強い勝ち方をするかと思えば、まったく走る気を見せずに大惨敗。気性の激しさからくる好凡走を繰り返す。かつてこんな名馬がいただろうか。「今日はゲートを出るのか、出ないのか」「来るのか、来ないのか」「愛せるのか、愛せないのか」...。気がつけば稀代のクセ馬から目を逸らせられなくなったわれわれがいる。度肝を抜く豪脚を見せた大一番から、歓声が悲鳴に変わった迷勝負、同時代のライバルや一族の名馬、当時を知る関係者・専門家が語る伝説のパフォーマンスの背景まで。気分が乗ればもはや敵なし! 芦毛伝説を継承する超個性派が見せた夢の航路をたどる。

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