坂東“女”武者、情熱の一騎駆け。 - 2006年フィリーズレビュー・ダイワパッション

「坂東武者(ばんどうむしゃ)」。
昨年の大河ドラマではこのセリフが頻繁に出てきた。

──坂東武者の世を作る!
──坂東武者の名折れでござるぞ!

坂東は現在の関東地方。
坂東武者は新しい時代を切り開く武勇に優れた武士というイメージだ。
ダイワパッションを思うとき、坂東“女”武者というフレーズが頭に浮かぶ。


──この年の牝馬クラシックは混戦模様だった。

前年に行われた阪神ジュベナイルフィリーズは8番人気の伏兵・テイエムプリキュアが勝利。
そのテイエムプリキュアも年明け初戦のチューリップ賞では1番人気に応えられず4着に敗退する。
クイーンカップは阪神ジュベナイルフィリーズ6着のあと、年明けの菜の花賞を勝って1番人気に支持されたコイウタが勝利したものの、2着は6番人気、3着は11番人気で3連単は10万円超えの波乱となった。

結論を先に言えば、その後の桜花賞は6番人気のキストゥヘヴンが勝利。オークスは2月にデビューしたばかりのカワカミプリンセスが、暮れから春までの同世代牝馬の争いをあざ笑うかのように3番人気に支持されて勝利することになる。

ただ、そうした未来のことを知る由もなく、フィリーズレビューもご多分に漏れず混戦模様で、どの馬が勝ってもおかしくない様相を呈していた。

……そんななか、あえて、翌週に中山競馬場で開催されるフラワーカップではなく、ここを選んだ関東馬がいた。それが、ダイワパッション。美浦の増沢末夫厩舎所属、出走馬16頭のなかで唯一の関東馬であった。

レース当日は時おり小雨もちらつく曇り空。芝は稍重の発表であった。
1番人気はエルフィンステークスの勝ち馬サンヴィクトワール。2番人気は4連勝でファンタジーステークスを制し、阪神ジュベナイルフィリーズでも1番人気であったアルーリングボイス。

ダイワパッションはこれらに続く3番人気。初勝利までは4戦を要したものの、そこから3連勝で暮れのフェアリーステークスを勝利してここに臨んできた。

さらに地方5連勝で園田クイーンセレクションを勝った金沢のセンパツトモも参戦。並みいる中央馬に交じって7番人気に支持されていた。

レースは、そのセンパツトモが集団を引っ張る展開。
2番手にエイシンアモーレが取り付き、ミッキーコマンドが3番手の絶好位につける。
そこから少し離れたところをテイエムヒスイが追走し、ダイワパッションがこれに並ぶ。
続いてカノヤザミラクル。ツルミトゥインクルとグレートキャンドルは、中団馬群のど真ん中で並走している。
少し間隔を置いてユメノオーラとアルーリングボイスが中団後方に位置し、クリノスペシャルとヤマニンエマイユが続く。1番人気サンヴィクトワールは後方4番手でじっくりと脚をため、さらにその後ろではセントルイスガールとマチカネタマカズラ、少し離れた殿にフミノサチヒメがいる隊列で最初のコーナーを通過した。

エイシンアモーレがセンパツトモを交わして先頭に立ったこと以外は大きな動きを見せることなくレースは淡々と流れ、早くも4コーナー。先頭はエイシンアモーレでリードは1馬身。2番手にセンパツトモとミッキーコマンドが続く。ダイワパッションがその直後に続き、1馬身離れてテイエムヒスイで最終コーナーを通過。

直線コースに入ると、絶好位にいたダイワパッションが自慢の末脚を伸ばす。
粘るエイシンアモーレを残り150mの地点で交わして先頭に立つ。
後ろからユメノオーラが飛んでくる。

しかしダイワパッションは手ごたえ十分で、ユメノオーラに1馬身4分の3差をつけてゴールを駆け抜けた。

3着には途中から先頭に立っていたエイシンアモーレが粘りこみ、 そこから更に2馬身半離された4着にアルーリングボイスが続いた。一番人気に支持されたサンヴィクトワールは末脚不発で12着に惨敗。
これでダイワパッションは未勝利から4連勝、フェアリーステークスに続く重賞2勝目となった。

関東馬によるこのレースの勝利は実に17年ぶり。
当時囁かれていた西高東低に反旗を翻すがごとく、ただ1頭で乗り込んできた関東娘は見事一騎駆けに成功してみせた。

その後桜花賞へと駒を進めたダイワパッションだったが、4番人気に支持されたものの距離の壁もあったのか16着に惨敗。3か月の休養を経て選んだ復帰初戦は函館スプリントステークスを熱発で取り消すと、ここから歯車が狂い始める。

当時の担当厩務員さんのインタビュー記事によると、この熱発がきっかけとなって完全に崩れてしまい、ゴトゴトしたり馬場入りをゴネたりの悪循環に陥ってなす術がなかったようだ。
その後もダートを使ったり距離を伸ばしてみたりと試行錯誤を続けたが結果を出せずに2007年12月の尾張ステークスを最後に引退となった。
引退後は北海道三石町で繁殖牝馬となり、2018年の皐月賞馬エポカドーロも産んだ。

重賞2勝、繁殖牝馬としてもG1馬を輩出するなどの活躍をみせたダイワパッションだったが、彼女には他にも大きな功績がある。ダイワパッションは、JRAブリーズアップセール出身馬。
同セールはJRAが全国のサラブレッド1歳馬市場で購入し、JRAの施設で育成された馬が上場される、いわばJRAの肝いりともいえるセール。

その第1回において2900万円の最高落札額で取引されたのがダイワパッションであった。
「何事も最初が肝心」という意味ではダイワパッションに込められた期待が相当程度に大きかったことは想像に難くない。
その期待に応え重賞2勝の成績を残したダイワパッションの活躍は、JRAブリーズアップセールの評価を大いに上げ、その後の興隆に大きく貢献したといえる。

今でこそ育成技術の高さを背景に馬主からも高い信頼を得て、毎年上場馬をほぼ100%で売却するような2歳セールの中心的存在となっているが、その始まりはダイワパッションの活躍であったといっても過言ではないのかもしれない。

 坂東“女”武者のフィリーズレビューでの“一騎駆け”はその象徴的レースであったように思う。 

写真:かぼす、緒方きしん

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