[フェブラリーS]トーシンブリザード、フリオーソ…砂の頂で夢の扉に手をかけた地方2頭の激闘を振り返る。

1999年のフェブラリーSで一頭の地方馬が歴史の扉を開いた。メイセイオペラによるJRA・GI制覇。それから20年以上が経った今でも、彼に続く者は現れていない。数々の地方馬が挑戦し届かなかった頂。だが、2頭の地方馬が夢の扉に手をかけている。トーシンブリザードとフリオーソ……2頭の活躍に加え、地方の雄vs中央の猛者というテーマで、激闘のフェブラリーSを振り返る。

トーシンブリザードが挑んだアグネスデジタルの“絶対的空間”

クロフネやアグネスタキオン、ジャングルポケットがJRAの牡馬クラシックを盛り上げていた頃、南関東で伝説を残したのがトーシンブリザードだ。デビューから無敗で全日本3歳優駿を制すと、翌年の南関東クラシック戦線で異次元の強さを見せる。

逃げても、控えても、馬なりで圧勝。“最強”という言葉1つでは片付けたくはないが、他に見つからないのだから仕方ない。ただただ、圧倒的な走りで南関東3冠+ジャパンダートダービーを制覇。その後、骨折もあり東京大賞典で連勝はストップするが、年明け2002年のフェブラリーSでの完全復活を期していた。

そんな彼の前に立ちはだかったのが、“稀代のオールラウンダー”ことアグネスデジタルである。盛岡・南部杯→東京・天皇賞(秋)→シャティン・香港CとGI・3連勝中でまさに絶頂期。2頭の他にも前年のドバイWC2着馬トゥザヴィクトリーやGI馬ウイングアローなど豪華メンバーが集ったが、それらを差し置いてアグネスデジタルが1番人気に支持された。

レースはノボジャックの好発から始まった。アグネスデジタルも勢いよく飛び出していき、各馬を捌いて好位。トーシンブリザードはアグネスデジタルをちょうど“1馬身”ほど前に見る好位置に付けた。道中も2頭は綺麗に縦に並んで追走。トーシンブリザードの鞍上・石崎隆之騎手は「目の前にいるアイツを負かせば…」と考えていたことだろう。

4コーナーでアグネスデジタルが先に動くと、トーシンブリザードも後ろから連れて動く。直線に入りアグネスデジタルが先行集団を飲み込もうとした瞬間、更に外から飛んでくる緑の貸服トーシンブリザード。一気に差し切るかに思えたが、王者強し。詰まらぬ絶対的な“空間”。それは“1馬身”だった。

トーシンブリザードも上がり最速の末脚を繰り出したが届かぬ王者。結果は悔しい2着に終わった。だが、相手はキャリアの中で6つのGIタイトルを手にする稀代の名馬。一頭の生え抜き地方馬が見せた王者の“絶対的空間”を脅かさんとする走りも、讃えられるべきだと私は思う。

「もしも」の衝動に駆られる フリオーソvsトランセンド

2000年代後半〜2010年代前半における地方競馬の雄といえば、フリオーソと答えるファンが多いだろう。地方所属ながらGI級競走を6勝。NARグランプリを7年連続で受賞し、地方馬の歴代最多獲得賞金記録を残すなど、活躍は「地方」という枠組みに収まらず、日本のダート競馬に名を残した一頭だ。

2歳時に全日本2歳優駿を制し、3歳時にはジャパンダートダービーを勝利。古馬になってからも毎年グレードタイトルを獲得していたが、全盛期を迎えたのは6歳から7歳冬のこと。2010年5月のかしわ記念から、GI級競走を中心に6戦連続で連対。申し分ない成績を残して2011年のフェブラリーSに駒を進めた。

当日は3番人気と多くの支持を集めたが、1番人気に推されたのは前年のジャパンカップダート覇者トランセンドだった。日本テレビ盃ではフリオーソの後塵を拝したが、逃げ脚に磨きをかけてGIタイトルを獲得。JRAのダート路線で筆頭格に躍り出ていた。

トランセンドとしてはホームJRAの舞台でタイトルを譲るわけにはいかないし、フリオーソにとっては一度倒した相手にリベンジを許す訳にはいかない。15時40分。地方のエースと、JRAの超新星による戦いの火蓋が切られた。

ゲートが開くとトランセンドが勢いよく飛び出していきハナに立ったが、フリオーソはアオって後方に置かれてしまう。これまで逃げ・先行の競馬で結果を残してきたフリオーソにとっては痛すぎる出負け。しかし諦めるわけにはいかない。最後の直線勝負にかけて脚を溜めていく。

トランセンドは各馬を引き連れ淡々としたペースを刻む。11.9、12.2、12.2……決して緩むことはないが、速すぎぬ絶妙なラップ。後続は仕掛けることも出来ず、ジワジワとスタミナが削がれていく。直線に入っても手応え十分のトランセンドは、マチカネニホンバレやバーディバーディを競り落とし絶好の勝ちパターン。勝負あったかに思われた瞬間、大外から飛んできたのがフリオーソだった。一完歩ごとにぐんぐん差を詰めると、2番手まで浮上。『あと一頭だけだ!』と思った瞬間、ちょうど同じくしてトランセンドの鞍上・藤田伸二騎手の右手が挙がる。無情にも勝負は決した。

着差は1馬身半。全体的に前残り決着の中で一頭だけ目立った伸び脚を見ると「もしも出遅れがなかったら……」と考えてしまう。トランセンドはその後ドバイWCでも2着に入る活躍。そんな非凡な才能を持ったトランセンドと互角の勝負をしたのだから、フリオーソが勝っていれば世界でも──。いや、勝負に「もしも」は禁句だ。この位にしておこう。

写真:水軍、s.taka、かず

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