[連載・馬主は語る]種牡馬の受胎率(シーズン3-18)

来シーズンの種付けの予約が始まりました。スプリンターズステークスでアグリが勝つまでにカラヴァッジオの予約を入れないと、また昨年のように一杯になってしまうかもしれないという危機感を抱きつつ、知り合いの獣医師に電話を入れました。不受胎馬検査や腹貸しなどについて相談したかったこともあります。「来年度はスパツィアーレにカラヴァッジオをつけたいと思っているのですよね」と言うと、「カラヴァッジオは良いですね「血統的にはスキャットダディなど米国血統ですが、ヨーロッパの短距離戦線で走ったように、ごついタイプではなく、バネがありますし、動きが俊敏です」と賛成してくれました。僕はカラヴァッジオを生で観たことがありませんでしたが、実際に観たことのある獣医師とイメージがピッタリでしたので安心しました。

「ただ…、受胎率が良くないと聞いています。普通の種牡馬は大体6割ぐらいですが、カラヴァッジオは3割台だと思います。3頭に種付けすると1頭が受胎するという感じです」と貴重な情報を教えてくれました。彼に連絡をして、僕が聞きたかったのはそこです。血統的にも馬体的にも重厚さが前面に出ているスパツィアーレにとって、スピードと俊敏さがあるカラヴァッジオは好相性であることはたしかです。唯一の心配材料は、受胎率だと僕は考えていました。カラヴァッジオの受胎率は公式に発表されたものではなく、あくまでも風の噂にすぎませんが、前シーズンを不受胎で終えているスパツィアーレにとって、受胎率の良くない種牡馬を配合することは怖いというのが正直なところです。もし何度か種付けをしてみて、受胎しなかった場合、その不妊の原因がスパツィアーレにあるのかそれともカラヴァッジオなのか分からなくなってしまうからです。*2023年度の種付けシーズン後半からは、受胎率が改善されたそうです。

そこで受胎率の良い種牡馬を探してみることにしました。その種牡馬の受胎率を測るには、JBISのサイトを用います。種牡馬の名前で検索して、種牡馬情報のタグの中にある世代・年次別のボタンをクリックします。そうすると、種付け年度ごとの種付け頭数や生産頭数が出てきます。種付け頭数とは、厳密に言うと、種付けした繁殖牝馬の頭数ではなく、何回種付けをしたかの回数です。同じ繁殖牝馬が1度で受胎せずに3回種付けに来たとしたら、種付け頭数は3とカウントされます。一発で受胎すれば、繁殖牝馬は1度しか種付けに来ませんから、つまり生産頭数(産まれた産駒の頭数)÷種付け頭数が、その種牡馬の受胎率ということになります。もちろん、繁殖牝馬側にも受胎率の良し悪しがありますので、種牡馬だけの問題ではない面も多々ありますが、ある程度の母数があればおおよその受胎率は測れるということです。

そうして調べていくと、やはりほとんどの馬は受胎率が60%台であり、70%台に届くのは稀です。この年はたまたま70%台に乗ったけれど、その前後の年は60%台であったり、全体的には60%台に収束している種牡馬が多いですね。生産者の間では、「あの種牡馬は百発百中だ」とか、「あの種牡馬は何度行ってもつかない」など、情報共有という名の噂話はひっきりなしに飛び交いますが、蓋を開けてみると、ほとんどの種牡馬は受胎率が60%台に落ち着くのです。それほど大きな違いはないということです。受胎率が良いと宣伝されている種牡馬も実はそれほどではなかったり、あまり良い話を聞かない種牡馬が意外と高かったりします。また、若かりし頃に比べて受胎率が落ちてきている種牡馬もいますし、同じシーズン中でも2月や3月といった最初の時期に比べて、5月、6月になると受胎率が落ちてくるなんてこともあります。

ルヴァンスレーヴやサートゥルナーリアは受胎率が良いと言われていますが、実際に調べてみたところ、ルヴァンスレーヴは2021年が223回中152頭(68.1%)、2022年が196回中141頭(71.9%)、サートゥルナーリアは2021年が205回中146頭(71.2%)、2022年が195回中139頭(71.3%)と優秀な受胎率を誇っています。

ルヴァンスレーヴ
サートゥルナーリア

さらに調べている中で、ふと手が止まった種牡馬がいました。ビッグアーサーです。2018年から種付けを開始しており、初年度は164回種付けを行って111頭が誕生しています。受胎率は67.6%ということになります。2019年は155回中114頭(73.5%)、2020年は135回中107頭(79.2%)、2021年は107回中71頭(66.3%)、2022年は85回中58頭(68.2%)と実績が出ている過去5年間のうちで2年も70%台を記録し、他の3年も60%台後半という素晴らしい成績です。

ビッグアーサー

2023年シーズンは人気になってしまい、またシーズン途中で休んでいたりして、予約していたにもかかわらず入れませんでしたが、実は受胎率の高い種牡馬だったのです。たまたま枠が空いていて、スパツィアーレが入れたとしたら、もしかすると受胎させてくれていたかもしれないと思うと悔しい気持ちが湧いてきます。でもこうして調べてみて、数字で把握できたことで、2024年のシーズンは株を買ってでもスパツィアーレにはビッグアーサーを配合したいと思えるようになりました。

(次回へ続く→)

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