[連載・馬主は語る]裏腹な気持ち(シーズン1-22)

もしサラブレッドオークションに出てきたらどうしても手に入れたい一口クラブの馬とは、サラブレッドクラブライオンのラフルオリータ(父ハーツクライ)とキャロットクラブのヴァンデスプワール(父モーリス)です。両者とも僕の出資馬であり、競走能力が高く、血統も筋が通っています。

簡単に説明しておくと、ラフルオリータの母リュシオルはスプリンターズステークスを制したスリープレスナイトの全妹です。母系を辿ると僕の大好きなヒシアマゾンの母ケイティーズがいて、エフフォーリアを出して勢いを取り戻している一族です。

サラブレッドクラブライオンの取材のとき、ノーザンファームの担当者が「この時期のハーツクライ産駒にありがちな緩さがなく、硬いというわけでもなく、しっかりとしていて力強さがありますね。坂路を50秒ぐらいで上がってくれば良いところを、もう48秒ぐらいが出てしまいますからね。ウッドチップの一番深いところで走らせても、全く苦にしません。とにかく性格が良すぎて、普段の扱いやすさはもちろん、調教に行ってしんどいところでも頑張ってくれます。この時期ですと、きつい調教をすると馬が嫌がったり、逃げてしまったりすることも多いのですが、この馬はそれに耐えられるタフな面もあります。大人しいだけではなく、頑張れる強さも持っている馬です。脚元もカイ葉食いも問題なく、順調すぎるのが怖いぐらいです」と笑顔で語ってくれたのを僕は今でも覚えています。この馬は走りますよという宣伝文句を超えて、担当者にも愛されていることが、ひしひしと伝わってきた1頭でした。

ラフルオリータに関して、僕が観て取ったのは、「骨格の美しさ」と「気性の良さ」、「後ろ肢の伸び」の3点でした。トモにもっと筋肉が付いてくれば、2000mぐらいまでの距離は走ることができそうだと思いました。外見、内面ともに、申し分ない、素晴らしい馬だと思ったのです。

実際には、厩舎の馬の入れ替えの関係でデビューが遅れたり、なぜか栗東トレセンに入ると馬体が緩いと言われ始め、「おいおい、牧場と言っていることがずいぶん違うなあ」と思わせられたり、とりあえずデビューしてみたらレースについて行けず大敗。最終的には坐骨を骨折していることが判明し、長期離脱からのようやく3歳の7月に復帰戦にこじつけたのでした。13番人気の低評価をくつがえすように4着と好走し、復調気配を感じさせ、次こそは勝ち上がれるかと思わせた矢先、フレグモーネを発症してしまいます。

松永幹夫調教師は「出走前日にこのような状況となってしまい、大変申し訳ございません。ここまで苦労があった馬なだけに、私もスタッフも慎重に接してきただけに、申し訳ない気持ちと悔しさでいっぱいです。状態が上がってきているのは確かですし、今週は大きな期待を持っていただけに…。治療をする必要があるため、今週の出走は取消とさせていただきます。時間があればじっくり立て直すことも考えるのですが、残りの未勝利戦も少なくなってきていますので、このまま滞在させて札幌開催での出走を目指す方向で調整させてください。残りのチャンスを掴めるように、最大限に配慮しながら進めさせていただきます」と丁寧かつ前向きなコメントをしてくれました。

その後は、ラフルオリータの体調も安定してきたこともあり、乗り込み量はやや不足していましたが、何とか勝ち上がるためにも8月21日の札幌競馬場ダート1700m未勝利戦に出走することになりました。当日はプラス14kgとやはり重め残りは否めませんでしたが、最後まであきらめずに伸びて3着。この時点で、ダートは苦にしないタイプであることが分かってきました。馬体のつくりや血統からも、芝の中距離をゆったり走らせてあげたい気持ちは山々ですが、腰のことを考えると、今はダートの中距離が合っているのかもしれません。

泣いても笑っても最後のチャレンジとして、ラフルオリータが9月5日の札幌ダート1700m未勝利戦に出走しました。中団から脚を伸ばすも、先に抜けた馬に一歩及ばず2着。4着→3着→2着ときて、あと1回走ることができれば勝ち上がれそうなところで、中央競馬の3歳未勝利戦は終わってしまったのです。

僕はラフルオリータを40分の1口で持っているので、勝ち上がってもらいたい気持ちが8割でした。しかし、馬主となった今となっては、正直な話、残りの2割はもし登録抹消されてサラブレッドオークションに出てくることになったら全力で手に入れて、自分で走らせようという裏腹な気持ちもなくはありませんでした。だってラフルオリータを独り占めできるのですから。

サラブレッドオークションに出品される馬は火曜日の夜にラインアップが決まり、木曜日にオークションが開催されるため、事前にかなりの情報を得ている馬でなければ手が出しづらいというのが正直なところです。出品されてきそうな馬たちを事前に広範囲に調べている方であれば問題ないかもしれませんが、僕は自分の熟知している良い馬が出てきたときにピンポイントで買うしかありません。そのあたり僕はとても古い人間でして、たぶん今流行りの出会い系アプリなどは合わないというか、不特定多数から人生を共にするかもしれないパートナーを選ぶことは難しい気がします。この馬、いやこの人でなければならない理由が見つからないということです。僕は人生も女性も馬も一点突破タイプなのです(嘘)。

一方のヴァンデスプワールは、キャロットクラブの見学ツアーで見染めた馬でした。事前に募集馬カタログの立ち写真を見た時点では、「母の特徴が良く出ている馬だけに、仕上がりの遅いモーリス産駒としては早めから活躍できるのではないか。手脚はスラリと長く、上体には重い筋肉がついていないため軽い走りができるはず。顔つきも精悍。動きを見ると腹回りに余裕があるため、別馬のように重々しく感じるが、絞り込めば」と僕はメモしています。

さらにツアーで実馬を見て、「顔が小さいのが目立つ。胴部は詰まっているため、距離はマイルまでか。手脚は軽く、歩様は素晴らしい。気性的には大人しい」と大きく評価を上げました。とにかく身のこなしが軽かったし、気性的には扱いやすく、その分、レースに行ってもジョッキーの指示に応えることができ、距離の融通性が高そうだと感じたのです。

2018年生まれの募集世代87頭の中で、僕がSAと評価した馬たちはマリアライトの18、ブルーメンブラットの18、オーサムフェザーの18、アディクティドの18、シェアザストーリーの18、ダンスウィズキトゥンの18、そしてピュアブリーゼの18の7頭だけでした。アディクティドの18以外は勝ち上がっており、マリアライトの18はオーソクレースの名ホープフルステークスと菊花賞を2着しています。この7頭の中から、僕が出資申し込みをしたのが以下の5頭で、なんとか出資できたのが(人気のなかった)ピュアブリーゼの18(ヴァンデスプワール)とシェアザストーリーの18(コントゥール)でした。ヴァンデスプワールは実馬を自分の目で見て出資を決めただけではなく、縁もあった馬ということですね。

ヴァンデスプワールは新馬戦を福永祐一騎手を背に4着、続く2戦目はゴール前で他馬に前をカットされる不利があって3着、その後、球節に不安が出てしまったことで長い休養を挟んで、8月14日の未勝利戦に必勝を期して臨んできました。脚元のことを考えると、すぐ次も走れるかどうか分からず、休み明けとはいえここは勝っておきたいレースです。しかし、津村明秀騎手が上手に乗ってくれて、馬も頑張って走ってくれたのですが、2着と僅かに及びませんでした。

新馬戦からの3戦を観ただけで、ヴァンデスプワールは前向きに走り、最後まで頑張りますし、実はスタミナが豊富にあることが分かります。それでも勝てませんでした。やはりレース後はトップラインの疲れが抜けず、球節が少し熱を持っているようで、未勝利戦はあきらめることに。と同時に、中央競馬登録抹消するのではなく、なんと秋競馬で格上挑戦することになったのです。

(次回に続く→)

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