[大阪杯]ダイワスカーレット、ジャックドール、レイパパレ。逃げ切って大阪杯を制した馬たち

春の中距離王を決める大阪杯は、2017年GⅠへ昇格した。芝1600m以上の根幹距離(4で割り切れる距離)、かつ短い直線でおこなわれる古馬混合のGⅠは大阪杯だけ。直近2年の勝ち馬ペラジオオペラのように好位から抜け出す競馬が理想的で、よほど展開に恵まれるか抜きん出た実力の持ち主でない限り、後方一気を決めることは難しい。同じ2000mのGⅠでも、天皇賞(秋)とはその点が大きく異なる。

そんな先行有利の舞台では、同じように逃げ馬の活躍も目立つ。大逃げを打った末に勝利した馬はグレード制導入以降いないものの、後続が追いつけそうで追いつけない絶妙なペース配分で逃げ切る姿は鮮烈。2026年も、メイショウタバルをはじめとする逃げ候補が複数出走を予定しており、逃げ切るかはもちろん、展開のカギを握る存在としても注目される。

今回は、大阪杯を逃げ切った馬たちを振り返りたい。

2008年 ダイワスカーレット

近年は再び牡馬優勢となっているものの、2000年代後半から10年代は牝馬が非常に強い時代だった。その「はしり」となったのが1997年の年度代表馬エアグルーヴで、そこからやや間隔は開いたものの、05年の宝塚記念ではスイープトウショウが強豪牡馬を一蹴した。そして、牝馬として64年ぶりにダービーを制したウオッカとともに「強い牝馬」を体現したのがダイワスカーレットである。

GⅠ5勝の名馬ダイワメジャーの半妹ダイワスカーレットは、栗東・松田国英厩舎からデビューを果たした。引退までの12戦すべてで手綱を取ったのは安藤勝己騎手で、11月の新馬戦を快勝すると、1ヶ月後の中京2歳S(当時は芝1800mのオープン)も制してデビュー2連勝とした。

3歳シーズンは、始動戦となったシンザン記念で、前走先着したアドマイヤオーラに雪辱を許し、続くチューリップ賞でも2歳女王ウオッカの2着と惜敗したものの、桜花賞でリベンジ達成。直線で先に抜け出すとウオッカの追撃を完封し、桜の女王に輝くと同時にクラシックきょうだい制覇も成し遂げた。

その後、オークスは感冒のため回避を余儀なくされるも、秋初戦のローズS、秋華賞、エリザベス女王杯をすべて制し、重賞4連勝でGⅠ3連勝。現役最強牝馬の座に就くと、兄ダイワメジャーと最初で最後の対決となった有馬記念で連勝は止まったもののマツリダゴッホの2着に健闘した。

迎えた4歳春シーズンは、フェブラリーSからドバイワールドCに向かうことが予定されていた。ところが、レース1週間前の調教で右目を負傷。これら2レースの出走は見送られ、当初の予定を変更して臨んだのが大阪杯だった。

11頭立てでおこなわれたこの年の大阪杯は、まさに少数精鋭のメンバー構成だった。2年前のクラシック二冠と前年の天皇賞春・秋を連覇したメイショウサムソンを筆頭に、ダイワスカーレットと同世代の皐月賞馬ヴィクトリーや菊花賞馬アサクサキングスも出走。さらに、GⅠで2着3回の実績があるドリームパスポートなど素晴らしいメンバーが顔を揃えていた。

それでも、ダイワスカーレットの実績は、メイショウサムソンと並んで出走馬中ナンバーワン。そのメイショウサムソンには有馬記念で大きく先着していたこともあり、堂々1番人気でスタートの時を迎えた。

レースは、ほぼ揃ったスタートからエイシンデピュティの鞍上、岩田康誠騎手が手綱を押して逃げようとするところ、ダイワスカーレットが馬なりで並びかけ、1コーナー入口で先頭に立った。向正面に入ると、アサクサキングスがエイシンデピュティに並びかけ2番手を併走。2馬身差でヴィクトリー、次いでメイショウサムソンと追走し、スタートをそろっと出たドリームパスポートは中間点を迎える前あたりからポジションを上げはじめ、7番手に位置していた。

前半1000m通過は59秒6のミドルペースで、離れた最後方に位置していたダイナミックグロウ以外の10頭はおよそ8馬身の圏内。その後、残り800m地点でダイワスカーレットがペースを上げると、他の10頭もこれに追随して一団となる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、アサクサキングスがダイワスカーレットに体半分のところまで迫り、坂に差しかかったところで一度は並びかけた。しかし、安藤勝騎手が左鞭を2発入れると、一瞬でアサクサキングスを突き放し、再び1馬身半のリード。さらに、ゴール前では内からエイシンデピュティが差を詰め、アサクサキングスも、ドリームパスポートとともに盛り返してきたものの、これらを楽々と振り切り先頭ゴールイン。2着エイシンデピュティとの着差は4分の3馬身でも「見た目以上の強さ」という表現がピッタリの内容で、豪華メンバーが揃ったシーズン初戦を見事に突破してみせた。

その後、骨瘤を発症して休養を余儀なくされたダイワスカーレットは、復帰戦の天皇賞(秋)でも先手を切り、直線で長休明けとは思えないほどの驚異的な粘り腰を発揮した。結果こそ、ライバルのウオッカにわずか2センチ及ばず2着に敗れたものの、レコード決着を演出。日本の競馬史に燦然と輝く名勝負のもう一頭の主役となった。

さらに、ジャパンCをパスして臨んだ有馬記念では、不利な外枠をものともせず逃げ切り勝ち。牝馬による有馬記念制覇は37年ぶり4頭目の快挙で「強い牝馬」を確固たるものとし、見事、前年の雪辱を果たした。

そして、5歳シーズンは、前年同様フェブラリーSからドバイワールドCへの出走が予定されていたものの、フェブラリーSの直前に屈腱炎を発症。残念ながら引退となり、故郷の社台ファームで繁殖入りすることが決定した。

通算成績は12戦8勝2着4回で連対率は100%。これは「五冠馬」シンザンの19戦15勝2着4回に次ぐ記録で「ミスパーフェクト」と呼ぶに相応しい成績だった。2着に最も差をつけて勝利したのはデビュー戦と有馬記念の0秒3差で、勝ち方に派手さがあるわけではなかったものの、追いつけそうで追いつけない走りこそがダイワスカーレットの真の強さ。その完成形が4歳時の有馬記念だとすれば、牡馬の一線級相手にも通用することを初めて証明したのが大阪杯だった。

2023年 ジャックドール

国内外のGⅠを6勝したモーリス産駒のジャックドールは、栗東・藤岡健一厩舎からデビュー。初勝利を手にしたのは3戦目で、続くプリンシパルSでも勝ち馬から0秒6差5着と健闘したものの、ダービー出走は叶わなかった。ただ、そこから続戦させず、夏場を休養に充てたことがジャックドールの未来を明るくした。

快進撃は復帰初戦から始まり、9月に1勝クラスの平場を快勝すると、わずか半年間で5連勝。とりわけ、5連勝目の金鯱賞はレコード勝ちで、重賞ウイナーに上り詰めるどころか、中距離路線のトップクラスに位置づけられる存在となった。

ところが、続く大阪杯で5着に敗れ連勝が止まると、札幌記念こそ勝利したものの天皇賞(秋)は4着。さらに、武豊騎手と新たにコンビを結成して臨んだ香港Cも7着に敗れ、父仔制覇を成し遂げることはできなかった。

快進撃から一転、大舞台ではもどかしいレースが続く中、5歳シーズンの初戦に選ばれたのが、2年連続の出走となる大阪杯だった。

このレースで、前年の二冠牝馬スターズオンアースに次ぐ支持を集めたジャックドールは、前走後手を踏んだスタートをしっかり決め、久々に逃げの手に出た。ノースザワールド、マテンロウレオ、ダノンザキッドと続く中、前年の覇者ポタジェや3番人気ヴェルトライゼンデは中団を追走。スタートでわずかに出遅れたスターズオンアースは、後ろから4頭目に位置していた。

前半1000m通過は58秒9のミドルペースで、離れた最後方を追走していたワンダフルタウン以外の15頭は12、3馬身の隊列。その後、4コーナー手前で馬群はやや凝縮したものの隊列にほぼ変化はないまま、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ってすぐスパートをかけたジャックドールは、後続に1馬身半のリードを取った。追ってきたのはダノンザキッドで、その後ろからは馬群をこじ開けてきたスターズオンアースが猛烈な勢いで迫り、ゴール前はこれら3頭の争いとなった。

追う者と追われる者の短いようで長い攻防が続く中、ジャックドールはこの1年の成長を証明するようにしぶとく粘り、最後はスターズオンアースの猛追をハナ差凌いで1着ゴールイン。前年の雪辱を果たす快心の逃走劇は待望のGⅠ勝利となり、武騎手にとっては8度目(GⅠ昇格後は2度目)の大阪杯制覇となった。

レース後、インタビューで「前回結果を出せず、もう乗れないのかと思っていたところ、またチャンスをもらえたのがすごく嬉しかったし、それが大きかった。(その分)僕の中ではなんとか結果を出さないといけないという気持ちが強かった」と答えた武豊騎手。2度続けての敗戦は許されないというプレッシャーの中、前半1000m58秒9、同後半58秒5という精密機械のようなラップを刻んだのはさすがとしか言いようがなく、その指示にしっかり応えたジャックドールとのGⅠ制覇は、まるで117秒間の一つの芸術作品を見ているかのようだった。

2021年 レイパパレ

強力な牡馬相手に、牝馬ダイワスカーレットが着差以上の強さを見せつけた08年の大阪杯は印象に残るレースだった。ただ、同じ牝馬の勝利でも衝撃度という点では、21年のレースはそれを上回っていたかもしれない。

ディープインパクト産駒の牝馬レイパパレは、母が重賞2着2回のシェルズレイ、全兄にホープフルS(当時GⅡ)とCBC賞を制したシャイニングレイがいる良血で、栗東・高野友和厩舎からデビューした。鞍上を任されたのは川田将雅騎手で、1月京都の新馬戦を2馬身差で完勝。見事、初陣を飾った。

しかし、このレースに出走した際の馬体重は416kgで、牝馬ということを差し引いてもかなり小柄だった。そこで陣営は、成長を促すため放牧に出すことを決断。果たして、この英断が結果的に吉と出た。

レイパパレの復帰戦はオークスの2週間後、6月上旬となったものの、前走比20kg増で臨んだこのレースを快勝すると、続く糸魚川特別も完勝。さらにそこから3ヶ月の休養をはさみ、重賞初挑戦となるGⅠ秋華賞に登録を済ませた。ところが、対象6頭中4頭が出走可能な抽選に当選せず除外の憂き目にあってしまう。

やむなく、秋華賞直前の第10レース大原Sに出走したレイパパレは、直線でほぼ追われることなく圧勝。直後の秋華賞で三冠を達成したデアリングタクトとの無敗対決が実現しなかったことを惜しむ声が多数あがり、除外の鬱憤を晴らすような素晴らしいレース内容は、抽選の是非を問うものとなったのである。

とはいえ、そんなことはどこ吹く風といった感じのレイパパレは、続くチャレンジCも早目先頭から完勝。重賞初制覇とデビュー5連勝をあっさりとやってのけ、それ以来4ヶ月ぶりの実戦となったのが21年の大阪杯だった。

GⅠ初挑戦とはいえ、デビューから無敗である点や、血統背景を評価されて人気を集めてもおかしくない立場のレイパパレだが、主役とされたのは、同じディープインパクト産駒の2頭だった。

1番人気となったのは、前年に史上初めて父仔無敗の三冠を達成したコントレイルで、単勝オッズは1.8倍。GⅠ3連勝中(この時点でGⅠ4勝)の女傑グランアレグリアが2.8倍でこれに続いた。

一方のレイパパレは、これら2頭や、朝日杯フューチュリティS勝ちの実績があるサリオスからも大きく離れた4番人気に甘んじていた。

降りしきる雨の中ゲートが開くと、内枠を利したサリオスが先手を取ろうとするところ、あっという間にスピードに乗ったレイパパレが逃げの手に出た。ハッピーグリンがこれに続き、サリオスと3年前のダービー馬ワグネリアンが3番手を併走。2馬身差の5番手にグランアレグリアがつけ、コントレイルは中団やや後ろ9番手を追走していた。

前半1000m通過は59秒8で、重馬場を考慮すればかなりのハイペース。出走13頭と手頃な頭数ながら、逃げるレイパパレと最後方のペルシアンナイトまでは20馬身以上の差があった。

その後、レイパパレがペースを落とすと馬群はやや凝縮。続く3、4コーナー中間でコントレイルとグランアレグリアがスパートし、サリオスとともに3頭が横一線になると、名勝負の予感がいやが上にも高まりレースは直線を迎えた。

ところが、である。

直線に入ってすぐ、3頭が交わすはずだったレイパパレは馬場の中央に持ち出されるとさらに逃げ脚を伸ばし、再びリードを広げはじめた。対照的に、人気3頭は重い馬場に脚をとられたかいずれも伸びを欠き、後方から追い込んできたモズベッロにも交わされてしまう。

一方、そんなライバルたちを尻目に、涼しい顔でスイスイと逃げ脚を伸ばしたレイパパレは、2着モズベッロに4馬身という決定的な差をつけ先頭ゴールイン。デビューから無敗での古馬GⅠ制覇はグレード制導入以降3頭目の快挙で、三冠馬と女傑の名勝負が繰り広げられると思われていた春の中距離王決定戦は一転、シンデレラ誕生の舞台へと変貌したのである。

その後、レイパパレは距離が長いと思われた宝塚記念でも3着と善戦。翌年の金鯱賞と大阪杯でも2着に好走した。そして、12月の香港C9着後に右前脚に腫れが見つかり(後に右前繋部浅屈腱炎と判明)引退、生まれ故郷のノーザンファームで繁殖入りすることが発表された。

結果的に、大阪杯の圧逃劇が最後の勝利となったものの、降したコントレイルはその年のジャパンCを制覇。グランアレグリアも、ヴィクトリアマイルとマイルCSを制してGⅠ通算6勝とし、歴史的名牝と称された。

GⅠではめったにお目にかかれないレイパパレの衝撃的な圧勝劇は、ライバルたちのさらなる活躍により、いっそう価値ある勝利となったのである。

写真:Horse Memorys、水面

あなたにおすすめの記事