嵐の中を駆け抜けた人気者。道悪巧者・モズベッロの現役時代を振り返る

2023年6月30日、日経新春杯の勝ち馬モズベッロの現役引退が発表されました。
名前の由来はオーナーの冠名『モズ』+イタリア語で『ハンサム』。その名の通り、力強いストライド走法と筋肉質な馬体を持つ"ハンサム"な馬でした。

そして、モズベッロを語る上で欠かせないのが"雨"。

モズベッロは荒れた馬場や雨中の競馬でめっぽう強く、馬場稍重以上の成績は(1-1-1-4)。まだ完成前だったセントライト記念での大敗を除けば、6戦全てで掲示板に入る走りを見せていました。

通算戦績は28戦4勝。今回は、あげている4つの勝ち星は勿論、モズベッロがパワーを発揮した名場面を振り返っていきます。

ストライド走法で重賞制覇へ駆け抜けた、遅咲きの素質馬。 - 2020年・日経新春杯までの歩み

モズベッロは3歳1月の小倉新馬戦を4着でデビューすると、2戦目の未勝利戦で初勝利を挙げます。

しかし、若葉Sに挑むも後方から捲り切れずに敗北。続く京都新聞杯では後のダービー馬ロジャーバローズに坂の登りから勝負を挑むも、最後は失速し敗れます。菊花賞を目指したセントライト記念では出遅れ最後方から直線で馬群がごちゃついて追い出せず17着と、クラシックには縁がありませんでした。

まだ重賞には縁が無かったものの、3歳11月の自己条件戦では先行抜け出しの競馬で2勝クラスを卒業。有馬記念前日の2500m戦グレイトフルSでは先行勢を差し切れなかったものの、後方から上り最速の末脚を繰り出して0.1秒差の4着と、3勝クラスでも戦える走りを見せて3歳シーズンを終えます。

迎えた4歳初戦、陣営は3勝クラスのモズベッロをG2日経新春杯に格上挑戦させました。

ハンデ戦のG2なので負担重量は52キロ。京都新聞杯で対戦したレッドジェニアルとは4キロ差があり、前走での好走も相まって2番人気に支持されます。
スタートから各馬がポジションを探って馬群がばらけた中で、モズベッロと鞍上の池添騎手はインコース先行を選択。向こう正面までに前から5-6番手の位置を確保しました。

逃げるエーティーラッセンが刻んだペースは前半1000mが61.6秒のスローペース。周りの馬たちが先に仕掛けていきますが、モズベッロは折り合って京都の坂に入ります。上り坂で仕掛けて終いが持たなかった京都新聞杯とは異なり、下り坂からアクセルを入れてるモズベッロ。一杯に四肢を伸ばすストライド走法を邪魔されないように、池添騎手はモズベッロを大外へ導きます。

インコースを選んだ馬たちがごちゃついて、逃げるエーティーラッセンが粘るのを尻目に、モズベッロは直線200mで後続を引き離して勝利。

ハンデの恩恵も直線で展開が向いたのありますが、何よりの勝因は坂の下りからゴールまでブレーキをかけずに走り切れたことでしょう。

重賞を勝利したことでモズベッロはオープン馬の仲間入りを果たし、引退まで重賞レースに挑み続けることになります。もしこのレースを勝てなければ、条件戦を勝ち上がれたかもしれませんが、この後の激走は見れなかったかもしれません。

荒れ馬場への適性を見せつけた3着 - 2020年・宝塚記念

2020年の初戦を勝ち上がったモズベッロは続く日経賞でも大外捲りで中山巧者ミッキースワローに挑み、最後は手前が変わりながら、もうひと踏ん張りを見せて2着に残します。重賞2戦で続けて好走したことで初のG1天皇賞(春)でも5番人気に推されましたが、初の3200mは長かったのか7着に終わりました。

そして2020春シーズン4戦目の宝塚記念。G1馬が多数参戦し、天皇賞(春)での敗戦も相まって18頭中12番人気と人気を落とします。同世代からは皐月賞馬サートゥルナーリアや秋華賞馬クロノジェネシス、上の世代からは菊花賞馬キセキ、ダービー馬ワグネリアン、大阪杯を勝った直後のラッキーライラックなどが出走。強豪ひしめき合うレースとなりました。

そして、稍重の宝塚記念がスタートします。

モズベッロはゲートのタイミングが合わずに出遅れてしまいますが、この春シーズンコンビを組んできた池添騎手は慌てずに馬場の良い外側を選択。他の馬たちを前に行かせてモズベッロのストライドを邪魔されない位置を確保します。

馬場コンディションは稍重発表でしたが、走ると芝がめくれて土煙が舞う荒れた馬場で、クロノジェネシスを前に見る位置で向こう正面へ。レースが後半戦に入るころに後方から武豊騎手・キセキが捲っていくと、それに応戦する形でクロノジェネシス・ラッキーライラックが残り600mのハロン棒あたりで先頭に取りつきます。
そして、この仕掛け合いで空いたスペースに、モズベッロが飛び込んでいきます。

前半にインコースで脚を消耗してしまったサートゥルナーリアや、仕掛け合いで苦しくなったラッキーライラックの間を縫ってぐんぐん伸びるモズベッロ。同期の皐月賞馬らに先着する3着でゴールを駆け抜けましたが、勝ったクロノジェネシスは更に11馬身前と、大差がついていました。

このレースは2着がキセキ、5着がメイショウテンゲンと、重馬場を得意としていた馬が好走。同時にモズベッロが『タフな馬場コンディションに強い』ということを知らしめたレースと言って良いでしょう。

ところが、宝塚記念を終えて厩舎へ帰る途中にけがをしてしまい、冬のグランプリ有馬記念まで休養を余儀なくされます。その有馬記念ではクロノジェネシスのグランプリ制覇を15着で見届け、4歳シーズン5戦を完走しました。

そして2021年、モズベッロは雨の荒れ馬場で更なる激走を見せるのです。

三冠馬にも短距離女王にも先着した、名誉の2着 - 2021年・大阪杯

モズベッロは日経新春杯を最後にしばらくの間、勝ち星からは遠ざかっていたものの、それでも日経賞2着や宝塚記念3着と、G1級の馬とも展開がかみ合えば戦えることを証明。その真骨頂と言えるのが、2021年の大阪杯ではないでしょうか。

大阪杯では、2020年に無敗で三冠を達成したコントレイル、4歳時に短距離マイルのG1を3連勝して中距離路線に挑んできたグランアレグリア、コントレイル相手に2着続きも朝日杯・毎日王冠を勝っているサリオスらが人気を集めます。続く4番人気は、ここまで無傷の連勝を続けていたレイパパレ。モズベッロは日経新春杯以降勝ちがないものの、雨の重馬場で行われたことで馬場適性を評価され、ダービー馬ワグネリアンに次ぐ6番人気で出走しました。

レースでは、これまで逃げ先行で連勝を重ねたレイパパレがハナに立ち、ハッピーグリンが追いかけ2番手に。さらにワグネリアンが3番手、グランアレグリアがスピードを活かしてインの5番手につき、サリオスがその少し前を走ります。

三冠馬コントレイルは後方5番手、モズベッロはその更に後ろでマイペースにレースを進めます。
コントレイルは相手をグランアレグリアに決めていたのか、3コーナーから仕掛けて5番手の位置に上がっていきます。それに応戦する形でグランアレグリアもスパート。

──そしてこの2頭の後ろから、泥だらけで駆けてくる馬がいました。

コントレイルが動き出したタイミングで、モズベッロもロングスパートを仕掛けていたのです。

迎えた直線、レイパパレが比較的馬場のきれいな外側に進路をとり、サリオスは荒れ馬場の内埒沿いへ。

コントレイルとグランアレグリアが内側5頭分ぐらい空けて競り合うその外から、モズベッロが力強く抜け出し、コントレイルを3/4馬身交わしたところがゴール。

逃げていたレイパパレも同じ上りタイムで上がっていたので差は詰められませんでしたが、各路線の最強格2頭に先着。筋骨隆々でパワフルなモズベッロに、荒れた馬場は苦にならなかったようです。

次走は距離とコース適性を考慮して宝塚記念へ。再びの好走を狙いますが、ここでは先行馬に追いつけず8着に敗れます。以降は掲示板外のレースが続き、2022年は1月に屈腱炎での休養が公表されました。

勝てずとも最後に見せた意地 - 新潟大賞典&鳴尾記念

2023年、モズベッロは中山記念で復帰を果たすと、ここは10着で無事完走。

続く大阪杯は上り2位の34.9秒の末脚を繰り出しますが、逃げるジャックドールの高速決着についていけず12着と敗れます。

そして春3戦目の新潟大賞典。週末に雨が続いた影響で雨の不良馬場の開催となり、モズベッロは57.5キロを背負っての出走でした。近走の着順からG3戦でも8番人気でしたが、この馬場コンディションはモズベッロに追い風となります。

内も外も荒れた新潟の直線で、内を選択したモズベッロ。前を走っていたセイウンハーデス、最内から追い出して届いたカラテの2頭からは離されましたが、最後までパワーで粘って4着に残します。

続く鳴尾記念。追い切りでは僚馬に先着する走りを見せ、新潟大賞典の走りからも休んだ分の復調が伺えるコンディションで出走すると、馬群の後方最内でじっと末脚を溜めます。その走りには確かに力が戻っていました。

迎えた直線、一気に抜け出したかったところでしたが捲っていたボッケリーニの勢いが良く、最内で逃げていたフェーングロッテンがゴール前で二枚腰を発揮して内外どちらも空かない展開に。結果は 6着でレースを終えました。
とはいえ、これまでは大外を回すかストライドを邪魔されない位置が必要だったモズベッロが、馬群の真っただ中から抜けようとして勝ち馬(ボッケリーニ)の0.3秒差でゴールしたわけですから、負けて強しの内容でした。

そして3度目の宝塚記念。
外枠から後方追走し、外をジェラルディーナ、ジャスティンパレス、イクイノックス、そしてスルーセブンシーズが駆け抜けていくのを見送り、14着でゴール。阪神開催は好天が続き、モズベッロには向かない馬場でしたが、新潟大賞典と鳴尾記念での走りが春のピークだったのかもしれません。

そしてモズベッロは、このレースを最後に現役引退、乗馬になることが発表されました。


出走レースが決まるとファンが雨ごいをするなどSNSを盛り上げたモズベッロ。ルックスのよさや競馬場で見せる様々な表情が人気を集めました。

2020年の日経新春杯を最後に3年間勝利は無かったにもかかわらず、多くのファンがいたのは、やはり宝塚記念・大阪杯で見せた、荒れた馬場を苦にせず強豪たちに先着するパワフルな走りがあってのことでしょう。

もし宝塚記念で引退せずに秋も走っていたら重賞を勝てたのでは…と思ってしまいますが、モズベッロを大事にして屈腱炎からレースで走れるまでに回復させた森田調教師やオーナーの考えがあってのことでしょう。

モズベッロ、約4年半の現役生活お疲れ様でした。

写真:バン太、かぼす

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