[インタビュー]アイビスSDで重賞初制覇!鞍上・杉原騎手の語る、ビリーバーやミルファームへの想い。

2022年7月末日、新潟の名物重賞アイビスSDで7番人気ビリーバーが勝利した。
鞍上はデビュー12年目の杉原誠人騎手。人馬にとって、そして同馬を所有するミルファームにとって、これが初めての重賞タイトルである。その勝利に、SNSでも祝福の声が多くあがった。
今回は、重賞初制覇を達成した杉原誠人騎手に、勝利の喜びやオーナーとの絆について伺ってきた。

目標レースで抽選突破、さらに絶好枠…自信を持って挑んだ大一番

「レース後、色々な方に喜んでいただいて…新幹線の中でも連絡の通知が鳴り止みませんでした。改めて『勝ったんだなぁ』という感じですね。同期の騎手のLINEグループでもお祝いしてもらいましたし、藤澤先生からも連絡をいただきました。嬉しかったですね!」

杉原騎手は、同期に横山和生騎手や森一馬騎手、藤懸貴志騎手らのいる競馬学校27期生。
2022年になってからは恩師でもある藤沢和雄調教師の引退に伴い、デビューから長年所属してきた藤沢厩舎を離れフリーとなった。そんな中での重賞タイトル獲得は、喜びも大きかった。

「ビリーバーはずっとアイビスSDを目標として調整してきた馬です。なんとしても獲りたいタイトルでしたから、勝ててよかったです。今年は抽選になってたので、まずは出走できるかどうかでドキドキしていました。蓋を開けてみると、出走できるどころかアイビスSDで結果の出ている外枠に。一番いい枠だと思いましたし、『ああ、これはもう勝ちを狙うしかないな』と思いました」

ビリーバーが入ったのは、8枠16番。
外枠有利なアイビスSDおいて、2012年にパドトロワが同じ8枠16番で勝利をあげている。他にも8枠からは2017年ラインミーティアや2018年ダイメイプリンセスらが勝利。狙ってきたレースで絶好枠を引き当てたということになる。
最初は出走できるだけで「運を使い果たしたかな?」と思っていた杉原騎手も、枠順を見ると「運が向いたな」「この流れはいいぞ」と思い、自信をもってレースに挑んだという。

「結構緊張するタイプなんですけど、今回のレース前は不思議とすごく冷静だったんです。楽しみながら挑めたと思います。冷静になれたのは、3年連続でこの馬とコンビが組めたということもあるでしょう。加えて、ビリーバーがレース当日に凄くおとなしかったのも、リラックスできた一因です。おとなしすぎて、むしろ『大丈夫かな?』と思うくらいだったのですが、その分スタートも決めてくれました」

いつもはゲート内で扉を蹴ったりするようなタイプだというビリーバー。しかし今回は落ち着いていたことで、ゲート内でも集中して力まずにスタートできたという。
「経験したことがないくらい、不思議な感じ。リズムがよかった」と振り返るように、勝負の流れも味方につけての勝利だった。

苦しい時にチャンスをくれたミルファーム・清水オーナー

アイビスSD後の反響の大きさに、ミルファームの清水オーナーとはお互いに「重賞ってすごいなぁ」「連絡がひっきりなしだよ」「牧場に花がいっぱい届いているよ、大変だよ」っと、嬉しい悲鳴をあげた。そんな清水オーナーと杉原騎手との出会いは、2017年にまで遡る。

「2017年に結婚したのですが、その時期は乗鞍も減っていて、苦しい時期でもありました。これで家族を支えていけるのかという不安もあり……。どうにか乗鞍を増やせないかと思いきっかけを探していたところ、知り合いのツテでミルファームの清水オーナーを紹介していただけました。すぐに牧場まで会いに行って、それ以降ご依頼いただけるようになりました」

その後、杉原騎手はストーミーシー(東京新聞杯)やブロワ(京王杯SC、アイビスSD)、ホーキーポーキー(函館2歳S)やオリアメンディ(京王杯2歳S)など、様々なミルファーム所有馬とともに重賞に挑戦。多くの経験を積んできた。

今でも日々、密にコンタクトとっているという清水オーナーと杉原騎手。
アイビスSDを制覇した週末、ミルファームの所有馬が出走したレースは土日の合計で6レースだったが、その全てのレースで杉原騎手はミルファームの所有馬に騎乗していた。まさに絆を感じる関係だ。

「これだけで恩が返せたと思っていないです。ミルファームにとって初めての重賞が自分だったというのは本当に嬉しいですが、もっと早く勝てたんじゃないかという思いもあります。今でもたくさん機会を与えていただいていますし、もっとたくさん勝利をプレゼントしたいです」

2歳から乗ってきた馬と掴み取った重賞タイトル

杉原騎手がビリーバーに騎乗したのは、2017年11月。3戦して未勝利戦を脱出したビリーバーが2歳オープン競走カンナSに挑戦したときのことだった。16着に敗れたものの、そこからコンビの絆を深めてきた。

「ビリーバーは清水さんと出会った頃の馬。2歳から乗せていただいているので長い付き合いになりますね。最初は『結構前向きだな、線が細くて気持ちだけで走っているのかな』と感じました。この頃から良くも悪くも前向き過ぎるタイプでした」

杉原騎手がビリーバーの強さを感じたのはその翌年、条件戦を勝ち上がり、重賞に挑戦した時のことだった。フィリーズレビューに出走したビリーバーは、勝ち馬リバティハイツから0.4秒差の8着でゴール。続く葵Sでは直線で不利を受けて10着に敗れるものの、どちらも手応えを感じる走りだった。

「その2レースではうまく乗れなかったせいで負けてしまったんです。直線、進路がなくなってしまい……。でも、乗っていて、もし前が開いていたら突き抜けていたな、という走りでした。『え!? こんな競馬ができるんだ!』と驚いたのを覚えています。気持ちの強さもあり、スピードもある。素質を感じました。ただ、当時はまだ重賞のイメージまではわかなかったというのも正直なところですが……」

重賞に向けて視界がひらけたのは、準オープンを勝利したときのこと。ビリーバーが5歳の夏であった。その期待に応えるように、続くアイビスSDでは3着に食い込んだ。
「これは重賞を勝てる力を持っている!」とハッキリ意識した。
そこから、ビリーバーの目標が、アイビスSD制覇に絞られていった。

「脚質が脚質だけに、ハマらないと脆いところもある馬でもあります。だから、力は十分にあったとしても、出走すれば勝てるとは言い切れないんです。流れが向かないといけないので……そういう意味でも、難しい挑戦ではありました」

ビリーバーはその後キーンランドCで6着、ルミエールオータムDで6着などの結果を出しつつも、翌年のアイビスSDでは11着と大敗。前年にはメンバー最速の上がり32.0秒だった末脚も鳴りを潜め、33.0秒と不発に終わった。

「1回目に挑戦したアイビスSDは、すごい調子がよかったんです。それ以降は『うーん……』ということが多くなってしまいました。年を重ねて体調が整いにくく、疲れも残りやすくなり……。正直なところ『これ以上は難しいのかな』『オープンの壁は分厚いんだな』と諦めそうになった時期もありました。3度目のアイビスSD挑戦も、このレースにチャレンジできるのは今年が最後かな……と。そんな中こうして勝てたので、馬というのは興味深いですね」

杉原騎手は念願の重賞制覇について「時間はかかりましたけど……」と笑う。
一方で、これからも重賞馬の名に恥じぬ走りをしたい、とも意気込んだ。

「騎手として、またすぐに重賞を勝ちたい、もう一度味わいたいという気持ちはあります。ただ、まずは目の前の1勝を目指して頑張ります! 一頭一頭に向きあって頑張ります!」

ミルファーム・清水オーナーと二人三脚で掴み取った初重賞。
次なる好走、次なる勝利を目指してミルファームと杉原騎手の挑戦は続く。

写真:まさらっき、かぼす

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