菊花賞ってどんなレース?

イギリスの「セントレジャー」を範にとり、1938年に「京都農林省賞典四歳呼馬」の名称で創設された4歳(現在の3歳)馬による重賞競走で、1948年より現在の菊花賞という名称になりました。前後して創設された横濱農林省賞典四歳呼馬 (現在の皐月賞)や東京優駿 (日本ダービー)とともに、日本の牡馬三冠競走として親しまれてきました。

牡馬三冠競走の最終戦として行われ、皐月賞は「最も速い馬が勝つ」、東京優駿 (日本ダービー)は「最も運のある馬が勝つ」という有名な表現がありますが、菊花賞はスピードとスタミナを兼ね備え、2度の坂越えと3000mの長丁場を克服することが求められることから「最も強い馬が勝つ」と称されています。最もスタミナのある優秀な繁殖馬を選定する観点から、出走資格は「3歳牡馬・牝馬」とされ、せん馬 (去勢された牡馬)は出走できません。

施行場は阪神競馬場で行われた1979年を除き、すべて京都競馬場で行われています。距離の3000mも第1回から変更されていません。

『牡馬三冠』を達成した馬たち

1941年にセントライトが初めて横濱農林省賞典四歳呼馬、東京優駿、京都農林省賞典四歳呼馬の3つのレースを制し、初めて「(牡馬)三冠馬」の栄誉に輝きました。

戦後1964年にはシンザンが達成し、1983年にはミスターシービーが達成。さらにその翌年の1984年にはシンボリルドルフ、平成になって1994年にはナリタブライアン、2005年にはディープインパクトが達成。2011年にはオルフェーヴルが牡馬三冠の全てのレースを勝ち、「三冠馬」の栄誉に輝きました。

無敗で牡馬三冠馬に輝いたのはシンボリルドルフとディープインパクトの2頭しかいません。

今年の見どころ

コントレイルが無敗で牡馬三冠を達成するのか?

無敗で皐月賞、日本ダービーを制し、前哨戦の神戸新聞杯を制したコントレイル。菊花賞に勝てば、父ディープインパクトと同じく無敗での牡馬三冠馬になります。また、史上初めての親子二代による牡馬三冠達成となります。

神戸新聞杯は馬体重が日本ダービー出走時の460Kgと変わらず出走しました。馬体重に変化はないものの、パドックや返し馬(ウォーミングアップ)の際にテンションが上がらなかったことからも、精神面での成長が伺えます。レースは7、8番手を進む展開。周りに他の馬がひしめき合う中、最後の直線へ。残り300mで前があくと、抜群の瞬発力で先頭に躍り、騎乗した福永祐一騎手はムチを叩かずに、手綱を持ったままでゴールイン。2着のヴェルトライゼンデに0.3秒(2馬身)差を付ける楽勝を演じました。

血統面ですが、父のディープインパクトはサトノダイヤモンド(2016年)、フィエールマン(2018年)、ワールドプレミア(2019年)と3頭の菊花賞馬の父として知られています。母方の血統からは、祖母のフォークロアがアメリカの2歳牝馬チャンピオンを決めるレース、ブリーダーズカップ・ジュヴェナイルフィリーズ(ダート約1700m)を制しているなど、スピードに長けた馬が出ています。

また、母の父のアンブライドルズソングは2014年の菊花賞を制したトーホウジャッカル、昨年重馬場で行われたジャパンカップの覇者スワーヴリチャードの母の父として知られています。母方の4代父シーズティジーの母テイズリーは、2015年の菊花賞馬キタサンブラックの曾祖母にあたります。そうした点を踏まえると、芝3000mの菊花賞という距離は十分に射程圏内にあるでしょう。

いまや、世界中のホースマンがコントレイルの走りに注目しています。今秋は神戸新聞杯、菊花賞、ジャパンカップの出走を予定しているとの事。菊花賞で牡馬三冠、G1レース4勝目を成し遂げ、ジャパンカップで4歳以上の古馬相手に勝つとなれば、来年は海外遠征も期待されます。そのためにも「最も強い馬が勝つ」とされる菊花賞では、強い競馬で勝ちきっておきたいところでしょう。

ヴェルトライゼンデが血統の底力でコントレイルの三冠を阻止するのか

神戸新聞杯2着で日本ダービー3着のヴェルトライゼンデが、コントレイルのライバル候補にあげられます。

神戸新聞杯では馬なりで走ったコントレイルに対し、ムチを入れて必死に迫ってきたヴェルトライゼンデ。対コントレイルは3戦3敗と決着が付いたかのように見えますが、この馬も万全の状態で神戸新聞杯に出走してきたわけではありません。日本ダービーのレース後、軽度の骨折で休養。当初はセントライト記念から始動を予定していましたが、発熱のため回避するなど、順調に神戸新聞杯に臨んでたわけではありません。それでも神戸新聞杯のラスト600mのタイムがメンバー中最速の35.4秒(コントレイルは35.6秒)を披露しました。

ヴェルトライゼンデに追い風なのは血統面。過去10年の菊花賞を制した馬の父親を辿ると、オルフェーヴル(2011年)やゴールドシップ(2012年)と、ステイゴールドの血を持った馬が2頭制しています。ヴェルトライゼンデの父はドリームジャーニーで、ステイゴールドの血を持っていますし、さらにヴェルトライゼンデの半兄には昨年の菊花賞を制したワールドプレミア(父ディープインパクト)がいます。血統的背景から行くと、菊花賞の条件は得意なはず。現段階で、距離を問わずコントレイルと勝負が付いていると思ってしまうのは早計かもしれません。

9年前に牡馬三冠を達成したオルフェーヴルと同じ池江泰寿厩舎所属×池添謙一騎手騎乗という組み合わせ。今年は追われる立場からコントレイルを追う立場になって三冠のかかった菊花賞に挑みます。池添騎手といえば、今年の安田記念でグランアレグリアに騎乗し、アーモンドアイのG1レース8勝目にストップをかけて優勝するなど、大一番に強い騎手です。直線一気の末脚でコントレイルの野望を砕く──という事も考えなければなりません。

4連勝中のバビット。自慢の逃げ足でコントレイルを振り切れるのか?

未勝利戦から4連勝、そのうち、ラジオNIKKEI賞とセントライト記念の2つの重賞競走を制したバビット。今回、コントレイルと初めての対戦となります。

芝1800mから芝2200m戦を使ってきて、距離の不安は出てくると思います。陣営もその事を意識してか、セントライト記念制覇後は従来の坂路調教に加え、ウッドチップコースでの調教を実施。スタミナを付ける調教を施しています。

バビットの血統を見ると、一見、地味な印象はぬぐえないかもしれません。しかし、父のナカヤマフェスタは凱旋門賞2着の実績を持っています。また、ナカヤマフェスタの子供達を見ると、芝2500mの日経賞を制したガンコや芝3000mの万葉ステークスを制したヴォージュといった、スタミナ勝負のレースで逃げや先行して勝った馬も多く見受けられます。

ナカヤマフェスタもまた、ステイゴールド産駒ですから、血統的に見ても菊花賞に相性が良さそうです。母方の血統を見ると、4代母のGay Missileの子供にはフランスのG1レース・サンクルー大賞(芝2500m)を制したゲイメセンがいます。

コントレイルの福永騎手が後ろから迫ってくるであろうヴェルトライゼンデに気をとられていると、バビットの逃走劇がハマる可能性もあります。

セントライト記念では迫ってきたサトノフラッグやガロアクリークを交わされずにゴールする二枚腰を披露。騎乗予定の内田博幸騎手は2008年のオウケンブルースリや2012年のゴールドシップで菊花賞を制した実績を持っています。金色の栗毛のバビットの逃走劇にも注目したいところです。

抽選で出走待ちの馬にも期待の馬が登場!

古くは1988年のスーパークリーク、平成では2004年のデルタブルースなど、抽選で出走権を得た馬が一気に菊花賞を制したケースがあります。

日曜日時点の登録馬の中で、収得賞金が1500万円の馬が6頭登録し、抽選で4頭が出走できます。仮に出走できた場合、魅力的な馬は多数いそうです。

菊花賞馬エピファネイアの子供で2勝クラスの小牧特別(芝2200m)を制したアリストテレス。2勝クラスの阿寒湖特別(芝2600m)を制したアンティシペイト。2勝クラスの九十九里特別(芝2500m)を制したダノングロワールなど、中長距離のレースで実績を残した馬はコントレイルと未対決な点も含めて、魅力的な馬だと思います。

特に注目は関東の名門・国枝栄厩舎から送り出すアンティシペイトとダノングロワール。アンティシペイトは距離を芝2400mに伸ばした1勝クラスで圧勝。続く阿寒湖特別では2番手追走で快勝。鞍上には菊花賞を5度制した武豊騎手を配する辺り、期待の高さが伺えます。

ダノングロワールは九十九里特別では追い込む競馬を披露する一方、1勝クラスでは先行する競馬を見せるなど、自在性がある脚で連勝を続けています。国枝厩舎の馬といえば、弥生賞ディープインパクト記念を制したサトノフラッグに注目が集まりますが、抽選を通って2頭が出走すれば、コントレイルの三冠を打ち砕く可能性を秘めています。

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