定点カメラをするかしないかのゼロイチではなく、違うやり方があるのではないかと考えた結果、YouTubeチャンネルをつくって発信していく案が浮かびました。ベストではないかもしれませんが、毎日更新していくことができれば、ベターまでは持っていけるはずです。せっかくやるならば、それぐらいの熱意を持って届けなければ、福ちゃんのことを多くの人たちに知ってもらうことはできません。牧場の人たちには毎日動画を撮影してもらうことになりますが、定点カメラよりはましと思ってくれるのではないでしょうか。
慈さんに電話をかけて、その旨を伝えると、「僕たちも話し合ったのですが、やっぱり定点カメラは照れ臭いというか…。でも福ちゃんの動画を撮って送るのは全然苦にならないですよ。むしろうちの女性陣はそういうの楽しんでやってくれると思います」と好意的な返事が返ってきました。このとき、牧場の手間を増やすと考えて、先回りしてゼロにしなくて良かったと感じました。他者にもできること・できないことはありますが、何ができるのかはお願いしてみなければ分からないものです。勝手にできないと判断して、やらない選択をしなくて良かったと思います。
やるとなったら早めにスタートすべきだとも思いました。福ちゃんはあっという間に成長していきます。昨年生まれたダートムーアとスパツィアーレの仔たちを見てきたので、１か月開くと、まるで別馬のように大きくなってしまうことを僕は知っています。生まれたときからの福ちゃんの成長を見守ってもらうためにも、一刻も早く、今の姿をリアルタイムで届けなければならないのです。
幸いなことに、福ちゃんの誕生シーンも残っています。まさか福ちゃんが小眼球症を持って生まれて来るとは知りませんでしたし、YouTubeチャンネルをつくることになると考えてもいませんでしたが、今から思うと、出産シーンを撮っておいてもらって良かったです。まさに福ちゃんがこの世に登場したその瞬間から、皆さんと成長の過程を共有できるからです。ラッキーとアンラッキーは裏表ですね。
僕は急いでYouTubeチャンネルを立ち上げることにしました。チャンネル名は「片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS」。福ちゃんは病気を抱えて生まれてきましたが、母のダートムーアや牧場の人たちに可愛がられて幸せな毎日を過ごしています、というメッセージを届けたいと願いました。隻眼という表現ではなくあえて片目としているのは、ただ単純に分かりやすいからです。PERFECT DAYSとしたのは、単に英字を入れたかったのと、片方の目の眼球が小さくて、身体的には完全（PERFECT）ではないかもしれないけれど、それでも素敵な人たちに囲まれていれば、満ち足りたPERFECTな毎日を送ることができるという対比もつくれると考えました。
タイトルが決まったあとは、最初の動画の編集に取りかかりました。編集といっても、牧場の人たちに撮ってもらった動画をそのまま使うのですが、最後まで迷ったのはナレーションでした。試しにナレーションを入れてみると、悪くはありません。ないよりはあった方が良いかなというレベルです。さらにもうひと工夫必要な気がしました。そこで第三者視点のナレーションではなく、福ちゃん視点のナレーションを入れるというアイデアを思いつきました。つまり、福ちゃんが語っているような独白（モノローグ）の形にするということです。吾輩は猫である的な感じ。そうすることで、ぐっと深みを増すというか、独特な世界観を表せるのではないかと考えました。とはいえ、あまり福ちゃんに語らせすぎないように気をつけることにしました。まずは生産の現場の空気感や音を聴いてもらいたいですし、視聴者に想像してもらう余白を残すため、あまり説明しすぎず、必要最低限のナレーションにとどめることにしました。
まずは火曜日の夜、夢色グラスさんとのライブ「競馬って素晴らしい！」にて福ちゃんの話をすることにしました。福ちゃんのことを知ってもらい、動画を見てもらいたいというのが願いでした。その上で、「競馬って素晴らしい！」が1年間かけてこつこつと貯めてきた収益の半分を、碧雲牧場に寄付してもらいたいと提案しました。夢色さんはすぐに了承してくれましたが、視聴者の皆さまにも同意いただく必要があります。上手く説明できたか分かりませんが、おおむね視聴者の皆さまも理解してくださり、福ちゃんを応援してくれるコメントを頂戴しました。
翌日、Xにて福ちゃんのことを書いたところ、今までに体験したことのないほどの反響をいただきました。バズるというのはこういうことなのかと思うぐらい、たくさんのコメントやリポスト、いいね！をいただきました。おかげさまで「片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS」の登録者数も増え、１本目の動画としては、僕たちの想像以上に多くの人々に観てもらうことができました。
このとき、ひとりで抱え込むのではなく、お願いしてみるものだと感じました。救いの手を差し伸べてくれる人はたくさんいると実感しました。福ちゃんのことに関して、僕たちだけが困って悩んでも良かったはずです。僕はどちらかというと、何でも自分で解決しようとするタイプの人間です。他者を巻き込むよりも、自分だけで完結する方が気楽だと考えている節があるからだと思います。それでも何とかやって来られましたが、今回の福ちゃんのことではっきりしました。
これまで僕が大きく成長できたのは、「ROUNDERS」という競馬の雑誌をつくったとき、そして独立して自分の学校を立ち上げたときです。どちらもたくさんの人たちを巻き込んで、手を借りて、助けてもらったからこそできた仕事です。僕がずっとブログだけを書いていたら、または組織に属して働いていたら、自分の枠を超えることはできなかったでしょう。お願いをすれば応えてくれる人はいる、助けを求めれば救いの手を差し伸べてくれる人は確実にいるのです。誰かの力を借りることができてはじめて、自分の器以上のものをつくることができるのです。僕にできることなどたかが知れている。５０歳を手前にして、福ちゃんのおかげで、こんな当たり前のことに改めて気づかせてもらったのです。
そうこうしているうちに、吉報が飛び込んできました。僕のＸの福ちゃんに関するポストに、「南関東なら出走できますよ！」というコメントがついたのです。
（次回へ続く→）
★福ちゃんの幸せな毎日を動画でお届けしています。YouTubeチャンネル「片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS」はこちら！
→ https://www.youtube.com/channel/UCHzzcDIGwjV6K8fMtT4UfHw
