[重賞回顧]天性のセンスがまたも爆発! ジャンタルマンタルが隙のない完璧な競馬で3歳ベストマイラーの座を獲得~2024年・NHKマイルC~

レース史上最高レベルのメンバーが集結した2024年のNHKマイルC。中でも注目は2歳GⅠを制したジャンタルマンタルとアスコリピチェーノで、2歳王者と2歳女王がこのレースで激突するのはレース史上初めてのこと。しかも、両馬はともに前走クラシックの舞台で好走。豪華メンバーの中でも、実績では頭一つ抜けた存在だった。

もちろん、人気はこれら2頭に集中。その中でアスコリピチェーノが1番人気に推された。

新馬、新潟2歳S、阪神ジュベナイルフィリーズと、適度な休養を挟みながら3連勝し、2歳女王に輝いたアスコリピチェーノ。過去最長となる4ヶ月の休みを挟んだ前走の桜花賞で2着に敗れ連勝は止まったものの、勝ち馬とは0秒1差の接戦だった。

今回は、新馬戦以来となるクリストフ・ルメール騎手とのコンビが復活。父はダイワメジャーで、産駒は過去に当レースを3勝するなど相性が良く、2つ目のビッグタイトル獲得が期待されていた。

票数の差で2番人気となったのがジャンタルマンタル。新馬、デイリー杯2歳S、朝日杯フューチュリティSと、アスコリピチェーノとは対照的に僅か2ヶ月で2歳王者へと上り詰めたジャンタルマンタルは、今季初戦の共同通信杯で2着に惜敗。さらに、前走の皐月賞でも3着に敗れたものの、ハイペースを先行して自ら勝ちにいく競馬。負けて強しの内容だった。

今回は久々のマイル戦で、これまでの実績や前走内容からも距離短縮は歓迎材料。4戦連続コンビを組む川田将雅騎手とともに、こちらも2つ目のビッグタイトル獲得が懸かっていた。

これら2頭から大きく離れた3番人気となったのがボンドガール。後の重賞ウイナーが2頭、リステッド勝ち馬が1頭出るなど、好メンバーの新馬戦を快勝したボンドガールは、続くサウジアラビアロイヤルCでも2着に好走。ところが、3戦目に予定していた阪神ジュベナイルフィリーズの直前に右前肢を打撲。回避を余儀なくされた。

それでも、半年ぶりの実戦となった前走のニュージーランドトロフィーで2着惜敗。この馬もまたダイワメジャー産駒で、前走からコンビを組む「レジェンド」武豊騎手とともにGⅠ初制覇なるか、注目を集めていた。

以下、サウジアラビアロイヤルCでボンドガールを破ったゴンバデカーブース。クイーンC2着の良血アルセナール。トライアルのアーリントンCを勝利したディスペランツァの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、アルセナールがやや出遅れ。一方で、ジャンタルマンタルが好スタートを切った。

前は、そのジャンタルマンタルを制してマスクオールウィンがいこうとするところ、ボンドガールとキャプテンシーがこれを交わして先頭、2番手。イフェイオンとマスクオールウィンを挟んだ5番手にジャンタルマンタルとアスコリピチェーノがつけていた。

さらに、そこから1馬身半差の中団前にロジリオンが位置し、エンヤラヴフェイス、ノーブルロジャーと続いて、中団外目にゴンバデカーブース。ダノンマッキンリー、ディスペランツァら重賞ウイナーは中団後方に構え、アルセナールが後ろから2頭目。折り合いに専念したシュトラウスが最後方に位置していた。

600m通過34秒3、800m通過46秒3と平均的な流れ。前から後ろまでは20馬身ほどで、縦長の隊列となってレースは3、4コーナー中間へ。前は、微妙に順番が入れ替わってキャプテンシーが先頭に立ち、マスクオールウィンが2番手。そして、人気上位3頭が仲良く3番手を併走する中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、マスクオールウィンがキャプテンシーに並びかけ、ボンドガールは最内に、ジャンタルマンタルは外に進路を取った。対して、アスコリピチェーノはジャンタルマンタルにフタをされて外に出すことができず、やむなく内へ。マスクオールウィンとキャプテンシーの間を突こうとするも、ここで自身を含めた4頭が大きくゴチャつき、その隙に抜け出したジャンタルマンタルが残り200mで先頭に立った。

ラチ沿いの混戦を横目に2番手に上がったのはロジリオンで、ゴンバデカーブースとイフェイオン、さらに混戦を抜け出したアスコリピチェーノが前2頭を追うも、ジャンタルマンタルの末脚は衰えず、後続に2馬身1/2差をつけ1着でゴールイン。内から猛追したアスコリピチェーノが最後の最後でクビ差ロジリオンを交わし、なんとか2着を確保した。

良馬場の勝ちタイムは1分32秒4。中2週、再東上、外枠など、複数の懸念材料を問題にしなかったジャンタルマンタルが、完璧な競馬で2つ目のビッグタイトルと3歳ベストマイラーの座を獲得した。

各馬短評

1着 ジャンタルマンタル

好スタートを切ってすぐに好位を確保するなど、この日も持ち前のセンスの良さを存分に発揮。直線もラチ沿いの混戦に全く巻き込まれることなく先頭に立つと、GⅠ馬らしい横綱相撲で堂々と押し切った。

レコード決着となった皐月賞の激闘から中2週に加え、3戦連続となる関東遠征など懸念材料が複数あったものの、まるで問題にせず完勝。ここから休養に入るそうで、今後は古馬との戦いになるが、デビュー以来とにかくセンスの良さが光る馬。アスコリピチェーノとの再戦も楽しみだが、古馬のトップクラスとも十分にやれそう。

また、天皇賞(秋)など2000mのビッグレースでどういった戦いをするのか、もう一度見てみたい。

2着 アスコリピチェーノ

五分のスタートで、道中はジャンタルマンタルと併走。しかし、直線入口でジャンタルマンタルにフタをされて外に出せず、マスクオールウィンとキャプテンシーの僅かな隙間を突こうとしたところゴチャついてしまった(ルメール騎手とマスクオールウィン騎乗の岩田康誠騎手に過怠金3万円)。

これがなければ勝っていたかは別として、もう少し接戦に持ち込めたはず。ただ、前走時の鈍さのようなものは、少なくとも道中の走りを見る限り感じられず、同じ2着でもパフォーマンスは上昇した。

レース後、ルメール騎手はもう少し距離が長くても大丈夫とコメントしており、秋華賞に出走しても当然圏内。ただ、その前に1走挟んだほうが良さそう。

3着 ロジリオン

先行5頭を前に見て、直線ではジャンタルマンタルのさらに外へ。内のゴチャつきに巻き込まれることなく末脚を伸ばし、あわや二強の一角を崩すかというところまでいった。

前走のファルコンSでは自身が進路をなくして涙を飲んだが、進路さえあれば終いは確実。展開に左右されるものの、今回も含めた全7戦で、不利があった前走の5着が最低着順。直線が長い左回りでは崩れておらず、この馬もまた次走が楽しみとなった。

レース総評

前半800mが46秒3、同後半が46秒1。前後半ほぼフラットな流れで、勝ちタイムは1分32秒4。開催3週目の東京芝は依然としてコンディションが良く、先行有利の馬場だった。

しかも、このレースではジャンタルマンタルがいつもどおりセンスの良さを発揮し、好スタートから3番手を確保。それでいて上がり3ハロンはメンバー中2位タイで、縦長の隊列になったこともあり、中団以下の差し、追込み組には厳しい展開だった。

そのジャンタルマンタル。父はパレスマリスで、同馬は2024年からダーレー・ジャパンスタリオンコンプレックスで供用を開始。半弟のジャスティンパレスは2023年の天皇賞(春)を、アイアンバローズも同年のステイヤーズSを制しており、米国時代の代表産駒ストラクターは、パレスマリスより一足早く2023年からレックススタッドで供用を開始している。

また、パレスマリスやその父カーリンが現役時にあげた勝利はすべてダート戦だが、にもかかわらず、パレスマリス産駒が日本の芝に適性を示しているのは、おそらくカーリンの父スマートストライクの影響だろう。

「北米で最も万能性を持つ種牡馬」として知られたスマートストライク。日本の芝のレースにおける代表産駒といえばブレイクランアウトで、同馬は後の天皇賞馬トーセンジョーダンを相手に2009年の共同通信杯を勝利。前年の東京スポーツ杯2歳Sでも、後の凱旋門賞2着馬で、宝塚記念を勝利するナカヤマフェスタとタイム差なしの接戦を演じている。

さらに、スマートストライクは母の父としても、今回と同じ東京マイルのGⅠ安田記念を勝利したストロングリターンや、2022年の二冠牝馬スターズオンアースを輩出。輸入種牡馬が日本で成功できるかどうか、カギを握るのは瞬発力を兼ね備えていることで、スマートストライクが果たす役割は非常に大きい。

ただ、ジャンタルマンタルに関していうと、中2週での再東上など厳しい条件下でも安定して力を発揮できるのは、天性のセンスがあってこそ。ほぼ毎レース五分以上のスタートを切って好位を確保するため、道中や直線で不利を受けにくく末脚も確実。「テンよし、中よし、終いよし」のフレーズがこれほど当てはまる馬もそうはいない。

しかも、懸念材料をまるで問題にしなかったように見える今回も、騎乗した川田将雅騎手によると、返し馬で「しんどい」と思った部分があったそう。そんな状態であっても、レース史上最高レベルのメンバー相手にこれだけの完勝を収めるあたり、名マイラーになる資質は十分にある。

一方、上位人気に推されながら4着以下に敗れた馬の中でまず触れたいのは、3番人気17着のボンドガール。

こちらは、直線でモロに不利を受けた当事者で、今回はまったくの参考外。次走、古馬相手に人気になりすぎるとどうかという気もするが、なにせ高レベルの新馬戦を好時計で勝った素質馬。今回の事象がメンタルに影響していないことを願わずにはいられない。

そして、4番人気ゴンバデカーブースは4着。

モレイラ騎手騎乗で、前走ボンドガールに先着。さらに、大半のメンバーとは初対戦で未知の魅力があるとはいえ、私自身はこの人気を過剰評価だと感じていた。

ところが、蓋を開けてみると中団追走からジリジリと脚を伸ばし、最後はクビ差4着。掲示板に載った馬では道中の位置が最も後方で、上がり3ハロン33秒9はジャンタルマンタルと同じく2位タイ。しかも、7ヶ月ぶりの実戦でキャリア3戦目というから驚くほか無い。

故障の影響とはいえ、父ブリックスアンドモルタルは5歳時に本格化して米国の年度代表馬に輝いた馬。おそらくゴンバデカーブースの本格化もまだ先で、将来マイル路線のトップグループに顔を出す可能性は十分にある。

写真:shin 1

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