[重賞回顧]過去の名馬のパフォーマンスに匹敵する圧逃劇~2021年・ニュージーランドトロフィー~

ニュージーランドトロフィーは、1ヶ月後に行われるNHKマイルカップのトライアルレース。3着馬までに、本番への優先出走権が与えられている。

今年は、フルゲートの16頭が顔を揃えたものの、重賞勝ち馬は不在で混戦模様。その中で、1番人気に推されたのはアヴェラーレだった。

父は、二冠馬ドゥラメンテ。母は、現役時NHKマイルカップで2着のアルビアーノという良血。ここまで2戦2勝で、2戦ともに直線で進路が詰まりながらも、最後の200mだけで前を差し切る強い内容。今回も含め、デビュー戦からすべてルメール騎手が騎乗している点も心強く、人気を集める要因となった。

僅差の2番人気となったのはバスラットレオン。ここまで、朝日杯フューチュリティステークス4着、札幌2歳ステークスとシンザン記念で3着と、重賞制覇にあと一歩のところまで迫っていて、実績では明らかに上位の存在。前走は、自己条件の1勝クラスを順当に勝利し、ここに臨んでいた。

3番人気に続いたのはタイムトゥヘヴンで、こちらも父ロードカナロアに母が桜花賞馬キストゥヘヴンという良血。2走前の京成杯で2着に好走しており、この馬も実績上位の存在だった。騎乗するミルコ・デムーロ騎手も好調で、1週間前に同じ舞台で行われたダービー卿チャレンジトロフィーを制していて、人馬ともに注目を集めた。

そして、4番人気となったのがサトノブラーヴ。デビュー戦となった前走の未勝利戦では、既走馬相手に2馬身差の完勝を演じた。また、何より魅力的なのはその血統。一つ上の半姉には、大阪杯を無敗で制したレイパパレがおり、姉弟で2週連続重賞制覇なるかにも注目が集まった。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ出遅れのないきれいなスタート。

ダッシュ良く飛び出したバスラットレオンがハナに立ち、ややいきたがる素振りを見せたサトノブラーヴが2番手。シティレインボー、ゲンパチミーティア、ワーズワースの3頭が、それに続く。

上位人気馬では、タイムトゥヘヴンがその直後につけ、1番人気のアヴェラーレは後ろから5頭目の位置にポジションをとった。

前半600mの通過は、35秒0のスロー。前の13頭がほぼ一団となり、後方3頭がそれぞれ2~3馬身の間隔で追走するような隊列で、先頭から最後方までは、およそ15馬身差。

3コーナーに入ってもペースはほぼ落ちることなく、1000mの通過(残り600m標識)は58秒5。この地点では、平均ペースになっていた。その、勝負所となる残り600m標識を迎えても、隊列は依然として変わらなかったが、バスラットレオンが少し仕掛けて、2番手以下をわずかに引き離す。

そして、4コーナーにさしかかるところで、ようやく後続も差を詰め、16頭はほぼ一団となって直線へと向いた。

直線に入ると、逃げるバスラットレオンは、内ラチから3~4頭分あけたところに進路をとる。そこからスパートをかけると、徐々に差が広がりはじめ、坂下で後続との差は3馬身。2番手争いは、シティレインボーが粘るところへ、外からタイムトゥヘヴンが追い込んできた。

しかし、バスラットレオンの勢いは坂を上っても全く衰えず、さらに後続を引き離すと、最終的には、2着に5馬身という決定的な差をつけて1着でゴールイン。

2着にタイムトゥヘヴン、3着にシティレインボーが入り、この3頭にNHKマイルカップへの優先出走権が与えられた。

良馬場の勝ちタイムは1分33秒1。重賞で度々好走していたバスラットレオンが、5度目の挑戦で、念願の重賞初制覇を達成した。

各馬短評

1着 バスラットレオン

上位争いを繰り返しながらも勝ち切れなった重賞の舞台で、ついに、鬱憤を晴らすかのような圧勝劇。

この日も良馬場だったが、ヨーロッパ系の血を持つ馬が上位にきていたため、少なくとも1週前よりは、力のいる馬場になっていたと推測される。

バスラットレオン自身も、札幌で新馬戦を勝利し、続く札幌2歳ステークスでも3着に入っているように、どちらかといえば持久力勝負、パワーが求められる馬場に適性がありそう。

そのため、NHKマイルカップが高速決着になるとやや分が悪いが、かといって、超のつくハイペースで逃げるか先行しない限り、大崩れもあまり考えられない。

条件があまりにも違いすぎるせいか、ニュージーランドトロフィーの勝ち馬は、なかなか本番で活躍できていない。ただ、この内容を見る限り、上位争いは演じてくれそうだが、果たしてどうなるだろうか。

2着 タイムトゥヘヴン

勝ち馬の直線での進路取りを見る限り、終始、外目を回らされたことが最後の伸びに繋がった。

距離面点でも、近4走の2000mよりは1600mが良さそうで、母キストゥヘヴンは、桜花賞を制しているものの、中山で重賞を3勝している。少し先の話になるが、9月の京成杯オータムハンデキャップに出走した際は、是非とも狙ってみたい。

3着 シティレインボー

パドックでイレ込み、道中も折り合いに苦労しているように見えた。しかし、直線でやや力のいる馬場の内目を苦にせず走りきり、3着に健闘。

もちろん、ジョッキーの手腕によるところが非常に大きいが、前走のように不良馬場になってしまうと厳しく、適度に力のいる馬場で、直線が長く坂のあるコースが良さそう。

レース総評

阪神競馬場で行われた2011年を除く過去10回で見ると、3番目に速いタイム。ちなみに、その期間での最速タイムは2010年の1分32秒9で、今回はそれと0秒2しか変わらない。

逃げ切ったバスラットレオンが刻んだペースは、前半800mが46秒7、後半800mが46秒4と、ほぼイーブン。それでいて、上がり最速を記録したのもバスラットレオンで、上がり2位のタイムトゥヘヴンを0秒4も上回っていたため、圧勝となるのも当然の結果だった。

馬場レベルを考えればそこまで特筆すべきタイムではなかったが、最後は、あまり追っていなくてもこの着差で、優秀な内容だったといえるのではないだろうか。

ところで、芝の道悪の平地重賞で、勝ち馬が後続を大きく引き離すことはたまにあるが、今回のように、芝の良馬場の平地重賞で、大きな差がついたレースはあまり記憶にない。

バスラットレオンと同じく、この条件で、2着馬に0秒9以上の差をつけた馬を調べてみた。すると、やはり該当例は少なく、2016年の小倉2歳ステークスを6馬身差で勝ったレーヌミノルが最後で、その前は、2013年の有馬記念を8馬身差で勝ったオルフェーヴル。さらにその前が、2009年のヴィクトリアマイルを7馬身差で勝ったウオッカと、後のGⅠ馬か、顕彰馬になるレベルの馬が記録している程度で、3~4年に1度しかない。

また、0秒8差以上で調べてみると、2019年の年末に複数例があり、有馬記念のリスグラシューや、阪神カップのグランアレグリア、阪神ジュベナイルフィリーズのレシステンシア、東スポ杯2歳ステークスのコントレイルなど、錚々たる顔ぶれが揃う。

他にも、2016年のクイーンカップをとてつもない好タイムで圧勝したメジャーエンブレムや、2012年にオークスを勝ったジェンティルドンナも、2着ヴィルシーナに0秒8差をつけていた。

もちろん、バスラットレオンが歴史的名馬になるとまでは言い切らないが、少なくとも、GⅠを勝ってもおかしくないだけのパフォーマンスを演じたことは確か。

そして、この馬を管理するのは矢作調教師。上述の通り、近年で複数の管理馬が圧倒的なパフォーマンスを演じたのは、矢作調教師だけである。 そういった意味でも、バスラットレオンが今後どこまで出世するのか注目していきたい。

写真:にわかトレーナー(牡)

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