3着馬までに秋華賞への優先出走権が与えられる、ローズステークス。
京都競馬場の改修工事の影響で、2021年も中京競馬場で開催されることとなった。
秋のトライアルの見所といえば、春のクラシックで活躍した既存勢力と、夏の上がり馬の対決。実績か勢いか。それとも、仕上がりか成長力か──。上がり馬は、その大半が賞金面で本番に出走できるかどうかの瀬戸際。優先出走権を得るため、トライアルでも100%に近い状態で出走してくることが多い。
近年のローズステークスはそういった馬の好走が目立ち、度々、波乱が演出されてきた。
2021年の出走頭数は、フルゲートの18頭。人気は割れて、単勝オッズ10倍を切ったのは5頭。
その中で、1番人気に推されたのはアールドヴィーヴルだった。
ここまで4戦1勝ながら、クイーンカップ2着の後、桜花賞とオークスではともに5着。GIで上位に入着した実績と、父キングカメハメハに、フサイチコンコルドやアンライバルドなどクラシック勝ち馬を輩出した名門の出身という血統の両面が注目され、上位人気に支持されていた。
2番人気はタガノパッション。
デビュー2戦目で初勝利を挙げると、オークストライアルのスイートピーステークスも連勝。押せ押せで挑んだオークスでも4着に好走し、実績ではやや抜けた存在。デビュー2ヶ月でオークスに辿り着いた実力を再び証明するため、そして重賞初制覇を狙い出走してきた。
僅差の3番人気にクールキャット。
昨年6月の新馬戦を勝利後、3戦連続重賞に挑戦するも、一息の成績。しかし、オークストライアルのフローラステークスで、新馬戦以来のコンビ復活となったルメール騎手を背に強い競馬を見せ、見事、重賞初制覇を飾った。オークスでは14着に敗れたものの、今回は再びルメール騎手とのコンビ。重賞勝ちの実績はメンバー唯一で、大きな期待を集めた。
さらに、ここも僅差の4番人気で続いたのはアンドヴァラナウト。
ここまで5戦2勝2着3回の成績で、前走1勝クラスを勝利したばかり。しかし、こちらも父がキングカメハメハで、母グルヴェイグは、ディープインパクトとエアグルーヴの娘という超良血。2勝クラスからの格上挑戦とはいえ、土曜日に年間100勝を達成した福永騎手が騎乗し、大きな注目を集めた。
そして、5番人気となったのがオヌール。
春は、オークスの権利取りを目指したフローラステークスで1番人気ながら8着に敗れ、今回はそれ以来5ヶ月ぶりの実戦。ただ、こちらも父ディープインパクトに、母はデビューから5連勝でフランスの牝馬二冠を制したアヴニールセルタン。キャリア3戦2勝の超良血馬で、騎乗するのが川田騎手という点でも、大きな注目を集めていた。
レース概況
ゲートが開くと、出遅れのないきれいなスタート。その中でも、とりわけ好スタートを切ったエイシンヒテンが真ん中から先手を奪った。
2番手には、大きく離れた外から内に入ってきたオパールムーンがつけ、その後ろをストゥーティが追走する。さらに、2枠の2頭とイリマ、アンドヴァラナウトが続き、アールドヴィーヴルはほぼ中団。タガノパッションとオヌール、そしてクールキャットは、中団やや後ろにポジションを取った。
前半1000mは、1分1秒2のスロー。にもかかわらず、先頭から最後方までは20馬身ほどの差があった。3コーナーに差し掛かっても、逃げるエイシンヒテンに対して、後続からのプレッシャーはないままリードは2馬身半。そして、残り600mを切ったところでエイシンヒテンがペースを上げ、膨れそうになりながらも、松若騎手がなんとか矯正して4コーナーを回り、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入っても、エイシンヒテンのリードは変わらず2馬身。追う2番手には、内からオパールムーンと外からアンドヴァラナウトが上がり、その後ろからは、アールドヴィーヴル、ストゥーティ、そしてタガノディアーナが追ってくる。
中で、最も勢いで勝っていたのはアンドヴァラナウト。そのまま坂を上ると、200mの標識を過ぎたところで先頭に立ったものの、エイシンヒテンも必死の抵抗を見せる。しかし、残り100mでアンドヴァラナウトが振り切ると、差は徐々に広がり、最後は1馬身4分の1差をつけて1着でゴールイン。2着にエイシンヒテンが続き、1番人気のアールドヴィーヴルは3着に終わった。
良馬場の勝ちタイムは、2分0秒0。夏の上がり馬で超良血のアンドヴァラナウトが、格上挑戦をものともせず快勝。紫苑ステークスのファインルージュに続いて、ソダシとユーバーレーベンのライバルに名乗りを上げた。
各馬短評
1着 アンドヴァラナウト
2勝クラスからの格上挑戦を跳ね返し、重賞初制覇。いかにも夏の上がり馬といった内容だった。
とはいえ、2戦目で敗れたのは、今回5着のタガノディアーナで、前々走敗れたプログノーシスは、毎日杯で後にダービーを勝つシャフリヤールから0秒3差の3着だった馬。
必ずしも三段論法が成り立たないのが競馬だが、レベルの高い相手と接戦を演じていたのは事実だった。
それにしても、超良血とはいえ条件戦を2勝しかしていないこの馬が、上位とほぼ変わらない4番人気というのは驚き。しかも、実際その通りに勝ってしまった。
デビューから6戦すべてで福永騎手が騎乗しているものの、同騎手は、先日の紫苑ステークスもファインルージュで勝利。果たして、どちらに騎乗するだろうか。夏の上がり馬で福永騎手といえば、2016年の秋華賞馬ヴィブロスを思い出すが、本番でその再現があっても驚かないような内容だった。
2着 エイシンヒテン
逃げ粘って2着を死守。後続からつつかれなかったのもラッキーだが、上手くスローに落とし、4コーナーをなんとか回りきらせた松若騎手のエスコートも素晴らしかった。
2走前の忘れな草賞で2着に好走しているものの、本来は、おそらくマイル前後の距離がベスト。エイシンヒカリの産駒らしく、父同様、気分良くいければ強いが、秋華賞ではソダシが自身の直後につく展開が予想される。プレッシャーを受け続けるレースになりそうだが、果たしてどうなるだろうか。
3着 アールドヴィーヴル
またしても惜敗で3着。スローな流れを中団からよく追い込んだともいえるが、重賞ではそれ以上突き抜けられていないのも事実。また、思った以上に、春から馬体重が増えていないのも意外だった。
勝ち馬同様、この馬も父キングカメハメハ・母の父ディープインパクトという血統構成。それだけ見れば、いつ大レースを勝ってもおかしくない。ただし本番で再び人気になった場合は、やや過剰人気と見ても良いかもしれない。
レース総評
前半1000mが1分1秒2で、後半1000mが58秒8の後傾ラップ。終始、縦長の隊列となり、中団より後ろで進めた馬に、ほぼチャンスはなかった。
一方、上位に入線した馬の中では、勝ち馬が素直に評価できそうな内容。そのアンドヴァラナウトは、道中、中団よりやや前の6番手を追走。ただ、常にメイショウオニユリとイリマが自身の内側にいたため、決してロスのない競馬ができていたわけではない。
血統背景に目を移すと、前述のとおり、祖母はエアグルーヴ。この一族は、やや晩成傾向にあるといわれており、曾祖母ダイナカールとエアグルーヴは、オークスを勝ってはいるものの、エアグルーヴに関しては、故障から復帰した4歳夏以降に本格化し、牡馬を撃破して天皇賞秋を制した。
また、その仔アドマイヤグルーヴとルーラーシップがタイトルを獲得したのも、クラシックではなく古馬混合のGI。レース前とレース中にアクシデントがあったとはいえ、エアグルーヴが10着に敗れた秋華賞で、孫が雪辱を果たすか注目される。
そして、このローズステークスで秋華賞の前哨戦はほぼ終了した。サトノレイナスが、故障で戦線を離脱したため、現状では、やはりソダシがトップで、その次にユーバーレーベンとアカイトリノムスメ。そして、ファインルージュとアンドヴァラナウトといった並びになるだろうか。
筆者の勝手な予想では、ユーバーレーベンは、おそらくぶっつけ本番には向かないタイプで、ローテーションではやや不利。それ以外の4頭は横一線で、4頭ともが中団より前につけそうだが、いずれにせよ、2番手につけると思われるソダシを巡ってのレースとなりそう。
そうすると、有力馬が前掛かりになりすぎて後続にもチャンスが、という展開にも十分に考えられる。そういう意味で、今年の秋華賞は、思っている以上に混戦かもしれない。
写真:バン太