[重賞回顧]大井に縁ある師弟が掴んだ大金星〜2020年・ジャパンダートダービー

今年で22回目を迎えたジャパンダートダービー。南関東3歳3冠の最終戦であると同時に、JRAからも有力馬が多数参戦してくる、文字通りダートにおける日本ダービーである。
今年は、南関東から東京ダービー勝ち馬のエメリミットをはじめとする5頭、JRAから国内外のダート重賞勝ち馬3頭を含む7頭、そして兵庫から1頭の計13頭で、その王座を争うこととなった。

そのなかで単勝オッズ1.1倍の圧倒的な1番人気に推されたのはカフェファラオ。昨年12月のデビュー戦を10馬身差の圧勝で飾ると、続くヒヤシンスステークスでは出遅れをものともせず快勝。さらに、前走のユニコーンステークスでは2番手から抜け出し、1分34秒9のレースレコードで5馬身差の圧勝と、まさに向かうところ敵なしでここに臨んできた。

2番人気に推されたのは、前走オープンの鳳雛ステークスを制し勢いに乗るミヤジコクオウ。ここまで5戦3勝で2着と3着が1回かいずつと底を見せておらず、血統面でもダートGⅠ9勝のエスポワールシチーの半弟と一本筋が通っている。

3番人気に続いたのは、カフェファラオのデビュー戦で2着したバーナードループ。デビュー戦の黒星以降は負け知らずの3連勝で、前走では交流重賞の兵庫チャンピオンシップを制した。
以後、ダイメイコリーダ、フルフラットの順で人気は続いた。

レース概況

ほぼ揃ったスタートのなかで、ゴールドボンバーとダイメイコリーダがわずかながら好スタートを切る。特にダイメイコリーダの二の脚が速く、そのまま楽に先頭に。ほんの少しダッシュがつかなかったダノンファラオと坂井騎手は、すぐに挽回して2番手に位置どりする。
人気のカフェファラオとミヤジコクオウが3番手を併走し、フルフラットとキタノオクトパスが5番手を併走する。さらに、その後ろに東京ダービー馬エメリミットが付け、1コーナーの入りがあまりスムーズではなかったバーナードループが押して先行集団を追う。リコーシーウルフがそれに続き、追込みを信条とするブラヴールは今回最後方からの競馬となった。

向正面ではかなり縦長となり、前半1000m通過タイムの61秒3は近10年でも2番目に速いタイム。

そんななか、相変わらず軽快に逃げるダイメイコリーダとそれを3番手から追走するカフェファラオ。前述の馬の外を併走する2、4番手のダノンファラオとミヤジコクオウは終始追いっぱなしで、手応えがあまりよくないようにも見える。
3コーナーに入るところで、JRA勢の7頭が固まりかけるが、残り600mを切ったところから先頭を行くダイメイコリーダとダノンファラオが3番手以下を引き離しにかかり、今度は逆にカフェファラオの手応えが怪しい。
レーン騎手が手綱を押して鞭を入れるも反応が鈍く、前2頭との差があっという間に4馬身ほど開いて最後の直線に向く。

直線に向くと、完全に前2頭のマッチレースとなり、ダノンファラオが半馬身ほど抜け出すがダイメイコリーダも必死に食らいつく。3番手は、人気馬2頭を外からキタノオクトパスが捉えるが、前とは既に5馬身以上の差がありなかなか詰まらない。そして、残り100mの地点でダノンファラオがダイメイコリーダを競り落とし、上位3頭の体勢はほぼ決した。

結局、ダノンファラオが1馬身4分の3をつけてゴールイン。見事に重賞初制覇を大舞台で決め、5年目の坂井騎手もこれが初のGⅠ級競走制覇となった。
ダイメイコリーダ、キタノオクトパスと続き、最後方待機を決め込んでいたブラヴールが、大外からものすごい末脚でミヤジコクオウを差しきり大健闘の4着。
東京ダービー馬エメリミットは6着、カフェファラオは7着に敗れる大波乱の結果となった。

各馬短評

1着 ダノンファラオ

同じAmerican Pharoah産駒でも、勝ったのはこちらだった。坂井騎手によると、前走の敗戦は前々走と間隔が短かったこともあるということだったが、内枠に入ってスムーズに先行できなかったたことも敗因だったように思う。
スタートでほんの少し遅れたが、すぐに馬を出していき、難なく2番手の外をとった坂井騎手の好騎乗は見逃せない。また、矢作調教師は今年芝・ダート両方のダービーを制したことになる。
一体、何頭の有力馬が出てくるのだろうか?
そして、今回は弟子の坂井騎手での勝利。
本当に素晴らしいチームだと思う。

2着 ダイメイコリーダ

父が米国のストームキャットの系統なので外枠は歓迎材料だったが、池添騎手のスタートから数秒のポジション取りで全てが決まった。道中も終始手応えが良く、最もしたい競馬ができたのではないだろうか。相変わらず大舞台に滅法強く、伏兵を上位へ導く素晴らしい騎手である。
また、毎年参戦してくるわけではないが、前走で阪神の3歳以上2勝クラスを連対してきた馬の好走は以前から目立っていて、来年以降もこのレースで覚えておきたい好走パターンである。

3着 キタノオクトパス

おそらく、東京マイルはそこまで得意ではないはずだが、前々走の勝ちっぷりが良く、前走も密かに期待していた。
今回は距離延長に加え、ペースが早めに流れてスタミナや底力が問われる展開となったことも、ステイゴールドとロベルトを併せ持つこの馬の好走要因になったのではないだろうか。上記のことからも、本当に得意なコースはゴール前に急坂のある中山の1800mや阪神の1800、2000mだと思われるが、それでいてこの健闘。根本的に、相当高い実力の持ち主なのではないだろうか。

7着 カフェファラオ

ダイメイコリーダとは逆に内枠で砂を被ることが心配だったが、現実となってしまった。初戦と2戦目が1番と3番。レース結果と枠順だけを比べれば、一見、内枠を克服しているように見える。しかし初戦は逃げ切り、2戦目も出遅れて後方から馬群の外をひと捲りしてのものである。続くユニコーンSは、外枠断然有利な東京マイルでの大外枠だった。

また、レースを見ていると1周目のゴール板通過直後に段差のようなところで躓いているように見受けられる。そのアクシデントの影響で1コーナーに逆手前で入ってしまい、リズムを崩した……とレーン騎手のコメントがあったようだ。今後も、内枠に入って、前にいく馬の砂を被ってしまいそうな時は注意が必要だが、そのポテンシャルの高さは疑いようがない。
立て直して、一線級での活躍を期待したい。

総評

スタートしてすぐに、二人の騎手が積極的に明確な意思表示をしてとりたいポジションをとり、結果的にその2頭で決着した。しかし、例年に比べても早めの流れを先行してのもので、次走以降も決して侮れない。

また、ダート戦の内枠は、例えば京都1800mのように断然有利なコースもあるが、逆に外枠有利なコースも多数存在する。上級クラスでは、思っている以上に出走馬同士の実力は接近しており、ほんの少しの要因でも着順は変わるため、今回のように断然人気馬が内枠に入ったときは、過去のレース内容をよく精査する必要があることを改めて実感するレースとなった。

最後に、矢作調教師と所属の坂井騎手は、共に大井競馬場に大変縁の深い二人ということは周知のとおりである。この師弟コンビは、既に4月の東京スプリントで重賞勝利を果たしているが、そこからちょうど3ヶ月で今度はGⅠを制した。固い絆で結ばれた師弟コンビが、縁の深い競馬場で大金星を掴んだ、感動的な瞬間であった。

写真:三木俊幸

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