イギリス競馬入門〜イングランドの平地競走について〜

今回は、「イングランドの平地競走」をご紹介していきましょう。
「イギリス競馬」と言えば、スコットランドにも競馬場はあります。
しかし日本でも知られているような大レースの開催はあまりありません。
また、イギリスは障害競走の人気も非常に高いですが、詳しく取り上げるのは別の機会にしましょう。

イギリス競馬のレースや仕組み、有名な開催など

イギリスではほぼ毎日、何処かの競馬場で競馬が開催されていて、平日開催は比較的小さな競馬場で行われています。G1レースや重賞のような注目度の高いレースは、基本的に土曜日開催。日本時間では土曜日深夜に開催されます。
しかし大きな開催が連日行われている場合には、平日でもG1レースが開催されることもあるので注意が必要です。

イギリスを含むヨーロッパの競馬は、基本的に芝が中心。
日本で見られるような砂のダートは存在しません。
平地競馬のメインシーズンは3月中旬から10月下旬までで、冬季はオフシーズンとなり、平地競馬の開催は一気に少なくなります。冬季といえば障害競馬が盛り上がっている期間でもあり、そちらは毎週のように障害のG1レースや重賞が行われています。

近年はイギリスの競馬場も徐々にオールウェザーが導入され始めており、主に下級条件戦で使用されています。オフシーズンに入った冬季の平地競馬はオールウェザーがメインとなり、逆に芝の平地レースは殆ど開催されていません。
イギリス競馬のオールウェザー戦の最高峰といえば、毎年2月下旬に行われるG3のウィンターダービーが該当します。ちなみにオールウェザーコースしかないリングフィールド競馬場のような競馬場も、イギリスには幾つか存在します。

近隣のアイルランドとの交流も盛んで、アイルランド調教馬がイギリスのレースに参戦することは、毎年何度もあります。イギリスの馬が近隣諸国のレースに遠征することもあり、アメリカやフランスの大レースでも頻繁に見かけます。特にフランスの凱旋門賞は毎年イギリス馬も多く出走しますし、秋の最大の目標に見据える陣営も多数います。
一方で、国内路線も充実しているため、フランケルのように他国に遠征しない馬もある程度いることは事実です。

まず一番有名な開催といえば、冒頭にも名前が出ていたイギリス王室主催のロイヤルアスコット開催でしょう。毎年6月中旬にアスコット競馬場で、5日間という日程にて開催され、エリザベス女王や王室のメンバーも臨席しています。
2019年の段階では8つのG1レースが組まれていますが、一番の注目は3日目に行われている伝統のゴールドカップ。4000mという世界でも有数の長距離G1レースで、エリザベス女王が表彰式でトロフィーを手渡すのも恒例です。

ロイヤルアスコット開催はG1レース以外も面白いレースが多数組まれていて、世界中から注目が集まります。特に2歳戦はどのレースも注目で、レースや開催年によってはアメリカなどから参戦してくる馬も加わって熱いレースが繰り広げられることも。
デビュー初戦を圧勝した大物候補や未知の伏兵など、今後の飛躍に期待が持てる逸材たちが一堂に会する開催でもあります。他にも最終日の5日目に行われる出世レースの中距離戦、G2・ハードウィックステークスも見逃せません。

8月中旬にヨーク競馬場で開かれるイボアフェスティバル開催も、イギリス競馬の中で大きな開催の一つ。
最も注目なのは高額賞金が設定された中距離戦のインターナショナルステークスです。過去にはゼンノロブロイも遠征しました。
イギリスの中距離馬が集まる毎年ハイレベルなレースで、秋の凱旋門賞にも繋がるレースと言われています。
更に、各国のオークスを制した3歳牝馬と古馬牝馬が対決するヨークシャーオークスも同開催に組まれています。そして100年以上の歴史を持つ高額ハンデ戦のイボアハンデキャップも、多頭数で大変盛り上がりを見せるレースです。

グッドウッド競馬場で7月下旬から8月上旬にかけて開かれるグロリアスグッドウッド開催も、注目度が高い開催です。こちらは過去に多くの名馬が勝ってきた欧州屈指のマイル戦であるサセックスステークスが、メイン競走として扱われます。そして夏の牝馬路線の重要な一戦と言われるナッソーステークスも、毎年豪華なメンバーが集まっているレースです。
2017年から新たにG1に昇格した長距離のグッドウッドカップも注目度が上がっているレースの一つでしょう。

シーズン終わりに近い10月下旬にアスコット競馬場で開催されるのが、ブリティッシュチャンピオンズデー。こちらは一年の総決算として各路線の大レースが行われる開催で、2011年から開始された比較的新しい取り組みです。
メインは何と言ってもチャンピオンステークス。各国の中距離馬が集まって最後の大レースを盛り上げます。
凱旋門賞に出走した馬が参戦することもあり、その後のBCターフや香港国際競走に直接繋がる一戦でもあります。
そして同開催で行われるもうひとつの大レースと言えば、マイルG1のクイーンエリザベス2世ステークスでしょう。シーズン終盤の一戦ということもあって、シーズン終了後の表彰にも繋がる可能性があり、各陣営からも重要視されています。
また、スプリント路線の総決算という位置づけの英チャンピオンズスプリントステークスも、要注目のレース。イギリスで活躍中のスプリンターが軒並み出走してくるため、近年はハイレベルなレースが続いています。

そしてイギリス競馬と言えば思い浮かべる人も多いと思われるのが、エプソム競馬場で行われる英ダービー。こちらは、先述の通り約40mとも言われる高低差を誇る起伏の激しいタフなコースで行われるレースとなります。この2400m戦は、世界各国のダービーの元になりました。
このレースを勝つことは大変名誉とされていて、ダービー馬の座を巡って毎年熾烈な争いが繰り広げられます。ちなみにここの勝ち馬が数週間後のアイルランドダービーも勝つと「2カ国制覇」と言われることもあります。

欧州を代表するレースで、長い歴史を持つ中距離戦の一つがキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。こちらはアスコット競馬場で行われる2400m戦で、過去の勝ち馬には錚々たる名馬が名を連ねる伝統の大レースです。
同年の英ダービー馬が参戦するケースもあり、ラムタラやガリレオが英ダービーとの同時制覇を達成しています。日本馬の遠征も何度か行われていて、ハーツクライやディープブリランテが挑戦したことで知られています。

そして、未来の活躍馬を探す2歳戦も見逃せません。牡馬の最高峰は10月に行われるデューハーストステークス。このレースの勝ち馬が欧州最優秀2歳牡馬を受賞することも多く、最も注目が集まる2歳戦とも言えるでしょう。さらに、来年のクラシックに繋がるという面では、数週間後に行われるヴァーテムフューチュリティトロフィーSも無視できない存在です。

イギリス競馬の2歳牝馬戦の重要なレースは2つ。
ひとつめは先に行われるチェヴァリーパークステークス。こちらは短距離のレースで、スピード自慢の快速牝馬が集まる6ハロン戦。過去にはドナブリーニも勝っています。
もうひとつはフィリーズマイル。こちらは来年のクラシックも見据えるような本格派の2歳牝馬が集まるようなマイルのレースです。近年は重要度も上がっていて、後に欧州年度代表馬を受賞することになるマインディングも、若き日にこのレースを勝っています。

ちなみにイギリスでは長距離戦の人気低下を受けて、指定のレースを勝てば報奨金が出る制度が設定されています。名前は「WHステイヤーズミリオン」で、用意された金額は100万ポンド。日本円で1億円以上という高額です。ボーナスを受け取る条件は「指定された4レースを全て勝つこと」。その指定レースには、G1レースも2つ指定されています。
2018年から始まった企画で歴史は浅いですが、関係者からは画期的なアイディアと高評価のようです。

ここまで、イギリス競馬、特にイングランドの平地競走についてお話してきました。本稿が皆様の海外競馬への興味を引き立てるものであれば幸いです。
写真:Y.Noda

あなたにおすすめの記事