イギリス競馬入門〜イギリスでの馬産について〜

今回は、イギリスでの馬産について、活躍している血統やセリなどに触れながら紹介していきます。

イギリス競馬の馬産とは?

イギリスの馬産地といえば、サフォーク州にある競馬の街・ニューマーケット。
そこには生産牧場から、種牡馬繋養牧場・育成牧場・調教場・競馬場と、競馬にまつわるほとんどの施設が揃っていると言えます。

街全体が「競馬を中心に動いている」と言っても過言ではないほどで、世界中から競馬関係者が訪れている、世界の競馬における一大拠点です。
また、ヨーロッパ最大級の競走馬セールを開催しているタタソールズ社も、同地に拠点を置いています。

しかし、イギリスで走る競走馬にはイギリス産馬もいますが、それを上回るほどのアイルランド産馬が走っています。
それもそのはず、英国のウェザビーズ社が公表した2017年の生産頭数ではアイルランドが1万頭ほどに対して、イギリスは5000頭程度とダブルスコアになっています。

そのため、イギリス競馬で活躍馬を多く輩出する種牡馬であっても実はアイルランドで供用されている……ということも、しばしば。
実際にガリレオやインヴィンシブルスピリットといった日本で有名な種牡馬は、アイルランドで供用されています。
ただし、イギリスも名種牡馬を供用している牧場は多くあり、ダーレーなどの有名牧場も拠点を置いています。
アイルランドの繁殖牝馬がイギリスの種牡馬を配合することも多く、隣国同士ということで交流も盛んです。

イギリス競馬の活躍血統について

活躍している血統と言えば、やはり欧州全土で猛威を振るっているサドラーズウェルズ系が筆頭に挙げられます。
アイルランドのクールモアスタッドで供用されている歴史的な名種牡馬のガリレオは、イギリスでも産駒が活躍中。
後述のフランケルを始め、英愛ダービー馬のオーストラリアや凱旋門賞馬のファウンドなどの名馬を輩出しました。
母父としても存在感を強めていて、日本産馬で英2000ギニー勝ち馬のサクソンウォリアーなどが活躍しています。

イギリスで供用されているサドラーズウェルズ系種牡馬といったら、やはりフランケルとナサニエルが有名でしょう。

フランケルは現役時代にG1を通算10勝、生涯無敗の14戦全勝で2度の欧州年度代表馬、不世出の名馬でした。
種牡馬入りしてからも勢いは止まらず、初年度世代から勝ち上がり率が高く、周囲の期待に見事に応える活躍を見せました。
今後のイギリスの競馬界を背負って立つ種牡馬として、さらなる活躍の期待が生産者から寄せられています。

そして忘れてはいけないイギリスの名種牡馬が、万能な適性で様々なタイプの活躍馬を輩出しているドバウィ。
現役時代は早逝したドバイミレニアムの遺した大物として期待され、マイル戦を中心にG1を3勝する活躍を見せました。
冬の休養中に故障したため、引退してモハメド殿下が所有するダーレーのダルハムホールスタッドで種牡馬入り。
種牡馬としては幅広い適性を発揮し、距離も馬場適性も不問の素晴らしい大活躍を見せて、更に評価を高めました。
後継種牡馬も多く、ゴドルフィンが誇るエース種牡馬として唯一無二の働きぶりを見せています。

また、アメリカの種牡馬ですが大西洋を跨いでイギリスで結果を残しているという珍しい種牡馬がキトゥンズジョイ。
ダートが主流のアメリカで、芝で賞金を稼ぎ続けて2013年の北米リーディングサイアーに輝いた経歴の持ち主です。
イギリスではホークビルやロアリングライオン、そして2020年の英2000ギニーを制したカメコなどが活躍しており、10ハロン以下を中心に旋風を巻き起こしています。
そのため、イギリスの馬主は産駒を積極的に輸入して走らせていて、出馬表でも名前を頻繁に見かける種牡馬となりました。

また、早熟種牡馬についても見逃せません。
日本では早熟種牡馬というジャンルはあまり定着していないかもしれませんが、イギリスでは安定した需要で立ち位置を確立しています。

アイルランドで供用される種牡馬ではありますが、ダークエンジェルは早熟で短距離に強い種牡馬の代表的な例。
早い時期の2歳戦から走れるという強みが馬主から好評となり、セールでは産駒が高額で取引されることもあるほどです。
また、こちらもアイルランドで供用中の種牡馬ですが、高い勝ち上がり率を誇るコディアックもイギリスで好評の種牡馬。
2017年にはサンデーサイレンスが持っていた2歳馬の勝利頭数記録(非公式)を更新する快挙を達成しました。

イギリスのセリ市について

毎年多くの日本人バイヤーも参戦する、魅力的な競走馬セールや繁殖牝馬セールも開催されているのもイギリス。
最も代表的なのが毎年10月にニューマーケットで開催されているタタソールズ・オクトーバーイヤリングセールになります。
1歳馬が対象のセリで、イギリスのみならずアイルランドの牧場で生産された素晴らしい血統の若駒も上場し、賑わいを見せます。

ブック1からブック4まで4つの開催で構成されていて、高額で落札される良血馬が多数集まるのは主にブック1となります。

2017年にはガリレオ産駒の牝馬が当時のレートで約6億円という高額で落札されて広く話題になりました。

そして同じくタタソールズ社が開催する欧州最大級の繁殖牝馬セールが、タタソールズ・ディセンバーセール。
1歳馬部門や当歳部門も同時に行われており、一番盛り上がる繁殖牝馬部門でフィナーレを飾るという流れで、12月上旬から開催されます。
時には現役牝馬も上場されていて、2017年はダビルシム産駒の現役馬が「億超え」でクールモアに落札されました。
日本人バイヤーが高額で落札するケースも多く、近年ではユーロシャーリーンや英オークス2着のアーキテクチャが来日しました。

また、時期的に日本人バイヤーの参戦はあまり見られませんが、毎年4月のクレイヴン開催が行われる週のニューマーケット競馬場を使って実施されるタタソールズ・クレイヴンブリーズアップセールも盛り上がります。
イギリスでは最大級の2歳馬トレーニングセールとして、近年は500万ギニー超えの落札馬も増えています。

余談ですが、イギリスに本社を構えるタタソールズ社は自社セールでの取引の通貨単位にギニーを用いています。
歴史が古く昔の慣習を受け継いだため伝統的にギニーを使用しているのですが、現代においてギニーという通貨は廃止されており、実際の取引実態は皆無です。
勿論、購買取引で実際にギニー通貨が使われているわけではなく、多くの場合はポンドを使って取引がなされています。
1ギニーは1.05ポンド。つまり1.05倍してポンド変換し、それを通貨レートに合わせて日本円に再変換することで、日本円での落札価格を調べることができます。一見するとややこしそうに思えますが、計算すると案外簡単ですね。
ちなみに、会場ではポンドでの価格表示が行われている場合もあるそうです。

ここまで、イギリスの馬産について、血統やセリを絡めながらお話してきました。本稿が皆様の海外競馬への興味を引き立てるものであれば幸いです。

写真:Y.Noda

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