イギリス競馬入門〜大人気の障害競走〜

イギリス国内では非常に高い人気を誇るが、日本ではあまり認知度が高くないというのがイギリスの障害競馬。
「海外競馬は好きだけど障害レースのことはよくわからない」という方も中にはいるのではないでしょうか。
そこで今回は、イギリスで開催されている障害競走の基本や情報をまとめて、簡単に紹介したいと思います。

イギリスの障害競馬(ナショナルハント競走)とは

イギリスを含むヨーロッパでは、平地競馬のシーズンは3月から10月まで。冬季には芝のレースがほとんど開催されません。
そのオフシーズン中に盛んになるのが障害競馬です。イギリス国内では、平地競馬を凌ぐほどの大人気を誇っています。
一言で「障害競馬」と言っても奥が深いので全てを紹介することはできませんが、基本の部分を簡単に紹介していきます。

まず障害競馬と平地競馬の決定的な違いといえばレース中に設置された障害。その障害も数種類が存在します。
基本的に障害の高さが低くて飛び越えやすく、障害用の競走馬にとっては入門編とも言える部門が「ハードル」。
他と比べてスピードが出やすく、駆け抜けるようなスピードでジャンプしていく爽快感が特徴のジャンルです。
ハードルで実績を積んだ馬は、後述のチェイスへと転向していきますが、ハードルの名馬イスタブラクのように残り続ける馬も時にはいます。

設置された障害がハードルと比べて高くて飛越が難しいのが「スティープルチェイス」、通称「チェイス」です。
ハードルレースで障害競走に慣れてきた馬が活躍の場を移す部門で、チェルトナムゴールドカップが最高峰の一つになります。
障害は固定が基本なので日本の障害競走もチェイス扱いですが、日本とは比べ物にならないほど高い障害になります。
日本で有名なグランドナショナルもチェイスに入りますが、チェイスの中でも過酷と言われる超長距離戦です。

そして障害競走でありながらも障害を一つも飛ばないレースが、バンパーと呼ばれる「ナショナルハントフラットレース」。
これはデビューしたばかりの新馬向けのレースで、障害は飛ばないものの距離は障害競走と同じ距離を走っています。
出走には年齢制限も設けられており、最高峰はチェルトナムフェスティバルのチャンピオンバンパーです。

障害の種類は上記の3つが基本。行われているレースもチェイスとハードルとバンパーで分類されています。
他には、アマチュア騎手のみが騎乗するポイント・トゥ・ポイント競走というレースも時折開催されています。
こちらは若手騎手を育成する役割も担っているため、障害レースですが危険度の低い障害が設置されています。

イギリスにおいては主流ではありませんが、クロスカントリーレース用のコースも一部の競馬場にはあります。
通常のチェイスでは使用されないバンケット障害などの過酷な障害が置いてあり、距離も6000m以上が主流です。
コースも曲がりくねっていたり連続で障害を飛越したりとタフで、高い能力と豊富な経験が求められます。

イギリス障害競走のクラスや施行条件など

チェイスやハードルに転向したての経験が浅い馬向けに用意されている条件が、ノーヴィスというレース。
基本的には未勝利戦や条件戦のような立ち位置で、条件は出走経験が浅い馬に限定されて行われています。
しかしイギリス競馬ではノーヴィス戦のG1レースや重賞も開催されており、登竜門的な存在になっています。
なおハードルでどんなに実績がある馬でも、チェイス転向後はノーヴィス戦からの再スタートができます。

障害競走ではゲートは使わず、一箇所に出走馬が集まって紐が上げられたらスタートするバリア式という発走方法を採用しています。
発走地点で御する巧みな技も騎手の腕の見せ所。できるだけ前の位置取りを確保することも大切な戦略の一つです。
なお長時間が経っても馬が落ち着かない場合は、発走委員の判断で騎手に対してペナルティが与えられます。

馬場は全て芝コースで開催されていて、オールウェザーの馬場を使用して障害競走が行われることはありません。競馬場は平地用の競馬場に障害コースが設置されていることが殆どですが、障害専用の競馬場も存在します。

斤量は平地を上回る重さで70kg台も普通。危険防止のために速度を落とす目的で重い斤量が設定されています。そのため障害競馬に騎乗している騎手は特に背が低いわけではなく、高身長の方にも門戸が開かれています。

障害用競走馬は平地と違って2歳でデビューすることはなく、3歳から6歳の時期にデビューしている馬が大半です。一部では平地からの転向組もいますが、多くは最初から障害競走用に生産された馬なので平地競走は使いません。
なお、障害用競走馬の牡馬は殆どは去勢されています。これはレースで暴れる危険を防止するためだと言われています。中には牝馬もいて牝馬限定戦も存在しますが、チェイスには転向せずハードルに留まる牝馬が多い印象です。

障害レースに出走する馬は障害用競走馬と言いましたが、父は平地競走で活躍していたという馬が多いです。
主に障害レースで活躍した牡馬は上記の理由で既に去勢されているので種牡馬入りできず、子孫が残せません。
そこで使われているのが平地で活躍した牡馬。長距離で活躍した馬が障害用種牡馬になる傾向があります。
また、平地用種牡馬だったが失格の烙印を押されて障害用種牡馬に転向するというケースも存在します。

そうして障害競走馬は生産され、イギリスの障害競馬ファンを虜にしています。

ここまで、イギリス障害競走の基本的な部分についてお話してきました。本稿が皆様の海外競馬への興味を引き立てるものであれば幸いです。

写真:Y.Noda

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