[重賞回顧]師弟コンビが巻き返し、新種牡馬のホープたちを撃破~2021年・京王杯2歳S~

2021年で57回目を迎える京王杯2歳Sは、長年、関東で行なわれる唯一の2歳GⅡだった。

過去10年の勝ち馬で後にGI馬となったのは、2017年に勝利したタワーオブロンドンのみ。しかし、その前年の2着馬レーヌミノルは、翌春の桜花賞を制覇。2013年の6着馬モーリスは、後に国内外のGIを6勝して年度代表馬に輝いた。他にも、2012年の2着馬ラブリーデイは、5歳時に重賞を6勝し、そのうちGI・2勝と大活躍。このレースで敗れた馬からも、後のGI馬が多数誕生している。

近年は、前走重賞で好走した馬が活躍しているものの、今年は該当馬が不在。実力伯仲のメンバーで、単勝オッズ10倍を切ったのが5頭。その中で、やや抜けた1番人気に推されたのがコラリンだった。

デビュー戦は4着に敗れるも、未勝利戦とオープンのカンナSを連勝。騎乗するルメール騎手にとっては、過去4戦4勝と相性抜群のレースでもある。昨年も、同じダイワメジャー産駒で、ノーザンファームが生産したモントライゼで優勝。今回は、騎乗機会5連覇がかかっていた。

ここからは新種牡馬の産駒が4頭名を連ねた。まず、2番人気に推されたのは、シルバーステート産駒のベルウッドブラボー。6月に、このコースで行なわれた新馬戦は3着に敗れたものの、未勝利戦とオープンのダリア賞を連勝。実績上位で、大きな注目を集めていた。

僅差の3番人気にラブリイユアアイズ。こちらは、現役時にGIを3勝したロゴタイプの産駒で、デビューから2連勝中。特に、前走のクローバー賞は2着に2馬身半差をつける完勝で、勢いそのままに、重賞制覇なるか注目されていた。

4番人気に続いたのはトウシンマカオ。2016年の高松宮記念を制したビッグアーサーの産駒で、前走、新潟の新馬戦を完勝した。そのレースは、父が現役時に実績のなかったマイル戦。距離短縮はむしろ歓迎材料とされ、この馬も期待を集めていた。

そして、僅かの差で5番人気となったのがシゲルファンノユメ。2016年の皐月賞馬ディーマジェスティの産駒で、ここまで3戦1勝2着2回。前走はコラリンに僅差で敗れたものの、直線で見せた力強い末脚は父の現役時を彷彿とさせるもの。その末脚が、東京の長い直線で存分に発揮されるか、多いに注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、7枠のジャスパークローネが外に逃避。影響を受けた8枠の2頭が、後方からのレースを余儀なくされる。

一方、前はトウシンマカオが好ダッシュ。逃げる構えを見せたが、最内枠からスズカコテキタイがハナを奪い、キングエルメスが2番手。3番手に下げたトウシンマカオにセルバーグが並びかけ、5番手には、巻き返したジャスパークローネなど3頭が横一線だった。

一方、人気のコラリンはそこから4馬身離れた10番手。ベルウッドブラボーは、後ろから3番手でレースを進めた。

前半600mは、35秒1のスロー。その次の1ハロンは12秒1とさらにペースが落ち、先行馬にとっては楽なペースとなっていた。しかし、先頭から最後方までは12馬身ほどの差で、隊列はやや縦長のまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、すぐにキングエルメスが先頭に並びかけ、残り400mで単独先頭に。1馬身差の2番手にトウシンマカオが上がり、坂の頂上から、2頭が徐々に後続を引き離しはじめる。一方、3番手まで上がってきたのは、ラブリイユアアイズとコラリンの2頭。残り100mで、トウシンマカオまで1馬身差に迫るも、そこからがなかなか縮まらない。

しかし、トウシンマカオも前との差を詰められず、最後はキングエルメスがやや余裕を持って1着でゴールイン。1馬身4分の1差の2着にトウシンマカオが続き、ラブリイユアアイズがクビ差の3着となった。

良馬場の勝ちタイムは1分21秒3。前走のクローバー賞で、1番人気に推されながら5着に敗れていたキングエルメスが巻き返し、重賞初制覇を達成した。

各馬短評

1着 キングエルメス

前走は前進気勢を欠き、最後に差を詰めたものの5着。今回も、追い切りで右にもたれる面を見せるなど、気性面の難しさは抱えるが、翌日にブリーダーズCを2勝したトップトレーナーが立て直し、見事に勝利した。

ただ、気性面からはあてにしにくいタイプで、1600mだと少し長そう。それでも、他に先行馬がいないメンバー構成で気分よく走れれば、好走してもおかしくない。レース後の検査で右前球節部に骨片の遊離、左前球節部の骨に亀裂線が見つかったのは、残念でならない。

騎乗した坂井瑠星騎手は、師匠・矢作調教師の管理馬でJRAの重賞5勝目。他、2020年のジャパンダートダービーなど、ダートグレード競走を2勝している。1期下の横山武史騎手の活躍にも刺激を受けているはずで、今度はJRAのGI制覇が期待される。

2着 トウシンマカオ

スタートも良かったが、この馬のセールスポイントは二の足が早い点。スッと前にポジションを取り、ペースが遅くても、引っかかるようなところがない。今回に関しては、結果論になるものの、勝ち馬と同じポジションでレースを進めていれば、着順は入れ替わっていたかもしれない。

このセンスの良さを活かすことができれば安定して好走できそうで、次走どんなレースを見せてくれるのか楽しみな存在。1400mが最適とは思うが、再度1600mのレースで見てみたい。

3着 ラブリイユアアイズ

スタートで少し遅れたため、中団からのレースとなってしまった。前走を見る限り、この馬も、勝ち馬と同じポジションでレースをしたかったはず。

父のロゴタイプは、2歳夏の北海道で4戦して力をつけ、11月末のベゴニア賞をレコード勝ち。その後、朝日杯フューチュリティS、スプリングS、皐月賞まで4連勝。皐月賞は当時のコースレコードで、そこまでは、ほぼ無敵の活躍を見せた。

既に、父の父ローエングリンは種牡馬を引退。先日は、メイショウサムソンの種牡馬引退も発表された。そのため、内国産のサドラーズウェルズ系種牡馬は貴重な存在。ラブリイユアアイズには、ロゴタイプ産駒を引っ張るような活躍を期待したい。

レース総評

前半の600mが35秒1。その次の12秒1を挟んで、後半の600mは34秒1の後傾ラップだった。

上位3頭は、いずれも中団より前でレースを進めていた馬。後方からレースを進めたコラリンや、ベルウッドブラボー。そして、スタートで煽りを受けたシゲルファンノユメにとっては、厳しい展開となった。

率直に言えば、タイム面ではあまり評価できない。ただ、キングエルメスは次走も気分よく走れるか。そして、トウシンマカオは次走以降もセンスあふれるレース運びを見せてくれるかなど。この先の楽しみが、いくつか見出せるレースでもあった。

また、このレースには、外国産馬を除く新種牡馬の産駒が4頭も登場。いずれも、上位人気に推されていた。

現役時、ケガに悩まされたシルバーステートは大レースに縁がなかったものの、GI級の潜在能力を秘めていた可能性は高く、それ以外の3頭はすべてGI馬。

まず、ビッグアーサーに流れる、サクラユタカオー、サクラバクシンオーと続くプリンスリーギフトの血は世界的にも貴重。今後も大きな期待が集まる。また、前述したとおり、サドラーズウェルズ系の内国産種牡馬も貴重で、ロゴタイプにも同様の期待がかかっている。

一方、ディーマジェスティは名牝系の出身。祖母の兄にイギリスダービー馬ジェネラスがおり、近親には、タワーオブロンドンやオセアグレイトなど重賞勝ち馬が多数。さらに、3代母の姉の子孫からは、凱旋門賞を連覇したトレヴが誕生。国内ではミッキーロケット、フリオーソといったGIも誕生している。

近年は繁殖牝馬のレベルも上がり、毎年のように新種牡馬の産駒が活躍。2021年の新種牡馬ランキング(中央+地方)では、11月7日現在、ドレフォンが1位。以下、シルバーステート、イスラボニータ、キタサンブラックの順となっている。また、2歳馬全体のランキングでも、ドレフォンが5位、シルバーステートが6位と大健闘。土曜日のファンタジーSでは、ウォーターナビレラが、シルバーステート産駒初の重賞制覇を達成した。 先々週のアルテミスSから毎週のように行なわれ、年末には、3週連続でGIが開催される2歳の重賞。新種牡馬の産駒にも、これらのGIで上位人気に推されそうな馬がおり、そういった馬たちの活躍はもちろんのこと、さらなる新星の登場も大いに期待される。

写真:shin 1

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