[重賞回顧]名手の悲願、叶うとき~2021年・朝日杯フューチュリティステークス~

ホープフルSがGIに昇格以後、2歳マイル王決定戦に姿を変えつつある朝日杯フューチュリティS。2018年から2020年のNHKマイルカップを制した馬は、いずれも、当レースに出走していた。

ただ、クラシックとも無縁なわけではなく、牝馬ながら果敢に挑戦するも3着と敗れたグランアレグリアは、その後、中111日のブランクをものともせず桜花賞を制覇。それを皮切りにGIを6勝し、歴史的名牝となった。

また、2019年に当レースを制したサリオスは、皐月賞とダービーで2着。2020年の2着馬ステラヴェローチェも、皐月賞とダービーで3着に好走している。

2021年の出走馬は15頭。単勝オッズ10倍を切った上位人気4頭は、いずれもここまで無敗。その中でも人気は2頭に集まり、1番人気に推されたのはセリフォスだった。

新馬戦、GⅢの新潟2歳S、そしてGⅡのデイリー杯2歳Sと、一戦毎にグレードを上げ3連勝。いずれも、着差以上の完勝を収めてきた。父は、2歳戦に強いダイワメジャーで、2018年の覇者アドマイヤマーズも同産駒。デイリー杯2歳Sからの臨戦過程も同じで、4戦全勝での2歳マイル王戴冠が期待されていた。

2番人気はジオグリフ。こちらはデビューから2連勝で、前走の札幌2歳Sは、2着を4馬身突き放す圧巻の内容だった。父ドレフォンは、2021年に産駒がデビューした新種牡馬。先日の阪神ジュベナイルフィリーズは、新種牡馬の産駒が2、3着に好走しており、ジオグリフにも同様の期待がかかっていた。

やや離れた3番人気にドウデュース。こちらもキャリア2戦2勝で、前走は、リステッドのアイビーステークスを勝利。騎乗する武豊騎手は、これまで数々のGIを制しているものの、朝日杯フューチュリティSは未勝利で、競馬界の七不思議の一つといわれている。天才ジョッキーに悲願のタイトルをもたらすことができるか、大きな注目を集めていた。

そして、4番人気のダノンスコーピオンも、やはりここまで2戦2勝。新馬戦と前走の萩Sは、ともに少頭数のレースながら上がり最速で勝利していた。特に、前走で破ったキラーアビリティは、来週のホープフルSで上位人気が予想される素質馬。そう考えれば、ここでも十分に通用しておかしくなく、3連勝でのGI制覇が期待されていた。

レース概況

ゲートが開くと、アルナシームはダッシュがつかず最後方からの競馬となった。一方、先手を奪ったのはカジュフェイスで、セッカチケーンが2番手となり、内枠の2頭が先行。

やや二の脚がつかなかったセリフォスは巻き返し、プルパレイと3番手を並走。ダノンスコーピオンは下げ、ドウデュースや、前につけると思われたオタルエバーとともに中団に。ジオグリフは、先頭からおよそ15馬身離れた、後方2番手に控えていた。

最初の600m通過は34秒3、800m通過が46秒2の平均ペース。中間点まではかなり縦長の隊列となったものの、ジオグリフなどの後方待機組が、残り600mの標識を前に上昇を開始。4コーナーで、15頭が10馬身以内の差となり、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入り、逃げるカジュフェイスを、内からかわしにかかったのがプルパレイ。そこに、トゥードジボンとトウシンマカオも加わるが、セリフォスが外からまとめてかわし、坂下で先頭。後続を引き離しにかかったが、そこへ大外から末脚を伸ばしたドウデュースが迫り、そこからは2頭のマッチレースとなった。

その後、100m近く競り合いは続いたが、最後わずかに上回ったのはドウデュース。ゴール前で体半分抜け出し、見事1着でゴールイン。僅かに及ばなかったセリフォスが2着。さらにそこから半馬身差の3着に、ダノンスコーピオンが入った。

良馬場の勝ちタイムは、1分33秒5。ドウデュースが、デビュー3連勝で2歳マイル王となり、騎乗した武豊騎手は、再び友道調教師とのタッグ(2019年の菊花賞をワールドプレミアで制覇)で、2年ぶりのGI勝利。当レース22回目の挑戦で、ついに初制覇を達成した。

各馬短評

1着 ドウデュース

道中は、ダノンスコーピオンとともに、ちょうど中団を追走。2着のセリフォスから仕掛けをワンテンポ遅らせ、馬場が良い外目を伸び勝利した。

この、ギリギリまで仕掛けを我慢し、最後に末脚を炸裂させた武騎手の騎乗。サンデーサイレンスの産駒や、その孫とともに数々のGIを制した、かつての武騎手が戻ってきたような勝ち方だった。来週のホープフルSで全GI制覇なるか、期待がかかる。

ハーツクライ産駒の距離短縮がマイナスに出ると考えたファンも少なくなかったかもしれないが、それをまったく問題にせず勝利。来春、クラシックに進むとすれば、今度は距離延長となるが、果たしてどういったレースを見せてくれるだろうか。

2着 セリフォス

二の脚がつかないのは、ここ2戦と同じ。その後すぐに、前につけるため出していったものの、今度は少し掛かってしまい、それが最後の最後で響いた。そのため、最も強い競馬をしたのはこの馬だったともいえ、2着に敗れたからといって評価が下がるものではない。

ただ、ダイワメジャー産駒はお尻が大きくなりすぎることがあり、後ろ脚で支えられないと、重心が後ろに落ち込んでしまう。パドックを見る限り、現状のセリフォスはそうなっていないように思うが、今後の成長過程で、二の脚がつかないという課題が、より顕著になる可能性もある。

3着 ダノンスコーピオン

スタートは良かったものの、控えたところ、思った以上に下がりすぎたのか、中団からの追走となった。理想は、おそらくセリフォスがつけていた位置で、もう一列前でレースを進めたかったはず。直線も外に持ち出すことができず、馬場の中央を通って伸びるも、僅かに及ばなかった。

こちらも、マイル路線であれば、現状はトップクラスに位置するが、母系はサドラーズウェルズの系統。2000mまでは、十分にこなすのではないだろうか。

レース総評

前半800mが46秒2、後半の800mは47秒3で前傾ラップ。外回りコースのレースで、先行馬にはやや厳しい展開となった。勝ったドウデュースはもちろんだが、好位追走から2着に惜敗したセリフォスや、直線あわやの見せ場を作り、6着に粘ったトウシンマカオも強いレースをしたといえる。

また、距離短縮がマイナスに出たのが、5着のジオグリフ。序盤は、後ろから2番手でレースを進め、勝負所で差を詰めたものの、直線は及ばなかった。それでも使った上がりは、勝ち馬と同じく最速タイの34秒5。前走のように、淀みない流れを後方で追走し、長く良い脚を使う持久力勝負。そして、コースを1周するようなレースが得意なはずで、改めて皐月賞で注目したい。

また、新種牡馬の産駒が好走した阪神ジュベナイルフィリーズとは対照的に、朝日杯フューチュリティSは、ベテラン種牡馬の産駒がワンツー。ドウデュースの父ハーツクライと、セリフォスの父ダイワメジャーは、同じ2001年生まれで、2004年のクラシックを走ったライバル。

ただ、ハーツクライは2020年に種牡馬を引退。ダイワメジャーも、近年は種付け頭数を制限しているため、ドウデュースとセリフォスには、今後もさらなる活躍が期待される。

写真:俺ん家゛

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