[重賞回顧]「昨日の敵は今日の友」。有馬記念で対峙したタッグからGI馬が誕生!~2021年・ホープフルS~

例年、翌春のクラシックを目指す逸材が集うホープフルS。GIに昇格して5年目と、その歴史は浅いものの、過去に当レースを制したサートゥルナーリアやコントレイルは、後にクラシックも制覇。2020年も、4着に敗れたタイトルホルダーが菊花賞を制し、2着オーソクレースも、菊花賞で2着に好走。ワンツーを決めている。

2021年のホープフルSにエントリーした若駒は15頭。人気は、有馬記念と同様、二強のような図式となり、僅かの差で1番人気に推されたのはコマンドラインだった。

サンデーレーシングから総額1億4000万円で募集されたディープインパクト産駒で、関東で最初に行なわれた2歳新馬戦を完勝。そこから4ヶ月の休養を経て臨んだ前走のサウジアラビアRCも勝利し、重賞初制覇を達成した。アーモンドアイと同じく、ルメール騎手が騎乗する国枝調教師の管理馬。無敗の3連勝でGI制覇なるか、注目されていた。

2番人気も、同じディープインパクト産駒のキラーアビリティ。デビュー戦は5着に敗れるも、続く未勝利戦では2着に7馬身差をつけレコード勝ち。注目を集める存在となった。前走の野路菊Sは2着に敗れたものの、その相手は、先日の朝日杯フューチュリティSで3着に好走したダノンスコーピオン。それを考えれば、今回も好走する可能性は大いにあり、勢いに乗る横山武史騎手とともにGI制覇を狙っていた。

2頭から、やや離れた3番人気に推されたのがサトノヘリオス。デビュー戦こそ4着に敗れたものの、この世代のトップクラスにいるとされるイクイノックスを上回り、1番人気に推されていた。その後、未勝利戦と出世レースのエリカ賞をともにレコードで勝利。初戦の評価が正しかったことを証明した。前走から中1週でのレースながら、こちらも3連勝で初タイトルなるか注目を集めた。

そして、僅差の4番人気に続いたのがジャスティンパレス。この馬もまた、上位人気2頭と同じくノーザンファーム生産のディープインパクト産駒。前走は、1勝クラスの黄菊賞を制し、ここまで2戦2勝。C・デムーロ騎手とは初タッグとなるものの、同騎手は、4年前にタイムフライヤーで当レースを制している。コマンドラインと同様、デビューから3連勝でのGI制覇が期待されていた。

レース概況

ゲートが開くと、駐立が悪かったコマンドラインが伸び上がるようなスタート。後方からの競馬を余儀なくされる。

先手を切ったのはグランドラインで、ボーンディスウェイが2番手。キラーアビリティがその後ろに続き、逃げると思われたオニャンコポンは、4番手で1コーナーを回った。

5番手にラーグルフとタイラーテソーロが並び、ジャスティンパレスは中団7番手。そこから2馬身離れたところにサトノヘリオスが続き、コマンドラインは、後ろから5番手を追走していた。

前半1000mは、1分0秒1の平均ペース。先頭から最後方のクラウンドマジックまでは、およそ20馬身と縦長の隊列。その後、3コーナーを回ったところで、12馬身ほどに凝縮した。

レースが動いたのは、残り600mの標識を通過してから。先行集団に大きな変化は無いものの、中団からサトノヘリオスが4番手までポジションを上げ、ジャスティンパレスもスパートを開始。コマンドライン以外の上位人気3頭は、前を3馬身ほどの射程に捉え、最後の直線を迎えた。

直線に入るとすぐ、ボーンディスウェイとキラーアビリティがグランドラインに並びかけ、坂の途中でキラーアビリティが単独先頭に。ジャスティンパレスがそれを追い、サトノヘリオスは失速して後退。そのあおりを受けたコマンドラインは進路がなくなり、後方でもがいていた。

一方で前は、ジャスティンパレスが必死に追うも、キラーアビリティの堅調な末脚は衰えず、最後は1馬身半差をつけ、見事1着でゴールイン。2着にジャスティンパレスが続き、3着にラーグルフが入った。

良馬場の勝ちタイムは、2分0秒6。1勝馬のキラーアビリティが、重賞初制覇をGIの舞台で決めた。

各馬短評

1着 キラーアビリティ

前走オープンで2着に敗れ、1勝クラスにも出走可能だったが、人気に応えてGI制覇。それも、3番手から早目に抜け出して押し切る、堂々の勝ちっぷりだった。

小回りコースで、ともすれば、機動力の差で先行馬に押し切られる可能性も考えられたが、瞬発力一辺倒のディープインパクト産駒ではないところを見せつける内容。そんな、海外のトップジョッキーがここ一番で披露するような乗り方をしてみせたのは、またしても横山武史騎手だった。

その横山騎手は、日曜日の有馬記念で、今回と同じ勝負服を着てエフフォーリアに騎乗。斉藤調教師が管理するクロノジェネシスを破ったが、今度は斉藤調教師とのタッグでGIを制覇。この後の最終レースでも通算300勝を達成し、手のつけられない活躍を見せている。

2着 ジャスティンパレス

スタートしてすぐ引っかかりそうになったものの、1コーナーに入ると落ち着き、上手く流れに乗った。直線では右鞭に反応して外へ寄れ、その後、内に寄れるなど若いところも見せたが、勝ち馬との差は逆転できないほどの差ではない。

半兄には、先日のステイヤーズSで2着に好走したアイアンバローズや、米国のベルモントSを制したパレスマリスがいる良血。この馬もクラシック候補といって間違いない。

3着 ラーグルフ

前走、同じコースで行われた芙蓉Sを勝利して以来、3ヶ月ぶりのレース。丸田騎手が上手く乗り、好位のインでレースを進めたものの、最後はディープインパクト産駒2頭に僅かに伸び負け惜敗した。

モーリスの産駒で、ここから良くなる可能性は非常に高い。また、中山巧者の可能性があり、弥生賞やスプリングS、皐月賞、セントライト記念、来年の有馬記念など。中山競馬場の重賞に出てきたときは、注目したい存在。

レース総評

前半1000m通過は1分0秒1で、後半の1000mが1分0秒5と、ほぼイーブンペース。淀みない流れとなり、多少上がりは掛かったものの、ディープインパクト産駒のワンツーとなった。

この2頭に、東京スポーツ杯2歳Sを制したイクイノックス。そして、朝日杯フューチュリティSを制したドウデュースを加えた4頭が、現状、牡馬のトップクラスだろうか。

一方で、心配なのがコマンドライン。ここまでの2戦が超スローペースだったことも影響したが、それ以前にまずスタートで立ち後れ、1コーナーに入る前にフィデルと度々激突。直線でも行き場をなくすなど、精神的なダメージが残らないか心配になるようなレースだった。

一方、キラーアビリティに騎乗した横山武史騎手は、これが今年GI・5勝目。ルメール騎手と並び、2021年のGI最多勝利騎手となった。

そのうち、今回と菊花賞は乗り替わりでの勝利。タイトルホルダーには騎乗経験があったものの、キラーアビリティは初騎乗だった。とはいえ、調教には2週連続で跨がっており、そこでしっかりとコンタクトを取っていたからこその勝利だった。

前述したように、横山騎手は最終レースも勝利して通算300勝を達成。他にも、2年連続で関東リーディングを獲得するなど、まさに大車輪の活躍といえる1年を締めくくった。

JRAの表彰には、MVJという騎手のタイトルがあり、勝利度数、勝率、獲得賞金、騎乗数の順位によって決まる。そのため、2021年もルメール騎手が同賞を獲得する可能性が高いが、もし、印象度で決まる「年度代表人」もしくは「年度代表騎手」というタイトルがあれば、横山武史騎手を選ぶ人も数多くいるのではないだろうか。

写真:shin 1

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