クラシック第一弾の桜花賞は、2番人気に推された馬が四連覇中。その中身をみると、アーモンドアイ、グランアレグリア、デアリングタクト、ソダシなど、錚々メンバーが名を連ねている。また、ダイワスカーレットやブエナビスタ、そしてジェンティルドンナなど。一時代を築いた最強馬は、このレースから誕生したといっても過言ではない。
迎えた2022年の桜花賞は、絶対的な存在がいない混戦ムード。ただ、単勝オッズは「三強」の様相を呈し、チューリップ賞の人気順が、そのまま反映される格好となった。
1番人気に推されたのはナミュール。デビュー2連勝で臨んだ阪神ジュベナイルフィリーズは、出遅れが響き4着に敗れるも、前走のチューリップ賞を完勝。実績面は申し分なく、大外18番を克服できるかがポイントだった。
2番人気は、阪神ジュベナイルフィリーズを制したサークルオブライフ。前走のチューリップ賞では、一転、先行して3着に惜敗。ただ、前哨戦としては上々の内容で、ナミュールと同様、外枠を克服できるかがポイントだった。
3番人気に続いたのはウォーターナビレラ。デビュー3連勝で挑んだ阪神ジュベナイルフィリーズは3着と健闘し、前走のチューリップ賞は5着だった。ただ、騎乗した武豊騎手は、馬込みに入れる経験をさせ、怯む感じはなかったとコメント。本番の今回は、休み明け2戦目の上積みと巻き返し。そして、武幸四郎調教師との兄弟クラシック制覇が期待された。
レース概況
ゲートが開くと、ライラックがやや出遅れ。プレサージュリフトも、ダッシュがつかず後方からの競馬となった。
対照的に、好スタートを切ったカフジテトラゴンがハナへ。ウォーターナビレラがすんなり2番手を確保し、阪神ジュベナイルフィリーズ2着のラブリイユアアイズがこれに並びかける。その後ろの4番手は、4頭が横一線。8枠の上位人気2頭は、後ろから5、6番手を並走していた。
前半600m通過は34秒6で、800mが46秒8。馬場を考えれば平均よりほんの少し遅いペースで、先頭から最後方までは、およそ12馬身。18頭立て、そして最後方のライラックが少し離れて追走していたことを考えれば、一団に近かった。
その後も、隊列に大きな変化は見られないものの、残り600mを過ぎたところからペースアップ。18頭がさらに固まって、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、カフジテトラゴンがリードを広げ、その差は1馬身半。ウォーターナビレラとナムラクレアがそれを追い、2頭が坂下で先頭に立った。一方、中団待機組に目を向けると、外から人気2頭が末脚を伸ばすも、やはり外枠が影響したか、前との差がなかなか詰まらない。
残り100m。ここで、体半分前に出たウォーターナビレラが単独先頭に立ち、懸命にゴールを目指す。しかし、混戦の3番手争いから抜け出したスターズオンアースが、さらに末脚を加速。一気にナムラクレアをかわすと、ウォーターナビレラに並びかけたところがゴールだった。
写真判定の結果、ハナ差先着していたのはスターズオンアース。わずかの差で涙を飲んだウォーターナビレラが2着となり、2分の1馬身差でナムラクレアが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分32秒9。惜敗続きのスターズオンアースが、大一番で待望の2勝目を挙げ、見事、桜の女王に輝いた。
各馬短評
1着 スターズオンアース
坂下で内から弾き飛ばされそうになるも動じず、狭いスペースを突いて抜け出し勝利。ドゥラメンテ産駒らしい根性を見せた。
母サザンスターズは、欧米でGIを6勝した名牝スタセリタの娘で、阪神ジュベナイルフィリーズとオークスを勝ったソウルスターリングの半姉。ソウルスターリングは桜花賞で1番人気に推され3着に敗れたが、姪が無念を晴らした。
社台ファームの生産馬がクラシックを制したのは、そのオークス以来。そして、JRAのGI制覇は、2018年のフェブラリーS(ノンコノユメ)以来、実に4年ぶり。名門の逆襲が始まるか、今後が注目される。
2着 ウォーターナビレラ
パドックで特別良く見えたわけではなかったが、前走からマイナス14キロでも細くはなかった。
展開などすべてが噛み合い、スタートからゴール前数完歩までパーフェクトなレース運び。しかし、最後の最後でスターズオンアースの強襲に屈し戴冠を逃してしまった。
オークスに出走となれば、距離が課題になりそう。こなしてもおかしくないが、やはりベストは1400m~1600mではないだろうか。
3着 ナムラクレア
最内枠を十分に活かし、あわやの場面を作った。近年、苦戦が続くフィリーズレビュー組では、2017年1着のレーヌミノル以来となる3着内好走。ただ、オークス出走となると、ウォーターナビレラ以上に距離が課題になりそう。
逆に、NHKマイルカップに出走し、高速馬場となって内枠を引けば、再度の好走があっても不思議ではない。
レース総評
下馬評通り、実際のレースも大混戦だった2022年の桜花賞。1着から18着までが1秒4差に収まる接戦で、やはり枠順が、結果を大きく左右するポイントの一つになった。
出走18頭の半数にあたる上位9頭のうち、7頭が一桁馬番。その中でも、2着ウォーターナビレラと3着ナムラクレアには1400m以下の重賞を勝った実績があり、内枠有利を如実に表す結果だったといえる。逆に、8枠16番からスタートして4着まで押し上げたサークルオブライフのレース内容は価値があり、スターズオンアースとともに、この2頭がオークスの上位候補になるだろうか。
とはいえ、まだまだ混戦模様の牝馬三冠路線。ナミュールやプレサージュリフトの巻き返しに、この日の忘れな草賞を勝ったアートハウス。そして、4月24日に行なわれるフローラSなど。さらなる有力候補が出てきそうな雰囲気は、十分にある。
混戦となった2022年の桜花賞は、他にもこれまでにはあまり見られない、珍しいことが起きていた。
例えば、ローテーション。近年は、トライアルを使わず本番へ直行する馬が多いものの、1984年のグレード制導入以降、クイーンCからの直行で桜花賞を制した馬はゼロ。ホエールキャプチャやヴィルシーナ、メジャーエンブレム、クロノジェネシスでさえも、その壁に跳ね返されたが、ついにスターズオンアースがそのジンクスを破ってみせた。
また、5着以内に好走した馬の父は、産駒がデビューしてから3年以内の新しい種牡馬たち。出走全馬を見ても、ディープインパクトとロードカナロアの産駒が1頭ずつで、キングカメハメハとハーツクライの産駒は不在。阪神ジュベナイルフィリーズの上位3頭も新しい種牡馬の産駒で、日本競馬の血統地図も、いよいよ塗り替えが始まったのかもしれない。
そして、勝ったスターズオンアースは社台ファームの生産馬。上述したとおり、同場生産馬のJRA・GI制覇は4年ぶりだったが、上位6頭は「絶対王者」ノーザンファームの生産ではない馬たち。牝馬が強いといわれる現代競馬において、この路線にこそ、最も早く新たな時代が到来しているのかもしれない。
写真:俺ん家゛