[重賞回顧]渾身の一差しと懸命の粘り! 師弟コンビが送り出した逸材が、3歳マイル王の座を獲得~2022年・NHKマイルC~

主役不在で、混戦、難解といわれた2022年・春のGIシリーズ。キーワードどおり、高松宮記念と大阪杯は波乱の決着となったものの、一転して、皐月賞と天皇賞・春は、ほぼ上位人気馬が掲示板を独占するような結果に終わった。

その天皇賞・春から1週間が経ち、ゴールデンウィークを締めくくるのは、3歳マイル王決定戦のNHKマイルC。かつては「マル外ダービー」の異名をとり、シーキングザパールやエルコンドルパサー、クロフネといったスーパースターが圧巻のパフォーマンスを発揮した当レースも、内国産馬が勝利するようになってからは波乱の連続。3連単の配当は毎年のように10万円を超え、100万円超の高額配当も3度飛び出している。

例に漏れず、2022年も大混戦となり、単勝オッズ10倍を切ったのは4頭。その中で1番人気に推されたのは、これが今季初戦となるセリフォスだった。

デビューから一貫してマイル戦に出走している同馬は、ここまで4戦3勝。うち重賞を2勝。前走の朝日杯フューチュリティSではドウデュースの末脚に屈したものの、直線が長い阪神外回りコースで、早目抜け出しから最後まで粘り通した内容は、全く悲観するものではなく、4ヶ月半ぶりの実戦でも人気最上位の評価は、ある意味当然といえた。

僅差の2番人気に続いたインダストリアのこれまでのハイライトといえば、なんといっても2走前のジュニアCだろう。直線、鞭を使うことなく、最後の100mだけでライバルを置き去りにした末脚は圧巻。東京の長い直線で、その末脚はいっそう破壊力を増すと考えられ、レーン騎手が騎乗する点も、人気を押し上げる要素となった。

3番人気に続いたのは、変幻自在の脚質を持つマテンロウオリオン。2戦目の万両賞で大外一気を決めたかと思えば、続くシンザン記念では、序盤ややいきたがったとはいえ、一転して先行抜け出しから快勝と、幅広い脚質を披露している。前走のニュージーランドトロフィーではジャングロを捕らえ切れず2着に敗れたものの、逆転は十分に可能とみられていた。

そして、4番人気に推されたのがダノンスコーピオン。2戦目の萩Sで、後にGI馬となるキラーアビリティ相手に勝利したことにより、トップ戦線に顔を出した。続く朝日杯フューチュリティSで3着に敗れ、共同通信杯は7着と崩れたものの、前走のアーリントンCで復活し重賞初勝利。安田隆行調教師と川田将雅騎手の師弟コンビに、ダノックスの勝負服で2度目のGI制覇なるか、注目が集まった。

レース概況

ゲートが開くと、逃げると思われたジャングロがまさかの出遅れ。マテンロウオリオンも出負けしたようなスタートで、早くも波乱の気配が漂い始める。一方、行く気を見せたのが、キングエルメス、トウシンマカオ、オタルエバーの3頭。その中から、トウシンマカオが先手を切った。

ややいきたがるようなところを見せたセリフォスが、ソネットフレーズと並んで4番手。ダノンスコーピオンは中団やや前に位置し、その2馬身後方をインダストリアが追走。そして、出遅れを無理に挽回しなかったマテンロウオリオンは、後ろから2頭目でレースを進めた。

前半600m通過が34秒1。続く800m通過は45秒6の平均ペースで、先頭から最後方までは17~8馬身の差。軽快に逃げるトウシンマカオは、終始オタルエバーに1馬身のリードを取り、後ろの隊列にも大きな変化はないまま、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ってすぐ、馬場の中央に進路を変え、後続を突き放しにかかったトウシンマカオ。オタルエバーは苦しくなり、代わって、内からセリフォス、外からダノンスコーピオンが前を捕えにかかる。

残り100m。ここでダノンスコーピオンが先頭に立ち、2番手との差を広げようとするも、後方に構えていたはずのマテンロウオリオンが大外から末脚一閃。あっという間に10頭を抜き去ると、坂上からさらに末脚を伸ばし、前の5頭を捕らえる。そして、最後の最後、ダノンスコーピオンに馬体を併せようとしたところにゴール板があった。

際どい差に見えたものの、クビ差先着していたのはダノンスコーピオン。懸命に追い込むも、わずかに届かなかったマテンロウオリオンが2着となり、低評価を覆したカワキタレブリーが、クビ差の3着に入った。

良馬場の勝ちタイムは1分32秒3。ライバルの追撃を凌ぎきったダノンスコーピオンが、重賞連勝で、3歳ベストマイラーの座を獲得した。

各馬短評

1着 ダノンスコーピオン

デビュー時から、このレースを意識していたという川田騎手。2走前の共同通信杯で崩れたものの、そこから陣営が立て直し、目標としていたレースで、見事GI馬に上り詰めた。

父キングマンボ系の種牡馬に、母の父サドラーズウェルズ系種牡馬の組み合わせは、中山記念とドバイターフを連勝したパンサラッサ。天皇賞を逃げ切ったタイトルホルダーと、この春だけで国内外のGIを3勝。しかもドバイ、阪神、東京と、それぞれまったく違うコースで勝利している。

また、1998年の当レースを制したエルコンドルパサーも、父キングマンボ、母の父サドラーズウェルズの組み合わせ。サンデーサイレンス系や、クロフネをはじめとするヴァイスリージェント系が強い当レースで、キングマンボ系種牡馬の産駒が勝利したのは、2004年のキングカメハメハ以来。ダノンスコーピオンにも、今後のさらなる活躍が期待される。

2着 マテンロウオリオン

直線一気のごぼう抜きで、勝ち馬を最後の最後まで追い詰めた。ただ、結果だけ見ると、スタートの出負けが最後の差に繋がってしまった。

こちらは、母の父がキングカメハメハ。そして、母の母が2001年のオークス馬レディパステルという良血。横山典弘騎手が完璧に手の内に入れており、レース当日の馬の気配や展開に合わせて脚質も変幻自在。結果はもちろんのこと、今後どういったレースを見せてくれるかが、常に楽しみな存在。

3着 カワキタレブリー

あっと驚く、18番人気での大激走。マテンロウオリオンと同じく出負けしたものの、菅原明良騎手が開き直り思い切った騎乗をした結果、上位人気馬の間に割って入ってみせた。

同騎手の思い切りの良い騎乗で思い出されるのが、2021年のアイビスサマーダッシュ。不利な1番枠からあえて内ラチ沿いに進路を取って一直線に駆け抜け、14番人気のバカラクイーンを3着に導いたレースは記憶に新しい。

今年も全国リーディング11位。関東リーディング5位と好調で、今、最も注目すべき若手ジョッキーといえるのではないだろうか。

レース総評

前半800mが45秒6、同後半が46秒7と、やや後傾ラップ。最後の1ハロンに12秒3を要しているが、脚質や、直線の進路取りに結果を大きく左右するようなバイアスがあったとは思えなかった。その結果、カワキタレブリー以外の人気上位馬=実力上位と思われる馬が、上位の着順を占めた。

上述したとおり、キングマンボ系、特にキングカメハメハ系種牡馬の活躍が目立つ春のGIシリーズ。ドゥラメンテ産駒が桜花賞と天皇賞・春を制し、大阪杯でも3着。そして、ロードカナロア産駒がマイルカップを制し、高松宮記念で3着。リオンディーズ産駒も天皇賞・春で3着に好走している。

一方、母の父キングカメハメハも好調。皐月賞をジオグリフが制し、マテンロウオリオンが今回2着。また、ダートのGIフェブラリーSでもソダシが3着に好走し、同じく母父キングカメハメハのデアリングタクトともども、今週のヴィクトリアマイルに出走を予定している。

2022年5月5日時点で、中央競馬の種牡馬リーディングベスト5に、自身を含め3頭も名を連ねるキングカメハメハ系の種牡馬たち。また、ブルードメアサイヤー(母の父)ランキングでも、キングカメハメハは2020年、21年と連続して首位を獲得しており、2022年も首位をひた走っている。

現3歳世代がラストクロップではあるものの、優秀な後継種牡馬を数多く遺したキングカメハメハ。ディープインパクトはじめ、サンデーサイレンス系種牡馬を逆転する時が、すぐそこまでやってきているのか。2大系統の熱い闘いを、これまで以上に注視していきたい。

写真:かぼす

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