近代競馬発祥の国イギリスを代表するエプソム競馬場は、ダービーやオークスが行なわれる競馬の「聖地」。その名を冠したエプソムCが創設されるきっかけとなったのは、1983年のこと。この年、日本ダービーが50回を迎え、それを機に、東京競馬場とエプソム競馬場が姉妹競馬場として提携。交換競走として、翌84年からエプソムCが行なわれるようになった。
「エリザベス女王即位70年記念」の副題がついた2022年のエプソムCは、30年ぶりの12頭立て。それでも抜けた馬がいない混戦で5頭が単勝10倍を切り、その中でジャスティンカフェが1番人気に推された。
全9戦中、3着内を外したのは重賞のアーリントンCだけという、ホームランバッターが多いエピファネイア産駒にしては珍しい堅実派。2勝クラスでやや足踏みしたものの現在連勝中で、特に前走の湘南Sでは、直線だけで14頭をごぼう抜きする圧巻の勝利。3連勝と重賞初制覇を狙っていた。
僅差の2番人気に続いたのが、英国産馬のダーリントンホール。3歳時には、同じ舞台で重賞の共同通信杯を勝利している。その後、一時は不振に陥り、ノドの手術を行なうなど二度の長期休養をはさむも、近走は2、3着と好走。共同通信杯以来2年4ヶ月ぶりの勝利と、重賞2勝目がかかっていた。
少し離れた3番人気に、前年の覇者ザダル。年初に京都金杯を制し、2つ目のタイトルを獲得した一方で、新潟記念や前走のダービー卿CTでは二桁着順を喫するなど、安定感に欠ける部分もある。しかし、東京芝1800mは4戦2勝3着1回と得意の舞台。マイネルアムンゼン以来、レース史上3頭目の連覇がかかっていた。
4番人気となったのがノースブリッジ。全4勝中3勝を左回りであげており、3勝クラスのアメジストSを逃げ切って以来、今回は3ヶ月半ぶりの実戦。エプソムCは、例年4歳馬が強いことでも有名で、ジャスティンカフェやヤマニンサンパと同様に、重賞初制覇を狙っていた。
そして、5番人気に推されたのが、父ロードカナロア、母が桜花賞馬キストゥヘヴンという良血のタイムトゥヘヴン。この馬も一時は不調が続いていたものの、4月のダービー卿CTで強烈な末脚を繰り出し重賞初制覇を達成すると、続く京王杯スプリングCでも3着と好走した。目標の安田記念こそ除外の憂き目にあうも、そこから1週間スライドした今回、2つ目のタイトルを狙っていた。
レース概況
ゲートが開くと、コルテジアとトーラスジェミニが飛び出し、2頭の間からノースブリッジがいく構えを見せる。それでもハナにこだわったトーラスジェミニが最終的に先頭に立ち、コルテジア、ノースブリッジが、それぞれ2馬身間隔でこれを追った。
その後ろを、ヤマニンサンパ、トーセングラン、ダーリントンホールが並走し、ガロアクリーク、シャドウディーヴァ、ザダルが1馬身間隔で追走。さらにそこから2馬身差で、タイムトゥヘヴンとハッピーアワーが続き、1番人気のジャスティンカフェは、離れた最後方に構えていた。
前半800mは48秒1。1000m通過が59秒7と、重馬場を考慮してもゆったりとした流れ。ただ、3コーナー過ぎからトーラスジェミニが2番手以下を徐々に引き離し、先頭から最後方までは、およそ17、8馬身差の縦長となった。
その後、残り600mの標識を過ぎてから後続も差を縮め、全体が10馬身ほどに固まって迎えた直線。全馬、内から5、6頭分を完全に開け、馬場の中央から外で最後の攻防が繰り広げられた。
まず、坂の上りでノースブリッジが先頭に立ち、2番手以下に1馬身のリード。これを目がけて、内からジャスティンカフェ。外からダーリントンホールとガロアクリーク。さらには、大外からザダルが差を詰め、坂上からはタイムトゥヘヴンもこれに加わる。
しかし、5頭で懸命に前を追い半馬身差まで迫ったものの、そこからがなかなか詰まりそうで詰まらない。結局、ノースブリッジの末脚は最後まで衰えることなく、ゴール前でやや内にササるところは見せながらも1着でゴールイン。接戦の2着争いはガロアクリークがクビ差で制し、さらにクビ差でダーリントンホールが続いた。
重馬場の勝ち時計は1分46秒7。休み明けをものともしなかったノースブリッジが、秋に希望を持たせる快走。重賞初制覇を達成した。
各馬短評
1着 ノースブリッジ
スタートで出していったこともあり、レース前半はモーリス産駒らしい前向きさ全開の走り。引っ掛かりつつも、そこから徐々に折り合いがついていった。
それが功を奏したか、直線で早目先頭に立ち、追われる展開になったものの、最後まで踏ん張ってみせた。
岩田康誠騎手がインタビューで語ったとおり、先頭に立つときに遊ぶ癖があったり、ゴール前でフラフラしたりと、まだ若い部分がありながらの快勝。この点が改善されれば、さらなるステップアップも十分見込めるだろう。
2着 ガロアクリーク
2年ぶりの勝利はならなかったものの、2020年12月のディセンバーS以来、馬券圏内に好走した。
同年のダービー3着馬ヴェルトライゼンデが、先週の鳴尾記念で1年4ヶ月ぶりに復帰。いきなり勝利したが、ガロアクリークもその年の皐月賞3着馬。今回がキャリア13戦目と使い込まれておらず、父キンシャサノキセキは6歳秋以降に重賞を6勝。うちGIを2勝した晩成型。そう考えれば、まだまだやれても全く不思議ではない。
3着 ダーリントンホール
3戦連続好走となったものの、またしても勝ちきれなかった。こちらも次走は未定だが、新潟芝1600mは外国産馬が強い舞台。関屋記念に出走してきた際は注目したい。
レース総評
前半の800m通過が48秒1。11秒6を挟んで、後半800mは47秒0の後傾ラップ。最後方追走から最内を突いたジャスティンカフェが、勝ち馬から0秒1差の4着まで迫ったものの、基本的には前有利の流れだった。
ノースブリッジを生産した村田牧場は、かつてスプリントGIを2勝したローレルゲレイロや、1993年の桜花賞、オークスの2着馬ユキノビジンを送り出した名門。6月10日現在、同場の生産馬で、JRAで1走以上した現役馬は20頭いる。
そのうち、ディープボンド、ソリストサンダー、モズベッロは重賞ウイナーで、いずれもGI2着馬。そして今回、ノースブリッジが新たに重賞を制し、20頭中4頭が重賞ウイナーと、驚異の好走率を誇っている。
また、この日の函館10レースをオセアダイナスティが制し、3勝クラスへと昇級。他、骨折休養中ではあるものの、京成杯2着のロジハービンや、地方・船橋所属で、2020年の京浜盃を制したブラヴールも同場の生産と、近年、活躍馬が続出している。
一方、ノースブリッジに話を戻すと、同馬の父モーリスは、HBAトレーニングセールで一番時計を出し、デビュー戦も2歳コースレコードで快勝。早い時期から素質の片鱗を見せていたが、本格化したのは4歳の春以降。デビューから2連勝したノースブリッジもその点は共通しており、同じような成長曲線を辿る可能性がある。
今のところ次走は未定のようだが、同じ舞台で行われる毎日王冠は、その年のエプソムC勝ち馬が強いレース。メンバーレベルが上がることは必至で、さらなる成長が必要かもしれないが、出走してくれば大いに期待したい。
写真:かぼす