[重賞回顧]女王反撃へ、唸る横綱相撲~2022年・マーメイドS~

我々競馬ファンが1年を通じて何度かは出くわす「難解なレース」。そして、多くの競馬ファンがその「難解なレース」のひとつにあげるであろうレースが、このマーメイドSではないだろうか。毎年上位人気馬のオッズは割れ、大抵が馬券的な波乱を巻き起こすこのレース。今年も例に漏れずオッズは大混戦状態となり、最終オッズで1番人気のソフトフルートのオッズは6.2倍。次いで2番人気スルーセブンシーズのオッズも6.7倍で、その後もつかず離れずのオッズ倍率となった。最終的には7番人気のトウシンモンブラン(9.7倍)までが1ケタ台のオッズとなったが、その後ろも10番人気のウインマイティー(14.6倍)まで大きな差のないオッズ構成となっていたことからも、競馬ファンの苦悩が窺い知れる一戦となった。

レース概況

ゲートが開くと、これまで見たことのないようなロケットスタートを大外のリアアメリアが決め、スタンド前へとなだれ込む。押して藤懸騎手とハギノリュクスが先頭を主張すると、内からウインマイティーもそれに続いて先団へ。発馬を決めたリアアメリアもそのまま前へつけ、その後ろにラブユーライヴの4頭が、1.2コーナー中間地点で先団の様相に。人気上位の各馬は殆どが後方からレースを進め、やや縦長の馬群となって各馬が向こう正面へと向かって行った。

先頭のハギノリュクスが作るペースは緩むことなく、1000m通過タイムは59.4を計測。12.3-10.9-12.5-12.0-11.7と、1000m付近で寧ろピッチが上がったラップタイム。一見1分を切る速い流れに見えなくもないが、先行集団で手応えが怪しくなり始めたのはラブユーライヴのみ。4コーナー入り口で競りかけられたハギノリュクスも、そこまで手応えは悪くないように思えていたが、ここまで楽に2番手を追走してきたリアアメリアが楽な手応えで先頭に変わり、そのまま後続を突き放すかに見えた。ところがさらにそれすら凌駕する抜群の手応えでウインマイティーも進出を開始。外を回ってマリアエレーナも先頭集団を射程圏に捉え、1番人気のソフトフルートと川田将雅騎手は最内をロスなくついて一気に順位を上げてきた。

直線に向いて、抜け出しを図るリアアメリアに待ったをかける形でウインマイティーが競り合いを開始。ここまでインをついてきたソフトフルートも外に回して2頭を追うが、その更に外を突いてマリアエレーナも伸びてくる。狭い所を割ってきたステイブルアスクも脚を伸ばすが、前とはこの時点でかなりの差が開いていた。

仁川の坂を登り切ったところでウインマイティーが完全に抜け出し、追いすがるソフトフルート以下を突き放す圧勝劇で完勝。まさに先行横綱相撲。2年前のオークス3着馬が、秋のG1戦線に向けて復活の狼煙を見事にあげて見せた。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ウインマイティー

実に2年2か月ぶりの勝利となったウインマイティー。過去にはオークスでデアリングタクト、ウインマリリンと差のない3着もあった同馬だが、秋華賞での不利によりしばらく調子を落としていた。陣営の並々ならぬ努力により前走のメトロポリタンSで復調の兆しを見せていた同馬が、遂に復活したと見ていいだろう。ゴールドシップ産駒らしく、並んだ競り合いにも強く、しぶとく脚を使うタイプ。秋以降、復帰した同世代の3冠牝馬との再戦が今から楽しみだ。

2着 マリアエレーナ

今年の愛知杯でルビーカサブランカにあと一歩及ばなかった同馬が再度の惜敗。外を回した分のロスと斤量の差も大きかったか。とはいえ引き続き牝馬限定相手で力が上位なのは変わりなく、今後も注意が必要な一頭なのは間違いない。

3着 ソフトフルート

エリザベス女王杯4着、2年前の秋華賞3着の実力馬がここでも好走。しかも上位勢のほとんどが先行していた馬たちの中、経済コースを突いて最後確実に伸びてくる辺り、終いのキレはやはり目を見張るものがある。展開ひとつで圧勝まであっただろう。デビュー以来強い相手と戦い続けている同馬。今後もその研鑽がいかに生きてくるか注目し続けたい。

4着 リアアメリア

55.5キロのメンバー中トップハンデを背負った同馬が久々に好走。一時期は世代最強とまで言われていたリアアメリアだが、阪神JFでの惨敗以降、勝利したのはローズSのみ。以降気難しい面が顕著に出、近走はレースそのものを投げているような面も見せていただけに、トップハンデを背負ったこのレースでの激走の価値はかなりのものがあるだろう。元々牝馬同士なら潜在能力はトップクラスなだけに、これを復調の兆しとしてほしいところである。

5着 ステイブルアスク

昨秋の11月から前走まで古川奈穂騎手が手綱を取り続けていたステイブルアスクが、重賞初挑戦で5着に大健闘。高速馬場下で前残りの競馬となる中、後方から大外を回って伸びてきた唯一の馬。元々かなりのキレる脚を持っており、今後自己条件はあっさり突破するだけの実力は持ち合わせているはず。初騎乗となった藤岡康太騎手との息もあっていた。

6着 ゴルトベルク

15番人気だったゴルトベルク。曾祖母エアグルーヴ、祖母アドマイヤグルーヴに続く牝系3連覇の夢もあったが、馬群を割ってきたマリアエレーナに勝負所で置いていかれていた。しかしOP入り後見せ場がないとは言え、着差は僅か。近いうちに激走もありそうで、注意が必要か。

10着 スルーセブンシーズ

紫苑S2着以来となる重賞参戦で2番人気に推されていた同馬だったが10着に敗戦。上位勢とは位置取りの差が大きかったか。

12着 クラヴェル

昨年のエリザベス女王杯2着、マーメイドS2着の実績を提げて挑んだ同レースだが、12着。とはいえ展開が向かなかったことはほぼ明白であり、55.0キロの重ハンデも負担が大きかった。昨年の小倉記念を含め牡馬相手でも好走を続けていたことから、次走以降での巻き返しに期待がかかる。

総評

開幕週らしく前残りのハイスピードレースとなった一戦だった。ペースも速く、先団につけた馬達が軒並み残る展開であったが、後方からスムーズにいい脚を使って追い込んできたソフトフルートと、外を回しながらも伸びてきたマリアエレーナ、ステイブルアスクの2頭は今後も注目が必要だろう。

勝利したウインマイティーはこれが重賞初勝利。3歳時よりクラシックで好走するなどかねてよりその素質を垣間見せていた同馬が、この後に向けて見事な勝ち方を飾った。鞍上の和田竜二騎手も、翌週に控える宝塚記念に弾みがついた格好となった。

そして4着に敗れたリアアメリアもまた、不調からの復調が窺える見事な走りだった。「デアリングタクト世代」の彼女達の走りは、この後復帰2戦目を控える最大のライバル、デアリングタクトへのエールとなるのかどうか。そして、牝馬路線の脅威となり得るのかどうか──そんな意味で、期待膨らむマーメイドSだった。

写真:RINOT

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