[重賞回顧]エスポワールシチー産駒が、ダート界の登竜門を突破~2022年・ユニコーンS~

JRAに2レースしかない、3歳限定のダート重賞ユニコーンS。1ヶ月後に行なわれるジャパンダートダービーの前哨戦のような役割も担い、ダート界の登竜門ともいうべきレース。ここから多数のGI馬が誕生し、日本を代表するチャンピオンホースに上り詰めた馬も少なくない。

2022年の出走頭数は15頭で、単勝オッズ10倍を切ったのは5頭。とりわけ、3連勝中の2頭に人気が集まり、僅かの差でリメイクが1番人気に推された。

父ラニの初年度産駒で、同じくノーズヒルズが生産した本馬。デビュー戦を勝利後、1勝クラスでやや足踏みするも、昇級3戦目で勝ち上がるとそこから3連勝。オープンも連勝中で、出走馬中唯一の4勝馬ということもあり、初の1600m戦でも大きな注目を集めていた。

一方、2番人気に推されたのがハセドン。こちらは芝の新馬戦でデビューし、後に皐月賞とダービーで好走するダノンベルーガに敗れるも、続くダートの未勝利戦で初勝利を挙げた。その後、1勝クラスを連勝で突破すると、前走の青竜Sは、直線だけで全馬をかわしさる圧巻のパフォーマンスで勝利。4連勝での重賞制覇が懸かっていた。

この2頭から少し離れた3番人気に続いたのが、米国産馬のジュタロウ。デビュー戦で2着に2秒4もの大差をつけるド派手なパフォーマンスを演じ、一気に注目を集めた本馬。その後2戦は勝ちあぐねるも、前走、同じ舞台で行われた1勝クラスを好タイムで完勝した。オープンでの実績はないものの、潜在能力の高さは疑いようがなく、大きな期待を集めていた。

オッズは同じながら、票数の差で4番人気となったのがコンバスチョン。前走のUAEダービーは大敗を喫してしまったが、国内では5戦3勝2着2回とほぼ完璧な成績。2走前には、同じ舞台で行われたヒヤシンスSを快勝し、全日本2歳優駿2着の実績も、今回のメンバーでは抜きん出たもの。帰国初戦とはいえ、注目を集める存在だった。

そして、5番人気に推されたのが、NHKマイルC5着から参戦してきたインダストリア。この馬のベストパフォーマンスといえば、素晴らしい切れ味を発揮して勝利した3走前のジュニアCで、持っているポテンシャルは相当なもの。初ダートでも、未知の魅力にあふれていた。

レース概況

ゲートが開くと、6枠の2頭、インダストリアとヴァルツァーシャルが出遅れ。特に、インダストリアは大きな出遅れで、ハセドンとセキフウも後方からの競馬を余儀なくされた。

一方、先手を切ったのはロードジャスティスで、同じ5枠のスマートラプターが、1馬身差の2番手に。以下、テーオーステルスとタイセイディバインが3番手を並走し、その後ろの集団にペイシャエスやジュタロウ、コンバスチョン。さらにはリメイクがつけ、ここまでが中団。インダストリアは、後ろから3番手。2番人気のハセドンは、前走と同様、最後方からレースを進めていた。

前半600mは34秒3、800m通過も46秒2のハイペース。隊列は、リメイクを境にして前8頭、後ろ7頭と2つの集団に分かれ、先頭から最後方までは、およそ15馬身の差となった。その後、4コーナーでジュタロウとタイセイディバインが仕掛け、先頭との差を少し詰めた一方で、依然ハセドンは最後方のまま、レースは直線の攻防へと移った。

直線に向いたところで、ロードジャスティスのリードは1馬身半。しかし、タイセイディバインが坂の途中で持ったままこれに並びかけ、残り300mで先頭に立つ。そこへ、内からペイシャエスとセキフウ。外から、リメイクとヴァルツァーシャルが末脚を伸ばして襲いかかり、残り150mからは5頭のマッチレースに。

ところが、道中ハイペースで推移していたせいか、いずれも決定的な末脚を欠き、一転して我慢比べに突入。さらに、ようやく馬群の間を割って伸びてきたバトルクライもここへ加わり大接戦となるも、僅かにリードしたペイシャエスが、ライバルたちの追撃を凌ぎ1着でゴールイン。最内に進路を取ったセキフウがクビ差の2着に入り、さらにクビ差の3着にバトルクライが続いた。

良馬場の勝ちタイムは1分35秒2。ハイペースの中、4番手から粘り込んだペイシャエスが大接戦を制し、初の重賞タイトルを手にした。

各馬短評

1着 ペイシャエス

逃げたロードジャスティスが11着。2番手追走のスマートラプターが14着。そして、4番手でレースを進めたジュタロウが10着に沈む中、ほぼ同じ位置にいて勝利したペイシャエスと、3番手追走から5着に粘ったタイセイディバインのレース内容は、非常に価値のあるものだった。

3走前の伏竜Sでは、8頭中の8番人気、単勝242倍という低評価だったが、先行策に戻して3着に激走。続く1勝クラスを好タイムで圧勝し、前走の青竜Sは5着に敗れたものの巻き返しに成功した。

次走は、ジャパンダートダービーに向かう予定とのこと。もちろん、続けて好走しても不思議ではないが、強い内容だったとはいえ、400mの距離延長を克服するのは簡単ではない。ただ、武蔵野Sや、2023年以降のフェブラリーSに出走してきた際は注目したい存在。

2着 セキフウ

スタートでダッシュがつかず、割り切って後方に位置。その後、直線で最内に進路を取ると、上がり2位タイの末脚を発揮し、勝ち馬をギリギリのところまで追い詰めた。

結果論になってしまうが、実績だけを見れば、出走馬中、唯一の重賞勝ち馬。父も、新時代のダートのチャンピオンサイアー・ヘニーヒューズで、前走のUAEダービー以外、ここまでダートでは大崩れがなかった。

ただ、器用なタイプではないため、特にJRAのレースでは、展開に左右されることがある点は覚えておきたい。

3着 バトルクライ

直線入口ではセキフウより前に位置していたものの、直線で馬群の真ん中に突っ込み、残り100mで進路をなくしてしまったのが痛かった。

父イスラボニータはこの世代が初年度産駒で、自身は現役時に一度もダートのレースを走ったことがない。ただ、その父フジキセキは、カネヒキリ、ストローハットと、ユニコーンSの勝ち馬を2頭送り出している。

一方、バトルクライの母の父は、芝、ダートの双方で数々の名馬を送り出したキングカメハメハ。イスラボニータ産駒でも、母系にダート色の強い血、アメリカ系の血が入っていれば、今後もダートをこなす馬が多数登場してくるのではないだろうか。

レース総評

前半800mが46秒2。同後半が49秒0と、完全な前傾ラップ。先行勢には厳しい展開だった。それだけに、4番手追走から勝利したペイシャエスと、3番手から5着に粘ったタイセイディバインのレース内容は、非常に価値のあるものだった。

多数のGI馬を世に送り出し、2017年にこの世を去った大種牡馬ゴールドアリュール。キングカメハメハとともに、ダートの二大巨頭といえる存在だったが、主な後継種牡馬として、スマートファルコン、エスポワールシチー、コパノリッキーの産駒が、既にデビューを果たしている。

その中で、エスポワールシチーの産駒は、意外にも今回がJRAの重賞初勝利。ただ、ダートグレード競走では、ヴァケーションが2019年の全日本2歳優駿を制しており、2022年に入ってからも、イグナイターが黒船賞とかきつばた記念を連勝。さらに、ヤマノファイトやコーナスフロリダ、インペリシャブルなど、多数の地方重賞勝ち馬を送り出している。

現役時、エスポワールシチーが本格化したのは、3歳秋から4歳春にかけてで、その後、長期にわたって第一線で活躍。6歳時にはスランプに陥りかけたものの、8歳まで現役を続け、引退直前にもGIを2勝。最終的に、当時の最多タイとなる9つのGIタイトルを手にした。

一方、エスポワールシチーの不振時に頂点に立ったのがトランセンドで、同馬の父ワイルドラッシュは、ペイシャエスの母の父でもある。

トランセンドの重賞初制覇はレパードSだったが、本格化したのは4歳秋。そのため、ペイシャエスが本格化するのも、まだこの先ではないかと見ている。

話は変わり、冒頭でも触れたとおり、1ヶ月後に大井で行なわれるジャパンダートダービーの前哨戦のような役割も果たしているユニコーンS。

現状では、ペイシャエス以外にも、全日本2歳優駿を制したドライスタウトや、兵庫チャンピオンシップでこれを破ったブリッツファングとノットゥルノも参戦予定。さらに、3戦全勝で鳳雛Sを制したハピや、青竜Sでペイシャエスとバトルクライに先着したホウオウルーレットなども出走を予定している。

JRA所属馬の枠が決まっているだけに、これらすべての出走が叶うかどうかは微妙だが、非常に楽しみなメンバーが顔を揃えることは間違いなさそう。この中から、テーオーケインズやカフェファラオに挑戦状を叩きつける馬は現われるのか。ダート界の覇権争いから、ますます目が離せない。

写真:かぼす

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