[重賞回顧]母の悲願を叶えるために…。ロマンを感じさせる一頭が重賞制覇!~2022年・ローズS~

9月に行なわれる3日間開催は、天候、とりわけ台風によって結果が左右されることも珍しくない。2022年は史上最強クラスの呼び声高い台風14号が中京・中山の両競馬場に近づき、天候が目まぐるしく変わったものの、2つの重賞に決定的な影響を及ぼすまでには至らなかった。

3日間開催の2日目に行なわれたのが、ローズS。京都競馬場の改修工事の影響により、中京で開催されるようになって3年目となる。過去2年は穴馬の激走が目立ち、二桁人気馬が3頭も馬券圏内に食い込んでいる。

2022年は、前走オークス組が2頭しか出走せず14頭立て。既存勢力と上がり馬の間に大きな実力差はないとみられ、やや混戦ともいえるメンバーだったが、そのうちの3頭に人気が集まった。

1番人気に推されたのはアートハウスで、この馬のベストレースといえば、やはり2走前の忘れな草賞だろう。ラスト600mの加速ラップを、ノーステッキで3馬身差の完勝。それでいて、最後の1ハロンを11秒1でフィニッシュしており、同日の桜花賞に勝るとも劣らないパフォーマンスだった。続くオークスは、調教の段階からバランスの難しさを露呈して7着と敗れたものの、距離が長かった可能性もあり、2000mに戻る今回、改めて注目を集めていた。

これに続いたのがサリエラで、こちらは全姉に有馬記念2着のサラキア、半兄に朝日杯フューチュリティSを制したサリオスがいる良血。ここまで2戦2勝と底を見せていないが、その中でも前走の内容は秀逸。直線が長い東京コースとはいえ、絶望的と思われる位置から前を差し切ったレースは衝撃的だった。今回は3ヶ月半ぶりの実戦で、なおかつ重賞初挑戦と簡単ではないが、潜在能力は世代屈指で、上位人気に推されていた。

これに続いたのがセントカメリア。こちらは、半兄にオーストラリアのGIコーフィールドCを制したアドマイヤラクティがいる良血で、中京芝2000mは2戦2勝の得意舞台。特に2走前のあずさ賞では、月曜日のセントライト記念で上位人気に推され、結果勝利することになるガイアフォースを撃破しており、大きな注目を集めていた。

これら3頭からやや離れた4番人気に推されたのがラリュエル。こちらは、半兄に凱旋門賞に出走予定のステイフーリッシュがいる良血。前走、1勝クラスを卒業したばかりだが、春はクイーンCで4着。チューリップ賞も、勝ち馬から0秒7差の7着に健闘した実績がある。そのため、夏の「隠れ上がり馬」ともいえる存在で、3度目の正直で重賞制覇なるか期待されていた。

レース概況

ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートから、押して先頭に立ったのがパーソナルハイ。これに同厩のラリュエルが続き、その後ろにアートハウスとブルトンクール。さらに外から、ヒヅルジョウとベリーヴィーナスも先行争いに加わった。

その後ヒヅルジョウが下げたため、先団を形成したのは5頭。そこから5馬身離れた中団に、ヒヅルジョウをはさんでメモリーレゾンとエグランタインがつけ、サリエラは後ろから4頭目。セントカメリアは、後ろから3頭目を追走していた。

前半1000mは、1分0秒2の遅い流れ。その後、3コーナーを迎えるあたりで前5頭、後9頭と集団が2つに分かれたものの、全14頭がほぼ固まり、先頭から最後方まではおよそ10馬身。続く4コーナーで、サリエラやセントカメリアといった上位人気馬がスパートを開始し、ルージュリナージュもポジションを上げる中、レースは最後の直線を迎えた。

直線に入ってすぐ、パーソナルハイをかわして先頭に立ったのがラリュエル。そこから逃げ込みを図ろうとさらに後続を突き放しにかかり、坂の途中で差を2馬身に広げた。ところが、追ってきたアートハウスが坂上でこれに並びかけると、残り100mでラリュエルを競り落とし、そこから徐々にリードを広げはじめる。

焦点は2着争いとなり、残り50mで一旦2番手に上がったのがエグランタイン。しかし、ようやくエンジンのかかったサリエラがすぐにこれを捕らえ、さらにはアートハウスに体半分差まで迫るも、前を差し切るまでには至らず。

結局、着差以上の強さを見せたアートハウスが1着でゴールイン。2着にサリエラ、そこからクビ差の3着にエグランタインが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分58秒5。秋初戦を順調に乗り切ったアートハウスが重賞初制覇。再度、二冠牝馬に挑戦状を叩きつつけた。

各馬短評

1着 アートハウス

序盤はやや掛かり気味に先行したものの、鞍上とけんかするようなところはまるでなく、残り100mで抜け出すと、着差以上の強さで快勝した。

本番の秋華賞は、時にハイペースとなって先行勢が総崩れとなることもあるが、それでもこの先行力は大きな武器。なおかつ、阪神芝2000mは忘れな草賞を完勝した舞台でもある。また、川田騎手がスターズオンアースの強みを知っている点も、直線が短い次走こそプラスに働くのではないだろうか。

ただ、オークスの最終追い切り後の共同会見で「バランスを崩しながら走っていた」と、川田騎手がコメント。結果、そのとおり敗れてしまっただけに、次回も直前の動き、そして陣営のコメントには注意を払いたい。

2着 サリエラ

前半はスピードが足りなかったということで、後方からの競馬。スローで流れていただけに痛かったが、現状ではやむを得ないだろう。また、勝負所で上がっていく際に、やや前が詰まってしまったことも響き、これがなければ、さらに接戦となっていたかもしれない。

半兄のサリオスは2歳でGIを制し、全姉のサラキアもローズSで2着と好走しているが、そのサラキアが本格化したのは5歳の夏。GIこそ勝てなかったものの、エリザベス女王杯で2着に好走すると、有馬記念でも強豪牡馬を抑えて2着に入った。

スローペースを後方で追走しながら、勝ち馬に半馬身差まで迫った今回の内容も濃く、本番で再び好走する可能性は十分にある。しかし、サラキアが描いた成長曲線を見ると、本格化するのは来年、もしくは再来年の話かもしれない。

3着 エグランタイン

道中は中団の少し後ろにつけていたため、この馬も展開に恵まれなかったが、最後はよく差を詰めていた。

前走1勝クラスに出走した馬のうち、ラリュエルやマイシンフォニーなどは、春の重賞で入着した実績がある一方で、本馬は正真正銘、今回が重賞初出走。しかもデビューから3戦は、すべて二桁着順に敗れていた。

その後、4戦目も8着に敗れたが、続く5戦目の未勝利戦を15番人気で制し、2走前はラリュエルに迫る2着。その後1勝クラスを勝ち上がると、今回はラリュエルに先着して優先出走権を獲得した。

これぞ「夏の上がり馬」ともいうべき存在だが、おそらく秋華賞でもそこまで人気にはならないはずで、このタイプの上がりとして思い出すのが、1999年の秋華賞馬ブゼンキャンドル。本番は二冠牝馬も出走予定で、突き抜けるまでは厳しいかもしれないが、再びの激走があってもなんら不思議ではない。

レース総評

前半1000mが1分0秒2のスローで、同後半は58秒3。ただ、上がりの4ハロンはいずれも11秒台だった。レベルが高いレースとはいえないが、スローからの上がり勝負で先行馬に断然有利のレースというわけでもなかった。

その展開の中、直線半ばで先頭に並びかけ、押し切ったアートハウス。やはり、距離は2000m前後がベストではないだろうか。

周知のとおり、アートハウスの母は、同じく川田騎手が騎乗し、中内田調教師が管理(オーナーも同じ)したパールコードで、2016年の秋華賞2着馬。スターズオンアースで桜花賞を制した同騎手が、オークスでアートハウスに騎乗したことは驚きだったが、その根底にあったのは、パールコードで叶えられなかったGI制覇をその産駒で成し遂げたいという熱い思いだったという。

一方、川田騎手と中内田調教師のコンビといえば、2つのGIと数々の重賞を制した黄金タッグ。19、20年のローズSも、ダノンファンタジーとリアアメリアで連覇しているが、残念ながらこの2頭は秋華賞を勝つことができなかった。

迎える今回、スターズオンアースの壁は決して低くないが、忘れな草賞を圧勝した阪神の芝2000mで本番が行なわれることは非常に大きい。母の悲願を叶えるのはもちろんのこと、チームの悲願が成就する可能性も十分にある。

その秋華賞は、2018年のアーモンドアイ以降、オークスからの直行組が4連覇中。2022年は、上述したスターズオンアース以外にも、オークス3着馬のナミュールや、同5着のプレサージュリフトが直行で出走を予定している。

これに対し、ローズS組からは15年のミッキークイーン以降、勝ち馬が出ていないものの、アートハウス以外にも、今回2、3着のサリエラ、エグランタインも十分にチャンスあり。また、サークルオブライフの離脱は残念だが、紫苑Sの上位3頭も含め、秋華賞は非常に楽しみな一戦となりそうだ。

写真:だしまき

あなたにおすすめの記事