2017年春を彩ったファンディーナ。7戦3勝の現役時代を振り返る。

生涯成績7戦3勝──。

この数字だけ見ると、戦歴の少ない競走馬に映るかもしれません。しかしこの3勝に夢を見せ、ファンにまた次の夢を見たいと思わせてくれた1頭の牝馬がいます。

彼女の名はファンディーナ。タイ語で「良い夢を」と名付けられたこの馬は競馬を見始めたころの私に、そして所属するターファイトクラブの会員や多くの競馬ファンに夢を見せてくれた競走馬でした。

無傷の3連勝で果敢にも皐月賞に「1番人気で」挑んだ勇姿を見て、私の競馬愛に火を灯してくれた馬、ファンディーナの現役時代をご紹介していきましょう。

春に花を咲かせた良血牝馬 - 3歳年明け

ファンディーナの父はその名は誰もが知る名馬ディープインパクト。母ドリームオブジェニーの2番仔として産まれます。3代母Coup de Genieが名馬マキャベリアンの全妹という良血の持ち主です。

ファンディーナのデビューは3歳1月の京都競馬場芝1800m戦と、やや遅めのデビュー。
この時点で516キロ、牝馬としては大きな馬格のファンディーナは、ゲートを出ると難なくハナに立って鞍上の岩田康誠騎手と共にペースを刻みます。
新馬戦らしく最初の1000mは63.4秒のスローペースとなり、京都の坂を定石通りゆっくり上ったファンディーナ。迫る後続の各馬を、下り坂で一気に加速して引き離します。残り600mでは先行馬に並ばれていたはずのファンディーナが直線に向くと1馬身、2馬身、3馬身…と後続を引き離し、残り200mを過ぎたころには岩田騎手の手綱は「持ったまま」。後続を9馬身引し、難なく新馬戦を勝利してしまったのです。

続くレースは新馬戦と同じコースで行われた3歳500万下のつばき賞、ここでは岩田騎手がフェブラリーステークスでエイシンバッケンの騎乗があったため、川田騎手が代打を務めます。
スタートが速かった大外枠のタガノアスワドを行かせて、3番手に控える競馬でレースを進めたファンディーナ。9頭立ての7番枠からのスタートで内から迫ってくる馬もいましたがしっかりと折り合ったまま、前走同様に坂の出口から仕掛けてゴールを目指します。
逃げていたタガノアスワドが前半1000mを64秒の超スローペースで走っていて、残り100m付近まで粘っていましたが、川田騎手が押せば押すほどにストライドを伸ばしたファンディーナは1馬身3/4差をつけて2連勝を遂げました。

再びレース間隔を1か月空けてG3フラワーカップへ参戦したファンディーナ。引き続き距離は1800mですが、今度は中山の1周コースです。

ここまで中1か月の間隔を守っての出走だったので、桜花賞トライアルのチューリップ賞、フィリーズレビューなどには間に合いませんでしたが、2連勝が評価されて単勝1.3倍の1番人気に支持されます。
鞍上には岩田騎手が戻り、以降、引退まで主戦騎手としてファンディーナに跨りました。

フラワーカップでは勝負服と同じピンクの帽子のファンディーナ、絶好のスタートを決めると難なくハナに立ちますが、1コーナーの入り口から向こう正面にかけて岩田騎手が抑えて2番手でレースを進めます。
逃げていたドロウアカードの刻んだ1000m通過タイムは61秒、重賞ですがやはりスローペースを追いかける展開になりました。

3コーナーまでは脚を溜めていたファンディーナ、4コーナーで岩田騎手にゴーサインを出されると直線に向くまでの僅か数完歩で馬群から抜け出し、後続を5馬身ちぎってゴールを駆け抜けました。抜け出した後の岩田騎手は「持ったまま」。重賞での5馬身差もさることながら一気に抜け出す脚はまさにディープインパクト産駒らしい走りで、勝ちタイム1分48秒7はフラワーカップのレースレコードでした。

そしてこの勝利から5日後の3月25日、陣営から驚きの発表を聞くことになります。

──それは、皐月賞への挑戦。

中3週で再度の輸送競馬、追加登録料を払って、ファンディーナは中山競馬場での大一番に駒を進めたのでした。

超豪華メンバーへの挑戦 - 1番人気の皐月賞

2017年皐月賞。ファンディーナは、なんと単勝2.4倍の1番人気に支持されます。
2番人気は共同通信杯を勝ったハーツクライ産駒スワーヴリチャード、3番人気はトライアルの弥生賞を捲りきったディープインパクト産駒カデナ、4番人気はアーリントンカップを勝利し2歳時には後のオークス馬ソウルスターリングと差の無い競馬をしていたハービンジャー産駒ペルシアンナイト。そして5番人気にホープフルステークスから直行で挑むキングカメハメハ産駒レイデオロが続きました。

大一番でもスタートを決めたファンディーナ、1コーナーで前に行きたい馬を行かせてインコースで折り合う走りはフラワーカップをなぞるよう。しかし逃げていたアダムバローズが1000mを通過したタイムは59秒。さすがにG1らしく、これまでに経験の無いレースを強いられます。また、ファンディーナの真後ろが空いていたこともあり、残り800m付近からインを突いてペルシアンナイトとカデナが先行集団に迫ってくる激しい攻防が繰り広げられます。

ファンディーナはこれまで通りコーナーで前にいた馬たちを交わして一瞬先頭に立ちますが、外を回ってしまった分、内の進路を空けてしまいます。終始イン突きに徹したペルシアンナイト、向こう正面ではファンディーナの外にいたアルアイン、そしてファンディーナを外から差したダンビュライトに交わされてしまい、7着でレースを終えました。ただし、敗れたとはいえ、直線で一度は先頭に立った姿は見せ場十分の走りでした。

2017年皐月賞出走馬のレース後の活躍ぶりは素晴らしく、能力の高さを皐月賞の着順で紹介します。

  • アルアイン:皐月賞の後勝てない競馬が続くも、5歳大阪杯で復活勝利。全弟はシャフリヤール。
  • ペルシアンナイト:3歳秋にマイル路線に移るとマイルチャンピオンシップ制覇、引退後は誘導馬に。
  • ダンビュライト:激しい気性が課題になるも、2018年AJCC、2019年京都記念を勝利。
  • クリンチャー:クラシック皆勤→凱旋門賞挑戦→ダート路線とどこでも走り重賞5勝。
  • レイデオロ:日本ダービー制覇、2017年ジャパンカップ2着、2018年天皇賞秋1着、有馬記念2着。
  • スワーヴリチャード:日本ダービー2着の後、2018年大阪杯、2019年ジャパンカップ制覇。
  • ウインブライト:松岡騎手との名コンビで香港QE2世カップ、香港カップ勝利、「中山の鬼」。
  • カデナ:2020年小倉大賞典を勝利し、以降も活躍を続けるタフガイ。
  • トラスト:障害戦で才能開花、障害オープンで3勝しJG1を目指すも脚部不安で引退、誘導馬に。
  • マイスタイル:ローカル巧者で2019年函館記念を勝利、2022年シルクロードステークスにて引退。

活躍が3歳時だけで終わらず、古馬になってからも重賞やG1の舞台で走る馬たちが多かったのが2017年クラシック世代の特徴ではないでしょうか。この中で1番人気を背負い、レイデオロやスワーヴリチャードと僅差でゴールを駆け抜けたファンディーナも「負けて強し」と、今なら言えます。

ファンディーナは順調なら日本ダービーへ、とローテーションが発表されていましたが、皐月賞の激走の疲れがあったのか、一度はオークス参戦プランが挙がるも休養に入ります。

唯春の夜の夢のごとし - 3歳秋から引退まで

3歳秋は秋華賞を目指してトライアルのローズステークスで復帰戦を迎えたファンディーナ。
皐月賞以来の競馬とはいえ+22キロでの出走と、傍目に見ても万全のコンディションではありませんでした。

それでも、スタートを決めると逃げたい馬を前にやって先行ポジションでの競馬に。最後の直線は前半58.5秒のハイペースで先行馬が全滅する展開の中、直線では残り200mまで逃げるカワキタエンカを追いかけましたが、後方からの差し馬たちに飲み込まれて6着に敗れました

続く秋華賞では、敗戦続きでついに1番人気を譲ったものの、古馬混合戦のクイーンステークスを快勝して秋華賞に挑むアエロリットに次ぐ2番人気に支持されます。しかし、2017年秋のG1は雨天での開催が続き、秋華賞も重馬場の中でのスタートとなりました。

スタートが上手いファンディーナは秋華賞でもスムーズに前に行くと、前走で逃げていたカワキタエンカ、アエロリットと先行馬群を形成してレースを進めます。しかし4コーナー出口では既に手ごたえがなく、13着に敗れてしまいます。

秋華賞で大敗してしまったファンディーナ。
少し間隔を空けて12月のリゲルステークスで復帰し、現役時代で唯一となるマイル戦に挑戦します。

スタートは五分に出て、外から馬群の前目のポジションを確保、直線に向いて馬群から抜け出そうとしたものの、そこには春に見せた勢いはありませんでした。

結局、上り33秒台を繰り出した同期の牡馬たちに交わされて13頭中9着でレースを終えました。
さらにレース中に右後肢を痛めていたようで、その後の検査の結果、骨盤に近い腸骨の骨折が判明しました。

骨折からの復帰に向けて休養していましたが、2018年7月、現役引退が発表。

故障に泣いて僅か7戦しか走ることが出来ませんでしたが、その中で3連勝して重賞制覇。さらに皐月賞、秋華賞とG1に2回挑戦出来たのは立派と言えます。

皐月賞ではハイペース先行、秋華賞では雨の重馬場と不本意な展開でのレースが続いてしまったのも惜しまれます。もしも無事に競走馬を続けていたら…と、タラレバを語りたくなりますが、その答えは産駒たちが示してくれると信じています。

写真:かぼす

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