[重賞回顧]中2週も何のその! 父仔制覇を達成したタスティエーラがクラシック候補に名乗りをあげる勝利。~2023年・弥生賞ディープインパクト記念~

天皇賞・春を連覇したフェノーメノやダービー馬キズナ。そして、2022年のスプリンターズSを勝利したジャンダルムに、先日のサウジカップを制したパンサラッサまで。彼らが手にしたビッグタイトルは、短・長距離、芝・ダート、はたまた国内外のレースと、GIに格付けされていること以外、ほぼ共通点はないように思える。

しかしながら、これら4頭には弥生賞ディープインパクト記念(2019年までは報知杯弥生賞)に出走したという共通点が存在した。ただ、ジャンダルム以外の3頭は5着以下に敗戦。本番の出走権を得ることはできなかった。

それでも、この敗戦が糧となったか後に本格化すると、弥生賞ディープインパクト記念とは異なるカテゴリーでビッグタイトルを獲得。年々、皐月賞との関連性は薄れつつあるが、勝利した馬はもちろん、優先出走権を獲得できなかった馬のその後を追いかけるという意味でも、やはり注目すべきレースといえるだろう。

そんな弥生賞ディープインパクト記念は、近年、菊花賞との繋がりが深まっている。特に、過去2年は阪神開催となったことも関係がありそうで、最後の直線が短い小(内)回りコースに、ゴール前の急坂を2度駆け上がらなければならない点も同じ。その試練を乗り越えたタイトルホルダーとアスクビクターモアが、半年後に菊の大輪を手にしている。

また、10頭前後の少頭数で争われる点も近年の特徴で、2023年も、人気を集めると思われた有力馬たちがアクシデントによって続々と回避。結局、例年どおり10頭で争われることになり、単勝10倍を切ったのは半数の5頭。その中で、トップナイフが1番人気に推された。

既に7戦を消化し、キャリア豊富な本馬。初勝利までに3戦を要し、お世辞にも目立つ存在とはいえなかったが、3走前の萩Sを勝利してから、成績、評価とも一気に上昇。控える競馬に徹し、勝負所で不利を受けながらも勝ち馬に際どく迫った京都2歳S。大接戦の末に敗れたものの、あわや逃げ切るかに思われた前走のGIホープフルSなど、重賞で2戦連続2着と好走しており、ビッグタイトルに向けまずは初重賞制覇なるか、期待されていた。

2番人気に推されたのがワンダイレクトで、ここまで中京芝2000mのレースに2度出走し、1勝2着1回の成績。とりわけ、前走の若駒Sは直線半ばで抜け出し、勝利したかと思われたところマイネルラウレアの強襲に屈したが、十分に評価できる内容。ただ、その2着が響いて現状では賞金が足りず、皐月賞出走を考えると、なんとしてもここは権利を手にしたい一戦だった。

そして、票数の差で3番人気となったのがタスティエーラ。15年の弥生賞や17年の宝塚記念を制したサトノクラウンの初年度産駒で、キャリア1戦1勝で臨んだ前走の共同通信杯も、実績馬相手に4着と好走してみせた。そこから中2週となるものの、こちらも賞金を考えれば是が非でも出走権を手にしたい一戦で、大きな注目を集めていた。

以下、前走の未勝利戦を好時計で完勝したレヴォルタード。同じく未勝利戦を10馬身差の圧勝で制して以来、8ヶ月ぶりの実戦となるゴッドファーザーの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、内3頭が少し煽るようなスタートとなったものの、ほぼ影響のない範囲。一方、前はトップナイフが先手を取ろうとしたところ、ゴッドファーザーがこれをかわして先頭に立ち、同枠のセッションが2番手へ。

トップナイフをはさみ、タスティエーラと同じ勝負服のレヴォルタード、さらにはワンダイレクトがそれぞれ半馬身間隔で続き、ここまでが中団。そこから1馬身半差でヨリマルとグリューネグリーンの8枠2頭が追走し、3馬身差の9番手にフォトンブルー。さらに、1馬身差の最後方にアームブランシュが控えていた。

前半1000mは1分1秒0のスローペースで、前から後ろまではおよそ10馬身。その後、勝負所の3~4コーナー中間に入っても、隊列は大きく変わらなかったものの、全体が8馬身ほどに凝縮。さらに、4コーナーでタスティエーラとワンダイレクトが上昇を開始すると、後ろ2頭も一気にスパートして全体が6馬身ほどの一団となり、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、タスティエーラがすぐ先頭に並びかけ、ゴッドファーザーは後退。かわって外からワンダイレクトと、内の狭いところをこじ開けるようにしてトップナイフが差を詰めにかかる。その後ろは、最後方に位置していたアームブランシュが末脚を伸ばすも、前をまとめてかわすほどの勢いはなく、坂の途中で上位争いは3頭に絞られた。

しかし、先頭を行くタスティエーラの勢いは坂を駆け上がってからも衰えず、終始1馬身のリードをキープしたまま1着でゴールイン。根性で差し返したトップナイフが激戦の2着争いを制し、クビ差でワンダイレクトが続いた。

良馬場の勝ちタイムは2分0秒4。中2週をものともしなかったタスティエーラが嬉しい重賞初勝利で、サトノクラウンとの父仔制覇も達成(同産駒の重賞初制覇)。中山記念をヒシイグアスで勝利した松山弘平騎手と堀宣行調教師のコンビは、2週連続の重賞制覇となった。

各馬短評

1着 タスティエーラ

前走より一列前に位置して、序盤から積極的な競馬を展開。最後も、早目先頭から押し切る横綱相撲だった。

ここまでの勝ち鞍は新馬戦のみで、前走から中2週とやや強行軍ではあったものの、皐月賞はもちろん、ダービーに出走するためにも、勝ち切った意義は非常に大きい。

4代母が名牝クラフティワイフで、この一族からはカンパニー、トーセンジョーダン、ビッグテースト、トーセンスターダムなど国内外のGI馬が複数誕生しており、重賞ウイナーまであげ出すとキリがないほどの名門ファミリーの出身。

次走は、順当にいけば皐月賞になるはずだが、間隔を詰めて使ったため、果たしてそのとおりになるのか。それとも、間隔を置いてダービーに向かうのか。今後の動向が注目される。

2着 トップナイフ

序盤は少しいきたがり、横山典弘騎手になだめられながらの追走。それでもしぶとく伸び、大崩れしないところがこの馬のセールスポイントといえる。また、逃げ、先行、差しと、カメレオンのごとき自由自在の脚質で、鞍上の意のままにレースを進められるのも強み。

杵臼牧場の生産馬で、近年は他に、ハセドンやライラックがオープンで活躍しているが、牧場を代表する生産馬といえば、やはり和田竜二騎手とコンビを組んだ「世紀末覇王」ことテイエムオペラオーだろう。

トップナイフの2代母ビクトリーマッハは、テイエムオペラオーの半姉。さらにその父は、和田騎手の師匠で、オペラオーを管理した岩元市三調教師が騎手時代にコンビを組みダービーを勝利したバンブーアトラスという泣ける血統。また、共同通信杯を制したファントムシーフと同様、サンデーサイレンスを持たないことも血統面の特徴といえる。

さすがに今回は1番人気となったが、次走、皐月賞に出走してもそこまで抜けた人気にはならないはず。混戦の牡馬クラシック路線において、トップナイフのように勝ちきれなくても常に安定して上位に来る馬が、最も恐い存在といえるかもしれない。

3着 ワンダイレクト

外から差を詰めたものの、最後は勝ち馬と脚色が同じに。さらに、ゴール前ではトップナイフにも差し返されてしまったが、なんとか権利は確保した。

ハービンジャー産駒の牡馬は全体的に大きくなりやすく、年を重ねる毎に重くなって素軽さがなくなっていくが、この馬は440kg台とむしろ小柄な部類。母父ディープインパクトに2代母は重賞4勝のワンカラットという良血で、ファントムシーフと同様、今後ハービンジャー産駒を代表する牡馬になってもおかしくない。

ただ、ルメール騎手は1800mがベストとコメントしているように、皐月賞はもしかすると長いかもしれない。そうなるとマイルCということになるが、逆にそちらは出走権がなく、再びトライアルをはさむ必要があるため、難しい選択を迫られることになるだろう。

レース総評

前走4コーナーを3番手以内で回った馬が7頭も出走し、激しくなると思われた主導権争い。しかし、土曜日のチューリップ賞を逃げ切った武豊騎手がこの日も先手を奪うと、あっさり決着した。

結果、前半1000mは1分1秒0のスローで、同後半は59秒4=2分0秒4と後傾ラップ。ラスト3ハロンはすべて11秒台のラップだったが、勝ちタイムに関しては特別取り上げるべきものではなかった。

とはいえ、直近10年で勝ちタイムが2分を切ったのは16年のマカヒキだけ。今回はそれに次ぐ2位で、1、2着馬がクラシックを制した2022年のレースを0秒1上回っており、むしろ水準以上といえるかもしれない。

タスティエーラを管理する堀調教師は、父サトノクラウンで15年の弥生賞を制しているが、この年の皐月賞とダービーを制したのは、同じく管理馬のドゥラメンテだった。そのため、タスティエーラがクラシックを勝利するとなると、父が果たせなかったクラシック制覇の夢はもちろん、サンデーサイレンスを持たないサトノクラウンの種牡馬としての価値も、いっそう上がることになるだろう。

一方、松山騎手は近年、堀調教師の管理馬に騎乗することが多く、先日の中山記念を制したヒシイグアスや、昨年ダノンベルーガが共同通信杯を制した際も騎乗していた。しかし、ダノンベルーガに関しては、皐月賞以降、川田騎手に乗り替わったため、今度こそ、このコンビでのGI制覇が期待される。

さて、皐月賞のトライアルレースがここから本格的にスタートし、この後は若葉S、スプリングSと続いて、優先出走権は付与されないものの、毎日杯までが前哨戦という括りになる。

ただ、タスティエーラがクラシック候補に名乗りをあげたとはいえ、依然として3歳牡馬は混戦模様で、朝日杯フューチュリティSを制したドルチェモアは、NHKマイルCに直行することが決定済み。

そう考えると、ホープフルSを制したドゥラエレーデや、共同通信杯を勝利したファントムシーフが筆頭候補となりそうだが、前述した3レースからこの2頭やタスティエーラを上回る主役候補は出現するのだろうか。

そもそも、この世代に一時代を築いたキングカメハメハ産駒はおらず、ディープインパクト産駒も国内に6頭しかいない。いわば、歴史の転換点といっても過言ではなく、その世代で頂点に立つのはどの馬か。同じく、混迷を極めるリーディングサイアー争いで、一歩前に出るのは、果たしてどの種牡馬なのか。例年以上に面白くなりそうなクラシックの足音は、もうすぐそこまでやってきている。

写真:水面

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