出走15頭中14頭が1勝馬で、重賞2着の実績を持つ馬は不在。オープン馬は、キミノナハマリアだけというメンバー構成になったフローラS。それでも、母や兄姉に重賞ウイナーを持つ良血馬が多数集結し、オークスに向けて興味深い一戦となった。
出走馬の大半が1勝馬という混迷を極める一戦で、単勝10倍を切ったのは5頭。その中で、1番人気に推されたのはソーダズリングだった。
母は、2008年の桜花賞3着馬ソーマジックで、兄姉に2頭の重賞ウイナーがいる良血。デビュー戦はハナ差2着と惜敗を喫したものの、素晴らしい末脚を繰り出した前走は、2着に2馬身半差をつける楽勝だった。今回は、2022年のMVJを受賞し、半姉マジックキャッスルで2021年の愛知杯を制した戸崎騎手とのコンビ。その姉が3年前に立った樫の舞台に自身も立つことができるか、注目を集めていた。
わずかの差でこれに続いたのがドゥムーラン。父は、この世代が初年度産駒のサトノダイヤモンドで、2代母アゼリは米国でGIを11勝。2010年に殿堂入りを果たしたという超良血馬。ここまで1戦1勝ながら、3角最後方から長く脚を使い、16頭を次々と交わしていったデビュー戦の内容は圧巻だった。今回は、レーン騎手を鞍上に迎え必勝態勢。是が非でも本番へのチケットを手にしたい一戦だった。
3番人気に推されたのがイングランドアイズ。2014年の欧州年度代表馬キングマンの産駒で、母はオークス馬ヌーヴォレコルトという、こちらもピッカピカの超良血馬。前走のクイーンCは、勝ったハーパーから0秒1差の4着と惜敗したが、2000mでおこなわれたデビュー戦は同馬に勝利している。そのため、距離延長はプラスとみられ、史上3組目となるオークス母娘制覇の快挙へ権利獲得なるか。大きな期待を背負っていた。
以下、チューリップ賞勝ち馬エアパスカルを母に持つブライトジュエリー。前走のアネモネSで、桜花賞の権利獲りまであとわずかのところまで迫ったクイーンオブソウルの順に人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、イトカワサクラが出遅れ。イングランドアイズもダッシュがつかず、後方からの競馬となった。
一方、好スタートを切ったのはゴールデンハインドで、そのまま先頭。ソーダズリングが続こうとするところ、外からキミノナハマリアが交わし、さらに間からクイーンオブソウルがこれら2頭を交わして、2番手に上がった。
中団には、ピクシレーションやブライトジュエリーなど5頭が固まり、そこから2馬身差の10番手にドゥムーランが位置。さらに3馬身差の最後方にイングランドアイズが控えていた。
前半1000m通過は1分0秒8と遅い流れで、前から後ろまでは、およそ12馬身の隊列。その後、大欅の向こうを通過し、3、4コーナー中間を迎えても隊列に大きな変化はなかったが、4コーナーに入る直前でイングランドアイズがスパートを開始。前との差を詰めにかかると、イトカワサクラ以外の14頭が一団になって、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ってすぐ、クイーンオブソウルが先頭に並びかけようとするも、ゴールデンハインドがすぐに突き放し、リードは1馬身半。これを追って、キミノナハマリアが一旦は2番手に上がったものの、内を狙ったソーダズリング。その進路をなぞるようにして差し脚を伸ばしたブライトジュエリーがキミノナハマリアを交わし、2、3番手に上がった。
しかし、残り200mを切っても、前3頭それぞれについた1馬身半の差はなかなか縮まらず、4番手争いから抜け出してきたイングランドアイズとドゥムーランがさらに末脚を伸ばすも、前2頭とは決定的な差。3番手争いを演じるのが精一杯だった。
結局、ほぼ末脚が衰えなかったゴールデンハインドがリードを守り切り、1着でゴールイン。1馬身1/4差2着にソーダズリングが入り、この2頭がオークスの優先出走権を獲得。同じく1馬身1/4差3着にブライトジュエリーが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分58秒9。逃げ切ったゴールデンハインドが、重賞2度目の挑戦で初タイトルを獲得。管理する武市康男調教師はJRAの重賞2勝目。平地重賞は初制覇となった。
各馬短評
1着 ゴールデンハインド
初めてコンビを組んだ菅原明良騎手は、調教に騎乗したときから「逃げたら面白いな」とイメージしていたそうで、そのとおり好スタートから積極的なレース。中盤でペースを落として息を入れ、残り800mから再びペースを上げてそのまま押し切るという、逃げのお手本ともいえるような内容で勝ちきった。
サラブレッドクラブ・ラフィアンの所有で、ビッグレッドファームの生産。そして、ゴールドシップ産駒といえば、2021年のオークス馬ユーバーレーベンとまったく同じ。フラワーCからフローラSのローテーションも同じだが、先行タイプのゴールデンハインドとタイプは異なる。
オークスは、基本的に差し有利のレースだが、フローラSとオークスでともに先行、好走したウインマリリンのような例もあり、展開面でカギを握る存在としても引き続き注目したい。
2着 ソーダズリング
枠なりの競馬でインにこだわり、直線では早目に前が開くも、勝ち馬との差は最後まで縮まらなかった。重賞初挑戦でいきなり2着とポテンシャルは高いが、半姉マジックキャッスルは通算2勝。重賞でも2着5回3着1回と、なかなか勝ちきれなかった。
そのため、ソーダズリングも勝ちきれない馬にならないか心配だが、ハーツクライ産駒で、おそらく本格化はまだ先。同じハーツクライ産駒のジャスタウェイやリスグラシューのように、古馬になってから一気の大爆発があっても不思議ではない。
3着 ブライトジュエリー
最内枠から、こちらもインぴったりを回り、直線はソーダズリングが通った進路をなぞるように末脚を伸ばしたが、残り100mで前2頭と脚色が同じになってしまった。
敏感な面があるエピファネイア産駒は気難しい馬も多いが、重賞で1枠に入ると意外にも好成績。1着こそないものの、2着5回3着6回で複勝率42.3%。複勝回収率は137%と狙える。
あと一歩のところで権利を取れず、おそらく次走は自己条件からになりそうだが、キャリア2戦目で重賞に挑戦しいきなり3着と、能力の高さは疑いようがない。
レース総評
レース当日の7レース、古馬1勝クラスのマイル戦では1分32秒7が出るなど、開幕週らしい絶好の馬場でおこなわれた一戦は、前半1000m通過が1分0秒8。同後半は58秒1の上がり勝負で=勝ちタイムは1分58秒9(レース史上2位のタイム)。菅原明良騎手の好判断に導かれたゴールデンハインドが後続の追撃を封じ、見事な逃げ切り勝ちを収めた。
血統に目を向けると父はゴールドシップ。同産駒は牝馬の活躍馬が多い、いわゆるフィリーサイアー。その父ステイゴールドの産駒は、圧倒的に牡馬が活躍していただけにやや意外な印象だが、ゴールドシップの母父メジロマックイーンもまたフィリーサイアーだった。
ステイヤーにしては、雄大な馬格の持ち主だった現役時のメジロマックイーン。6歳時は500kg台まで成長し、5、6歳の成績を合計すると6戦5勝2着1回。3歳時に菊花賞を勝利しているが、年齢を重ねる毎に素晴らしい成績を収めた。
この馬格が牡馬に受け継がれると軽さがなくなってしまうが、牝馬だとちょうど良いサイズ。それはゴールドシップ産駒にも当てはまり、とりわけオークスとは好相性。ユーバーレーベンが制した前年も、13番人気のウインマイティーが3着に激走している。
2023年の牝馬三冠路線には一頭抜けた存在がいるものの、裏を返せば2番手以下は大混戦。ゴールデンハインドと2着ソーダズリングがそこに割って入ってもなんら不思議ではない。また、春の牝馬二冠を巡る争いは消耗との戦いにもなるが、ゴールデンハインドが今回10kgの馬体増で勝ち切った点は非常に大きい。
一方、母系に目を向けると、5代母にナンバードアカウントがいる名門の出身。同馬自身も現役時、米国の2歳チャンピオンの座についたが、初仔プライヴェートアカウントはGIを2勝。さらに、種牡馬として13戦13勝の名牝パーソナルエンスンや、フランスの二冠牝馬イーストオブザムーンなど、欧米で一流牝馬を送り出している。
また、孫のアサティスは日本で種牡馬入り。ウイングアローやボンネビルレコード、スマートボーイ。母の父としてもラブミーチャンなど、ダートの名馬を次々と輩出した。
さらに、ナンバードアカウントの全妹プレイメイトからはウッドマンが誕生。ウッドマンといえば、芝・ダートのGIを7勝したアドマイヤドンの父ティンバーカントリーや、全欧州2歳チャンピオンのヘクタープロテクター。1991年の米国2冠馬ハンセル。そして95年のスプリンターズS勝ち馬ヒシアケボノを送り出してきた大種牡馬で、とにかく一流馬、特に名種牡馬を輩出してきたファミリーである。
最後に、今回、ゴールデンハインドと初めてコンビを組んだ菅原明良騎手にも触れておきたい。
菅原騎手は、これがJRAの重賞6勝目。JRAの重賞に限れば勝率8.0%、複勝率22.7%と、トップジョッキーに比べるとさすがにそこまで高くはないが、単勝回収率は118%。複勝回収率に至っては203%と、素晴らしい成績を収めている。
これまでにも、2021年のアイビスSDで14番人気3着のバカラクイーンや、2022年NHKマイルCで18番人気3着のカワキタレブリー。2023年オーシャンSで15番人気2着のディヴィナシオンなど、穴馬どころか、超大穴馬を度々馬券圏内に持ってきている。
当コラムでも何度か触れているとおり、菅原騎手と同期の2019年デビュー組は非常に優秀。2022年のJBCレディスクラシックでGI級初制覇を成し遂げた岩田望来騎手をはじめ、2023年の高松宮記念を制し、土曜日の福島牝馬Sも勝利した団野大成騎手。さらに、亀田温心騎手、斎藤新騎手が重賞を複数勝利。その中で、重賞を最も勝っているのが菅原騎手で、近いうちにGIを制してもまったく不思議ではなく、この土日も東京で24レース中23レースに騎乗して5勝と、素晴らしい成績だった。
写真:win