[重賞回顧]末脚炸裂!スピードの名人は今年も健在!~2023年・マイラーズC~

「スピードだけでは乗り切れない、府中1マイルは真の試金石」そんな言葉を聞いたことがある。その舞台となる安田記念へのステップレースとして重要な1戦がこのマイラーズCでるが、マイルという距離自体がそもそもかなりのポテンシャルを求められる距離である。それはこの路線に集う馬たちが、短距離から中距離路線までの中間の距離としてぶつかり合う距離ということに起因しているのではないだろうか。

事実、このマイラーズCの勝ち馬を振り返ってみても、主に短距離からマイル路線で活躍した馬(ダイタクヘリオス、ニシノフラワー、ノースフライト、スーパーホーネット、インディチャンプ等)と、マイルから中距離戦線で活躍を遂げた馬(ダイワメジャー、カンパニー、ダノンプレミアム等)たちに分類することができる。そして彼らに共通することは、スピードとスタミナ、両方ともトップクラスの性能を兼ね備えているということだ。

ここを制した馬たちは、当然のように安田記念で好走することも多く、府中の舞台を見据える馬たちにとってここでの好走は必達条件になってくる。

今年のマイラーズC、1番人気から3番人気までは3強構成。1番人気に推されていたのが2年前のNHKマイルC馬シュネルマイスター。近走は馬券圏内も少なくやや調子に陰りが見えている感もあるとはいえ、実力は短距離戦線でもトップクラス。一昨年、時の短距離女王グランアレグリアにあと一歩まで迫ったあの末脚を再び見られることはできるかどうか。

続く2番人気がジャスティンスカイ。デビューからクラシックを見据えて眺めの距離を使われていたが、青葉賞11着、HTB賞4着となった後、マイル路線へ矛先を変えると一転。上り最速を3連発して、2勝クラスからリステッド競走まで連戦連勝で駆け上がってきた。鞍上も川田将雅騎手に乗り替わって、万全を期して臨む。

そして最後の1頭がソウルラッシュ。昨年4連勝で一気に重賞ウィナーまで駆け上がった素質馬は、その後も富士Sでセリフォス、ダノンスコーピオンに肉薄する2着、マイルCSでも4着と気を吐いた。昨年制した舞台を始動戦に選び、幸先のいいスタートを切りたいところ。

以上の3頭が抜けたオッズ構成で、それに昨年の菊花賞で1番人気に推されていたガイアフィース、短距離戦線で存在感を放つエアロロノアらが続いていた。

レース概況

新装センテニアル・パーク京都競馬場の最奥地点からスタートが切られると、大外からソウルラッシュがいいスタート。それに続いてシャイニーロックと酒井学騎手も好スタートを切っていく。

ダイメイフジ、ビーアストニッシド、キングエルメスもそのまま前へ付け、熾烈な選考争いが繰り広げられるかと思われたのもつかの間、手綱をしごいたシャイニーロックと酒井騎手がそのまま単騎で先頭へ。ビーアストニッシドの岩田康誠騎手とキングエルメスの坂井瑠星騎手はそのまま控えた。ダイメイフジが2番手につけ、この4頭にマテンロウオリオンとサヴァが割って入り番手先行集団は固まる。

これが初のマイル戦となるガイアフォースは中団で出方を伺い、それにエアロロノア、ゴールデンシロップが並びかける。ジャスティンスカイは内目につけ、彼らを見るような形で馬群の後方にザイツィンガー、シュネルマイスター。やや行き脚がつかなかったグラティアスが後方から2番手で、横にトリプルエースといった展開で淀の坂に差し掛かる。

600m通過は34.4。良馬場でタイムが出る馬場を考えればややスロー気味なピッチで坂の頂上へ。

単騎先頭のシャイニーロックはマイペースで後ろを離して逃げてゆく。2番手追走のビーアストニッシド、キングエルメスも仕掛け始めるが、後続騎手たちの激しくなるアクションとは対照的に、酒井騎手は未だ静か。持ったままで4コーナーを回る。ソウルラッシュは外に持ち出し、白い馬体のガイアフォース、1.2番人気のシュネルマイスターとジャスティンスカイは未だ後方馬群で直線コースに向いてきた。

逃げるシャイニーロックに後続が殺到。ここまで番手で進めてきたビーアストニッシド、、キングエルメス、内を突いたマテンロウオリオンに、外から差し脚を伸ばすソウルラッシュも追撃を開始。

だが、依然先頭は変わらない。

200のハロン棒を切っても、シャイニーロックは逃げ粘る。

スタートからマイペースを貫き通した逃げに、後続各馬の脚色が勝らない。

しかしここでようやく、中団以降に位置していた人気2頭にギアが入る。

一完歩ずつ差を詰めるソウルラッシュの外から伸びるガイアフォースと、更に外、一瞬の切れ味に賭けたシュネルマイスター。

あと100。差は半馬身まで詰まる。

残り50。4頭が横に並ぶ。が、それは一瞬。

緑色の帽子が、瞬く間に残り3頭を置き去りにして突き抜けた。

注目馬短評と上位入線馬短評

1着 シュネルマイスター

これで重賞3勝目。そして今回の勝ち方は着差以上の価値があるといっていいのではないだろうか。

明らかな前残りペース、シャイニーロックの勝ちパターンで、それを差し切りに行ったソウルラッシュが通常であれば勝っていただろう。

だが、次元の違う脚で外から華麗に前を差し切って見せた。上り3Fは開幕週だという前提を考えたとしても驚異の32.9。勝利への最右翼候補にこれだけの脚を繰り出されては、どんなに前が残る流れだったとしても叶わないだろう。

一昨年は3歳馬にして3着。昨年はソングラインに借りを返される形で2着。今年こそ1着が欲しいのは間違いないが、安田記念でも主役最有力候補となることには変わりない。

2着 ガイアフォース

こちらも着順以上に収穫のある2着。初のマイルでも十分に対応できることを見せてくれたとともに、昨年セントライト記念で見せてくれた実力が衰えていないことを証明してくれた。近2走は8着、5着と不甲斐ない成績ではあったものの、短いスパンで激闘を繰り返した反動も少なからずあったのだろう。

そして、今回の走りでマイル路線も対応できることが分かった。中長距離戦線のみならず、レースの選択肢が大きく広がったことも、前向きに捉えられるだろう。

3着 ソウルラッシュ

昨年の覇者は全く差のない3着。こちらも好位~中団馬群の中から確実に脚を伸ばした。最後こそ勝ち馬の末脚に屈したものの、通常なら完全に勝ちパターンの走りだった。鞍上の松山弘平騎手は2週連続、惜しいところで涙を呑んでいる。来週から始まるG1ウィークで、この悔しさを晴らすことができるかどうかにも注目したい。

総評

3年ぶり開催となった新装京都競馬場の1発目の重賞として開催された今年のマイラーズC。600m34.4、1000m57.4のタイムで、ラップタイム的には大幅な緩みはないものの、レースの流れ的には完全に前有利の展開だった。そのペースを作り出したシャイニーロックをまとめて差し切った3頭の実力差は大きく分かれていないと考えてよく、10回やり直せば10回とも勝ち馬がこの3頭の中から入れ替わると考えていいだろう。本番に大きくつながるレースとなるのは間違いないのではないだろうか。

勝利したシュネルマイスターは、近走こそ不振だったものの、復調をかけた調整が実を結んだか。一昨年、昨年と本番では悔しい思いをしているだけに、今年こその思いは強いはず。府中で2年ぶりの勝利の美酒に酔う準備は、整った。

写真:かぼす

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