[重賞回顧]主役タイトルホルダーが競走中止の波乱…。ディープインパクト産駒ジャスティンパレスが直線突き抜けGⅠ初制覇。~2023年・天皇賞(春)~

大阪杯がGⅠに昇格して以降、宝塚記念と合わせ、春の古馬三冠レースとして括られるようになった天皇賞(春)。近年は、中距離路線と長距離路線が明確に分けられ、また海外GⅠに出走する馬も増えたため、このレースを春の最大目標に掲げる陣営はかつてほど多くない。

ただ、数あるGⅠの中でも、歴史の長さと伝統は別格。また、極めて格式高く、非常に重みのあるレースである。

そんな天皇賞(春)が、3年ぶりに京都競馬場に帰ってきた。格式の高さや重みに、爽やかさと華やかさが加わり、入場券の当日発売はおこなわれなかったものの、開幕週から盛り上がりは最高潮。同時に、新しくなった京都競馬場でおこなわれる最初のGⅠということで、2023年の天皇賞(春)は、例年以上に特別な意味合いを持つ一戦となった。

その大一番に17頭が顔を揃え、単勝10倍を切ったのは4頭。その中で、抜けた1番人気に推されたのがタイトルホルダーだった。

前年の当レースを7馬身差で圧勝し、宝塚記念もレコードで完勝。菊花賞と合わせて、阪神競馬場のGⅠを3連勝した本馬。秋2戦、凱旋門賞と有馬記念は崩れたものの、今期初戦の日経賞は、なんと2着に8馬身差をつけ圧勝した。レース史上6頭目の連覇が懸かる今回は、史上4頭目となる異なる競馬場でのGⅠ連覇も懸かっており、なにより世界ランク1位のイクイノックスと再び対決するためにも、負けられない一戦だった。

これに続いたのが、4歳馬ジャスティンパレス。2歳時はGⅠ2着の実績がありながら、3歳春二冠は結果を残すことができなかった。しかし、秋初戦の神戸新聞杯を圧勝して重賞初制覇を達成すると、菊花賞でも3着に好走。有馬記念7着を挟んだ今期初戦の阪神大賞典で、2つ目のタイトルを獲得した。ルメール騎手が継続騎乗することでも注目は大きく、とりわけ3000m以上のGⅠでは、近年、圧倒的な強さを誇っているディープインパクトの産駒。念願のGⅠ制覇へ、あと少しのところまで迫っていた。

3番人気に推されたのが、同じく4歳馬のアスクビクターモア。弥生賞ディープインパクト記念で父仔制覇を成し遂げた後、皐月賞5着、ダービーも3着と健闘した。そして、秋はセントライト記念2着から臨んだ菊花賞でGⅠ初制覇を達成。前走の日経賞は、出遅れと休み明けが影響したか9着に敗れたものの、タイトルホルダーとは2度目となる菊花賞馬対決で雪辱を果たすか、注目を集めていた。

そして、4番人気となったのがボルドグフーシュで、近3走は、菊花賞、有馬記念、阪神大賞典と3戦連続2着。いまだ重賞を勝っていないのが不思議なほどの実績だが、ジャスティンパレスに先着を許した前走にしても、スローの瞬発力勝負で分が悪かった。馬場が渋り先行馬が多い今回は、展開面でも向くとみられ、日本を代表するビッグレースで重賞初制覇とGⅠ初制覇を同時に成し遂げるか、注目を集めていた。

レース概況

ゲートが開くと、全馬きれいなスタート。その中で、アイアンバローズがいく構えを見せたものの、内からタイトルホルダーが交わして先頭へ。これで先行争いが決着するかと思われたが、大外枠からアフリカンゴールドが押して押して強引にハナを奪った。

3番手にアスクビクターモアが続き、ディープモンスター、アイアンバローズと内枠各馬が追走。そこから4馬身差の中団に、ディアスティマ、ディープボンド、マテンロウレオ、ジャスティンパレスが位置していた。

一方、シルヴァーソニックは後ろから5頭目。ボルドグフーシュは後ろから3頭目に控え、1周目のスタンド前へと入ってきた。

最初の1000m通過は59秒7で、馬場を考えればやや速いペース。後方の2頭、エンドロールとサンレイポケットは大きく離れて追走していたため、全体は20馬身以上と、縦に長い隊列で進んでいた。

続く1コーナーに入るところで、アフリカンゴールドが失速(心房細動で競走中止)。替わってタイトルホルダーが先頭に立つとペースは落ち、スタート後、5番手を進んでいたアイアンバローズがいつの間にか2番手に浮上し、アスクビクターモアは変わらず3番手を追走。こちらも、前半から位置を上げたボルドグフーシュまでの11頭が7馬身ほどの一団になったところで、レースは2度目の坂越えを迎えた。

ここで、アイアンバローズが先頭に並びかけると、残り800の標識を過ぎたところで、タイトルホルダーは後退。ディープモンスターが押して2番手に上がると、外からディープボンドは馬なりで上昇し、その後ろでマテンロウレオとジャスティンパレスが虎視眈々と前を狙う。そして、3列目にブレークアップとアスクビクターモア、ボルドグフーシュが横並びとなり、レースはいよいよ最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、すぐディープボンドが先頭に立ち、アイアンバローズは失速。替わって、バトンを受け取るように弟のジャスティンパレスが2番手に上がり前を追うと、残り250mで先頭に立ち、徐々にリードを広げはじめる。焦点は2着争いとなり、粘るディープボンドに、ブレークアップと外からシルヴァーソニックが迫るも並ぶことができず、さらに3馬身以上前方では、ジャスティンパレスが独走態勢を築いていた。

最終的に、後続に2馬身半の差をつけたジャスティンパレスが、完全勝利といえる内容で先頭ゴールイン。ディープボンドが3年連続の2着となり、1馬身差3着にシルヴァーソニックが続いた。

やや重馬場の勝ちタイムは3分16秒1。ジャスティンパレスが、阪神大賞典からの連勝でGⅠ初制覇。また、ディープインパクト産駒はJRAのGⅠ71勝目で、これは、その父サンデーサイレンスと並び史上最多タイ。さらに、13年連続でのGⅠ勝利となった。

各馬短評

1着 ジャスティンパレス

力強い末脚で最後は独走。現役最強ステイヤーの座についた。

過去に天皇賞(春)を制したディープインパクト産駒は、フィエールマンとワールドプレミアで、この2頭はいずれも3歳春のクラシックは不出走だったが、菊花賞と当レースを勝利した。

一方、本馬は2歳GⅠと三冠レースに皆勤し勝利を挙げられなかったが、今回がGⅠ初制覇。そういった意味で、前述した2頭とタイプはやや異なるかもしれないが、前走16キロ増えていた馬体重は、この日、増減なし。しかも、スローからの瞬発力勝負となった阪神大賞典と、速い流れのタフなレースとなった今回は正反対のレース。それを問題にせず連勝したあたり、3歳時から大きく成長している。

気は早いが、来年の当レースの最有力候補であることは間違いなく、それまでに、今後どういった路線を歩むのか注目したい。

2着 ディープボンド

近走は勝負所で動けず、バテないが直線でもあまり伸びないというレースが続いていた。

さすがに力も衰えてきたかと思われたが、今回は坂の下りで唸るような手応え。前に並びかけると、直線、早目先頭に立ち、勝ち馬には突き放されたものの悠々2着を確保し、大いに見せ場を作った。

同一GⅠ3年連続2着は、ワンダーアキュートのJCダートと、クロコスミアのエリザベス女王杯に続いて史上3頭目の記録だが、和田竜二騎手は、これら3頭で計6度目の2着。なんとか勝たせてあげたいと思わざるを得ないような記録といえる。

3着 シルヴァーソニック

外枠が響いたものの、追込み馬では唯一掲示板に載り、大健闘といえる内容だった。

もとより、昨年の落馬、外ラチに飛び出して転倒というアクシデントから、よくここまで立て直したなというのが正直な感想で、それどころか、近走は国内外の重賞を連勝。7歳にして充実期を迎えており、父が制した宝塚記念や有馬記念、また海外のレースに出走した際は注目したい。

レース総評

今回のレースを1000m毎のタイムで区切ると、59秒7-1分2秒3-1分2秒2-11秒9=3分16秒1。また、1600m毎に区切ると、1分36秒3-1分39秒8=3分16秒1で、前傾ラップだった。

前日の夕方から雨が降り続き、芝は重からスタートしたレース当日。ただ、この日最初の芝の競走、第3レースを迎える前にはやや重へと回復し、道悪の巧拙が出るような馬場には映らなかった。

しかし、大方の予想どおり先行争いが激しくなり、長距離戦らしく、前も頻繁に入れ替わる展開。結果、タイトルホルダーを含む2頭が競走を中止し、15着で入線したトーセンカンビーナも、完走を果たしたものの左前浅屈腱不全断裂を発症。非常にタフなレースとなった。

そんなレースでも、問題にせず完勝したのがジャスティンパレス。前走の阪神大賞典と今回は対照的ともいえるレース展開だったが、この春、一段と成長して本格化し連勝。同じくルメール騎手のお手馬で、ディープインパクトを父に持つフィエールマンの後釜になることが期待される。

そのディープインパクト産駒は、これがサンデーサイレンスに並ぶJRAのGⅠ71勝目。また、3月には産駒通算2700勝も達成しており、この土日も5勝を上積みして2720勝。サンデーサイレンス産駒がマークした2749勝の記録更新も、時間の問題となっている。

また、国内の3000m以上のGⅠ(菊花賞と春の天皇賞)は、今回のように改修工事などが無い限り京都競馬場でしか施行されないが、18年の菊花賞フィエールマンからディープインパクト産駒が6連勝を達成し、無類の強さを発揮している。

この中には、ワールドプレミアが制した阪神の天皇賞(春)も含まれているが、その後、ドゥラメンテ産駒のタイトルホルダーが連勝。長距離路線で、キングカメハメハ系種牡馬の躍進があるかと思われたが、22年の菊花賞を再びディープインパクト産駒のアスクビクターモアが勝利すると、今回ジャスティンパレスが連勝と、もはや手がつけられない。

産駒数が非常に少ない23年の菊花賞は厳しいかもしれないが、長距離戦では、ディープインパクト産駒にとっての「安住の地」といっても過言ではない京都競馬場に戻り、天皇賞(春)の連覇は再び続いていくのか注目される。

そして最後に、ルメール騎手の素晴らしい騎乗についても、少し触れておきたい。

今回、ジャスティンパレスは1枠1番の絶好枠を引いたが、最内枠を引くと、とりわけ長距離戦では、最短距離を通りたくなるもの。実際、ルメール騎手も週中のインタビューで「長距離戦で意識することは?」という質問に対して「最短距離を通ること」と、回答していた。

しかし、今回のレースでは、1コーナーで下がってきたアフリカンゴールドを避けて以降、レース後半は外へシフト。これにより、今度は勝負所で下がってきたタイトルホルダーを問題もなくパスすることができ、そこが、アスクビクターモアとは対照的だった。

また、開幕週の日曜日に4鞍(すべて芝のレース)騎乗したルメール騎手は、直線ですべて同じような位置を通り、末脚を活かす競馬に徹して4戦2勝2着1回の成績。そしてこの日も、直線でどこが最も良く伸びるかをしっかりと見極め、芝のレースでは4戦1勝2着2回3着1回と、素晴らしい成績だった。

レース後の勝利騎手インタビューを聞いても分かるように、ルメール騎手が京都競馬場を気に入っているのは明らか。22年は、川田将雅騎手の陰にやや隠れてしまったが、3年ぶりに開催された京都競馬場は、ルメール騎手にとってもまた安住の地なのかもしれない。

写真:かぼす

あなたにおすすめの記事