秋華賞が、3年ぶりに「三冠馬誕生の地」京都競馬場に帰ってきた。
前回、三冠馬が誕生したのも同じく3年前の2020年で、牡、牝馬ともに無敗三冠が達成されるという、ともすれば、一生に一度あるかないかの出来事が起こった年。そのとき牝馬三冠を成し遂げたデアリングタクトは、残念ながら先日引退が発表されたばかりだが、それからおよそ1週間。偉大な先輩からバトンを託されるように、今度はリバティアイランドが牝馬三冠の栄誉に手をかけようとしていた。
そのリバティアイランド。最終的な単勝オッズはなんと1.1倍で、データが残っている1986年以降の平地GⅠにおいて、1番人気のオッズが1.1倍以下となったのは今回が8度目だった。
ただ、同馬がオークスで獲得したレーティング120ポンドは、レース史上断トツの最高値で、牝馬のセックスアローワンス4ポンドを加味すれば、ディープインパクトがダービーで獲得した124ポンドに匹敵する数値。そのため、この評価はある意味当然で、平地GⅠにおいて単勝1.1倍以下で複数回勝利したのも、ディープインパクトだけである。
右回り、内回りコース、2000m、渋った馬場と、オークスと条件は大きく異なるものの、歴代最強クラスの名馬と同等の評価を得たリバティアイランドが、順当に牝馬三冠の栄誉を手にするのか。はたまた、ライバルが一矢報いるのか。それこそが、3年ぶりに京都でおこなわれる秋華賞の最大の見所となった。
一方、大きく離れた2番人気に推されたのがハーパー。2月のクイーンCで重賞初制覇を成し遂げた本馬は、続く桜花賞で4着と敗れるも、オークスできっちりと巻き返し2着に好走。鞍上は、リバティアイランド騎乗の川田将雅騎手と激しいリーディング争いを繰り広げるルメール騎手で、三冠阻止の筆頭候補として注目を集めていた。
そして、僅かの差で3番人気となったのがマスクトディーヴァ。2戦目の忘れな草賞で7着に敗れ春二冠とは縁がなかったものの、前走のローズSをJRAレコードで勝利するという、衝撃の重賞制覇を成し遂げた。リバティアイランドと対戦実績がないという意味で未知の魅力があり、この夏、最大の上がり馬が歴史的な番狂わせをやってのけるのか。多くの期待を背負っていた。
レース概況
ゲートが開くと、大外枠のエミューが出遅れた以外は揃ったスタート。リバティアイランドも五分のスタートを切った。
先手を取ったのはコナコーストとミシシッピテソーロで、フェステスバントとラヴェル、ハーパーがこれに続いて、前がごった返す。それでも2コーナーでペースは落ち着き、ソレイユヴィータをはさんだ7番手にリバティアイランドは位置していた。
一方、前走重賞を制したドゥーラやマスクトディーヴァ、モリアーナは中団より後ろに待機。また、前走の紫苑Sでハイペースを先行し2着に粘ったヒップホップソウルも、今回は後ろから4頭目に控えていた。
前半1000mは1分1秒9のスローで、先頭から最後方のエミューまではおよそ10馬身。その後、3コーナーまで隊列に大きな変化はなかったものの、3、4コーナー中間でエミューが6頭ほどを交わしてポジションを上げると、これをきっかけにピピオラも上昇を開始。すると、リバティアイランドもスパートして一気に先団に取り付き、4コーナー出口で早くも単独先頭に立って直線勝負を迎えた。
直線に入ると、リバティアイランドが徐々に後続を引き離しにかかり、残り200mで2馬身のリードを取って独走態勢を築く。2番手は内からモリアーナ、ハーパー、ドゥーラの争いになるかと思われたが、ゴール前100mでマスクトディーヴァの豪脚が再び炸裂。
2番手争いを演じていた7頭ほどを一瞬で交わし去り、その後も前を猛然と追ったが、最後まで余裕のあったリバティアイランドが着差以上の強さで先頭ゴールイン。1馬身差2着にマスクトディーヴァが入り、2馬身1/2差3着にハーパーが続いた。
稍重馬場の勝ちタイムは2分1秒1。圧倒的人気に推されたリバティアイランドが史上7頭目の牝馬三冠を達成。この日が38歳のバースデーだった川田将雅騎手は、史上4人目となる3歳GⅠ完全制覇を成し遂げた。
各馬短評
1着 リバティアイランド
勝負所で進路を確保すると、外からまくる安全策で早目先頭。そのまま危なげなく押し切った。
牝馬三冠はもちろん、アーモンドアイと同じく、現役最強、あるいは史上最強クラスを目指すような馬。次走は未定だそうだが、世界ランク1位のイクイノックスとの対戦は実現するのか。もし実現すれば、三冠馬3頭が激突した2020年のジャパンCや、同じく三冠馬2頭が激突した2012年のジャパンCに匹敵する盛り上がりとなるだろう。
2着 マスクトディーヴァ
勝ち馬がゴール前でやや流していたとはいえ、またしても豪脚を繰り出して1馬身差まで迫り、大いに見せ場を作った。
持久力に秀でたルーラーシップ産駒のイメージはまるで当てはまらず、母父ディープインパクトや、2代母ビハインドザマスクのキレ味、瞬発力を受け継いでいる。直線入口で早々に進路を確保できていれば、さらに迫っていた可能性は高く、それでも上がり3ハロンはメンバー中最速。とりわけラスト100mの追い上げは凄まじく、最後の数完歩は素晴らしいストライドだった。
「夏の上がり馬」という次元をはるかに超えており、牝馬に限れば、古馬を含めてもかなり上位にランクインするような存在。そもそも、牝馬の「夏の上がり馬」は近年さほど出てきておらず、春二冠不出走、かつ秋華賞で連対を果たしたのは、2018年2着のミッキーチャーム以来5年ぶり。距離は、少なくとも1800m以上あったほうが良さそうで、この馬もまた次走が非常に楽しみとなった。
3着 ハーパー
勝ち馬と同様、小回りコースは向かないタイプだが、地力で3着を確保した。
おそらく本格化はまだ先で、ジャスタウェイやリスグラシューなど、2、3歳時からマイル重賞で好走していたハーツクライ産駒は、古馬になってから手がつけられなくなる可能性があり、この馬も同じ道のりを歩む可能性は十分にある。
レース総評
前半1000mが1分1秒9で、同後半が59秒2の後傾ラップで=勝ち時計は2分1秒1。稍重馬場を考慮してもタイムは平凡だが、レースレベルの低さを表わすものではなく、少なくとも、1、2着馬に関しては実力が抜けていた。
秋華賞がおこなわれる京都内回りの2000mは直線が短く、リバティアイランドのような差し馬にとって不利な条件と思われがちなコース形態。ただ、京都開催の秋華賞で牝馬三冠にチャレンジした過去6頭のうち5頭は三冠を達成しており、唯一敗れたブエナビスタは、他の5頭と異なり内枠を引いていた。
それでも、ブエナビスタは古馬になってから牡馬相手に天皇賞(秋)やジャパンCを勝利。4歳時には年度代表馬のタイトルも獲得しており、他の三冠牝馬に負けないどころか、それらを上回る実績を残している。
一方のリバティアイランドも内枠を引き、その点は心配されたものの、勝負所で進路を確保すると、ほぼ危なげなく快挙達成。1.1倍のオッズが示すとおり、コース形態、枠云々の問題ではなかった。
ただ、前走のオークスが圧倒的な勝利だったように、本質的には直線の長いコース、かつ2000mや2400mが最も力を発揮できる舞台。この舞台であれば、世代最強どころか現役最強クラスの実力を持っていることはほぼ間違いないだけに、なんとかジャパンCでイクイノックスとの対戦が実現してほしいものだが、果たしてどうなるだろうか。
また、近年の秋華賞馬の血統に注目すると、2代以内にキングカメハメハを持つ馬が勝ちきっており、リバティアイランドとアーモンドアイは、父の父がキングカメハメハ。2022年の勝ち馬スタニングローズはキングカメハメハ直仔で、2020年の勝ち馬デアリングタクトと翌21年のアカイトリノムスメは、母の父がキングカメハメハだった。
また、今回1~3着となった馬の父は、順にドゥラメンテ、ルーラーシップ、ハーツクライ。これら3頭の種牡馬は、母母父、母父、母父がトニービンであり、2024年以降の秋華賞も、二代以内にキングカメハメハを持つ馬と、母系にトニービンを持つ種牡馬の産駒に注目したい。
写真:かぼす