[重賞回顧]キズナ産駒のエース候補ジャスティンミラノが、2歳王者を撃破し重賞初制覇~2024年・共同通信杯~

皐月賞とダービーに向け、最も重要な前哨戦といっても過言ではない共同通信杯。このレースに出走後、春二冠で連対を果たした馬は過去10年で10頭。そのうち7頭がクラシックを制し、さらにそのうちの4頭、イスラボニータやドゥラメンテらは、皐月賞とダービーの両レースで連対を果たした。

一方、クラシックで連対しながら惜しくも勝利することが叶わなかったリアルスティールとスワーヴリチャード、ダノンキングリーの3頭は、古馬になってGⅠを制覇。結果的に、これら10頭はすべてビッグタイトルを獲得し、同じコースでおこなわれる東京スポーツ杯2歳Sと並び、世代限定重賞の中でも屈指の出世レースといえる。

2024年も、例年どおり少数精鋭のメンバー構成となって10頭が出走。GⅠの1、2着馬を筆頭に、他にも重賞連対馬が2頭と、最も重要な前哨戦に相応しいメンバーが顔を揃えた。

それだけに人気は割れ、単勝10倍を切ったのは半数以上の6頭。その中で、ジャンタルマンタルが1番人気に推された。

パレスマリス産駒の持ち込み馬ジャンタルマンタルは、10月京都の新馬戦を完勝。続くデイリー杯2歳Sも勝利して重賞制覇を成し遂げると、さらに1ヶ月後の朝日杯フューチュリティSも、早目先頭から押し切って優勝。デビュー3連勝でGⅠ初制覇を飾った。

それ以来2ヶ月ぶりの実戦となる今回は、初めてとなる関東圏での競馬。なおかつ初の左回りと課題はいくつかあるものの、今のところ同世代でGⅠを制した唯一の牡馬であり実績は断然。無敗の4連勝と重賞3連勝が懸かっていた。

これに続いたのがミスタージーティー。前走のホープフルSは大外18番枠からのスタートで、なおかつ直線では再三前が詰まり、追うことができたのは正味100mほど。それでも勝ち馬から0秒5差の5着に健闘した。

父は、リーディングサイアーのドゥラメンテという良血で、セレクトセールにおいて税込9,020万円で落札され高馬。前走より頭数が減る今回こそ自慢の末脚が炸裂するか、注目を集めていた。

3番人気となったのがエコロヴァルツ。2戦2勝で臨んだ前走の朝日杯フューチュリティSは、スタート後しばらくして前が塞がる不利。4コーナーはおろか、直線半ばまで最後方に位置していたものの、そこから素晴らしい末脚を繰り出し15頭をごぼう抜き。ジャンタルマンタルから0秒1差の2着に食い込んだ。

ブラックタイド産駒に武豊騎手騎乗といえば、あのキタサンブラックと同じ。産駒2頭目のGⅠ制覇に向け、良い形で今季初戦を終えられるか。その上でジャンタルマンタルに雪辱を果たすか。注目を集めていた。

以下、ともに1戦1勝のジャスティンミラノとベラジオボンド。シンザン記念5着から臨むショーマンフリートの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、ベラジオボンドが少し出遅れたものの、全馬ほぼ揃ったスタート。その中からパワーホールが飛び出し、エコロヴァルツが続こうとするところ、これを外からジャスティンミラノとジャンタルマンタルが交わしていった。

その後ろの中団外目にエンヤラヴフェイスが追走し、1馬身差でミスタージーティーとベラジオボンドが併走。そこへショーマンフリートが加わり、ディマイザキッドとフォスターボンドが最後方に控えていた。

800m通過は50秒0、1000m通過も1分2秒7と非常に遅い流れで、先頭から最後方まではおよそ8馬身。全10頭は、ほぼ一団で追走していた。

その後、3、4コーナー中間でパワーホールが少しリード広げ、エンヤラヴフェイスが3番手に進出。序盤は、やや引っかかり気味だったジャンタルマンタルも5番手で落ち着く中、レースは最後の直線を迎えた。

直線に入ると、パワーホールが後続との差をさらに開き、リードは3馬身半。これをジャスティンミラノとジャンタルマンタルが追い、残り200mの標識でジャスティンミラノが先頭に立った。

さらにその後、残り100m地点でジャンタルマンタルが2番手に上がるも、最後まで前との差はほとんど縮まらず、押し切りに成功したジャスティンミラノが1着でゴールイン。1馬身1/2差でジャンタルマンタルが続き、1馬身差3着にパワーホールが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分48秒0。2番手追走から押し切ったジャスティンミラノがデビュー2連勝。2歳王者の連勝を止めた一方で自身は無敗を継続し、次の舞台に駒を進めることとなった。

各馬短評

1着 ジャスティンミラノ

スタートはあまり良くなかったものの、遅い流れになることを見越した戸崎圭太騎手が位置を取りにいくファインプレー。2番手につけて折り合うと、直線楽に抜け出し2歳王者に完勝した。

キズナ産駒の牡馬は瞬発力があまりなく東京では重賞を勝利できずにいたが、5世代目にして初制覇。しかも、今回の上がりは32秒6で極限といえるもの。牡馬のキズナ産駒のエース候補といえる存在で、さすがはノーザンファームの生産、育成馬といったところか。

この世代は、種牡馬キズナにとってターニングポイントになるかもしれない世代で、それについては後述する。

2着 ジャンタルマンタル

連勝は途切れたものの、今季初戦としては上々といえる内容。序盤はややスムーズさを欠き、頭を上げながらの追走になったこともあるが、勝ち馬とは位置取りの差ともいえる範疇。この馬も、上がり3ハロンは32秒6だった。

父パレスマリスが日本で成功している理由は、瞬発力を産駒に上手く伝えているからとみているが、そこで重要な役割を担っているのが、おそらくパレスマリスの二代父スマートストライクである。

同馬の日本における代表産駒ブレイクランアウトは、09年の当レース勝ち馬。母の父としても、二冠馬スターズオンアースや安田記念を勝ったストロングリターンを送り出している。

3着 パワーホール

2走前の札幌2歳Sで2着と好走するも、前走のラジオNIKKEI杯京都2歳Sは12着大敗。その点が嫌われたか、実績上位の存在ながら大きく人気を落としていたが、前走は、直線に向いたときバランスを崩し、あまり無理をしなかったそう。

しかし、まんまとスローの逃げに持ち込めた今回は、直線の長い府中でもしぶとく粘り、再び好走を果たした。

話題のスワーヴリチャード産駒ながら、母父はコマンズと渋い血統。スムーズに先行できた際は、今後も度々好走しそう。

レース総評

800m通過は50秒0で、12秒7をはさみ、後半800mが45秒3と超のつく後傾ラップ。極限ともいえる上がり勝負で、4コーナー4番手以内に位置していた馬が3着までを独占した。

勝ったジャスティンミラノは、前走、11月3週におこなわれた東京芝2000mの新馬戦を快勝。奇しくも、2年前の共同通信杯を勝ったダノンベルーガもこの条件の新馬戦を勝利していた。

ただ、ジャスティンミラノが勝利した新馬戦の上がり4ハロンは45秒9。これは、東京芝2000mでおこなわれた新馬戦の史上最速タイ。もう一頭は、後に弥生賞を勝利するカミノタサハラ(12年11月25日の新馬戦)で、ジャスティンミラノも既に重賞レベルの走りを披露していたことになる。

そして今回、そのときをさらに上回る4ハロン45秒3という極限の上がり勝負にもしっかり対応。無敗の2歳王者を撃破してみせた。

ジャスティンミラノの父は、2023年の2歳リーディングを獲得したキズナ。現役時からのライバルで2位エピファネイアを、僅か700万円上回っての首位だった。

ちなみに、これら2頭の産駒の現3歳世代は、2歳時、重賞はおろかオープンも0勝。勝ち鞍は、新馬戦、未勝利戦、1勝クラスで稼いだものだった。

しかし、年が明けると前者からはジャスティンミラノ以外にも、クイーンズウォークが土曜日のクイーンCを制覇。ホープフルS3着のサンライズジパングもリステッドの若駒Sを制し、ライトバックがエルフィンSを勝利している。

一方のエピファネイア産駒は、フェアリーSのイフェイオン、京成杯のダノンデサイル、きさらぎ賞のビザンチンドリームと、既に重賞を3勝。全体リーディングでも、首位ロードカナロアに次いでキズナが2位、エピファネイア3位となっている(2月9日時点)。

ここまで見てきたように、現3歳世代が躍進を遂げているキズナ産駒。その要因の一つとしてあげられるのが、ノーザンファームの繁殖牝馬に数多く種付けしている点ではないだろうか。

供用初年度の2016年、キズナが種付けしたノーザンファームの繁殖牝馬は32頭だった。しかし、翌17年は22頭に減少すると、そこからの2年も18頭、19頭で推移した。

ところが、19年にデビューした初年度産駒が活躍し、さらにキズナの父ディープインパクトがこの世を去ったことも影響したか、20年は54頭と激増。この年に種付けされたのが現3歳世代で、21年以降も51頭、47頭、38頭と、明らかに増加している。

ジャスティンミラノに話を戻すと、管理するのは過去にクラシックを5勝、そのうちダービーを3勝している友道康夫調教師。ジャスティンミラノも、順調にいけばクラシック路線に乗ってくる存在だが、今回は、超スローからの上がり勝負だったことも事実。

確かに、いくらスローペースだったからとはいえ、32秒6という上がりはそう簡単に出せるものではない。ただ、上位入着馬を、特に皐月賞のような小回りコースでは過度に評価しすぎないよう。反対に、4着以下に敗れた馬の評価を著しく下げすぎないようにも注意したい。

写真:@gomashiophoto、茉莉花茶

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