北海道シリーズの開幕を告げる函館スプリントSは、サマースプリントシリーズの第1戦。過去にはビリーヴやセイウンコウセイなど、GⅠウイナーが実力をいかんなく発揮したこともあったが、この路線の最高峰スプリンターズSは3ヶ月以上も先。どちらかといえば、このレースをきっかけに秋への飛躍を期す馬が多い。
2024年も、重賞ウイナーは出走16頭中4頭と決して多くなかったものの、それ以外にリステッド、オープン勝ち馬が10頭も出走。ただ、人気は2頭に集まり、その中でアサカラキングが1番人気に推された。
デビュー当初は1800m以上のレースに使われ、2400mの青葉賞にも出走したアサカラキング。転換点となったのは5走前のマイル戦で、ここを逃げ切ると、そこから1400mの条件戦を連勝。続く阪急杯でハナ差2着と惜敗し連勝は止まるも、前走のモルガナイトSを逃げ切ってオープンと1200m戦の初勝利を成し遂げた。
鞍上の斎藤新騎手とは6戦4勝2着1回と相性抜群。重賞初制覇を懸けての出走だった。
これに続いたのがサトノレーヴ。故障などもあって5歳ながら僅かキャリア7戦のサトノレーヴは、前走リステッドの春雷Sを勝利。重賞初挑戦となった2走前の阪急杯4着以外は5勝2着1回と安定した成績を残している。
今回は、過去3勝をあげた浜中俊騎手とのコンビが復活。この馬もまた重賞初制覇を懸けての出走だった。
そして、3番人気となったのがビッグシーザー。3歳春時点でオープンを3勝し、早くから活躍していたビッグシーザーは、古馬と初めて対戦したセントウルSで10着。続くオパールSも12着と大敗してしまった。
それでも、今季初戦の淀短距離Sを勝利すると、オーシャンS2着、GⅠ高松宮記念でも7着とまずまずの内容。実績上位の存在で、待望の重賞制覇を目指していた。
以下、前走でオープン2勝目をあげたジャスティンスカイ。GⅡスワンS勝ちの実績があるウイングレイテスト。前年覇者キミワクイーンの順で人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートの中から9歳馬カイザーメランジェが飛び出し、二の脚がついたアサカラキングが2番手。カルネアサーダ、ウイングレイテスト、サトノレーヴがそれぞれ半馬身間隔で続き、1馬身差でビッグシーザーとオタルエバーが併走と、上位人気馬は軒並み前に位置していた。
中団には、シュバルツカイザーとシナモンスティックを挟んで前年1、2着のキミワクイーンとジュビリーヘッドがつけ、ジャスティンスカイは後ろから5頭目に控えていた。
600m通過は33秒4と速く、先頭から最後方のセッションまでは17、8馬身差。縦長の隊列となる中、前はアサカラキングとウイングレイテストがカイザーメランジェに並びかけようとしたところで直線勝負を迎えた。
直線に入ると、コーナーリングでカイザーメランジェが再び先頭。しかし、すぐにアサカラキングとウイングレイテストがこれを交わし、2頭の争いになるかと思われたところ、内から2頭目の僅かな隙間を突いたサトノレーヴが一気に抜け出し単独先頭に立った。
注目は2番手争いとなり、再び盛り返そうとするウイングレイテストに外からビッグシーザーが迫るも、これらを難なく振り切ったサトノレーヴが1着でゴールイン。1馬身1/4差2着にウイングレイテストが続き、ビッグシーザーがクビ差3着となった。
良馬場の勝ちタイムは1分8秒4。好位追走から直線、僅かな隙間を割って抜け出したサトノレーヴが快勝。秋の大舞台へ夢が広がる重賞初制覇となった。
各馬短評
1着 サトノレーヴ
五分のスタートからスッと好位を確保。自身の内にいたカイザーメランジェとアサカラキングが先行したため難なく内ラチ沿いに進路を取ることができ、直線も僅かなスペースを見逃さずに突き勝利した。
やや早目に抜け出したせいか、2着以下とそこまで着差がつかなかったものの完勝。ソラを使った訳ではなさそうだが、とにかくセンスの塊のような馬。今のところ欠点という欠点が見つからない。
1200mは6戦5勝2着1回とほぼ完璧な成績。GⅠでいきなり通用しても不思議ではなく、レーヴ=フランス語で「夢」の馬名どおり、秋の舞台へ夢が広がる価値ある勝利となった。
2着 ウイングレイテスト
スタートを決めて好位を確保。ほぼ完璧な立ち回りを見せた勝ち馬には及ばなかったものの、59kgや海外帰り、初の1200mなど複数の課題を克服。出走馬中、唯一のGⅡウイナーたる実力を見せつけた。
7歳とはいえまだまだ元気。今後はスプリント路線を歩むのか、それともマイル路線に戻るのか。動向が注目される。
3着 ビッグシーザー
道中は先行馬群を前に見て6番手に位置。おそらく、理想はもう一列前でレースを進めたかったはずだが、7枠13番からのスタートでそれは叶わなかった。
開催1週目で先行有利だったことを考えれば十分な内容。2歳時から活躍しているとはいえ、父が重賞初制覇とGⅠ初制覇を成し遂げたのは5歳の春。もう一段階成長すれば、トップクラスでやれても不思議ではない。
レース総評
前半600m通過が33秒4に対して、同後半は35秒0=勝ち時計は1分8秒4。短距離戦らしい前傾ラップとなったものの、開催1週目、かつ直線が短い函館で先行有利。逃げ馬にとってはやや厳しい流れでも、実力のある先行馬はそう簡単に止まらず、中団以下に位置していた差し、追込み馬、特に外枠を引いた馬にとっては厳しい展開だった。
勝ったサトノレーヴは「父ロードカナロア×母父サクラバクシンオー」という、日本を代表するスプリンター同士の配合。この組み合わせからは他に、2023年の高松宮記念を制したファストフォースをはじめ、2022年の同レース3着キルロード、カペラS勝ちのテイエムトッキュウなど、オープン馬が続出している。
また、サトノレーヴは短距離重賞を3勝したハクサンムーンの半弟。ハクサンムーン自身も、重賞5連勝でGⅠ4連勝中だったロードカナロアの快進撃をセントウルSで止めた馬。あと一歩のところでビッグタイトル獲得はならなかったものの、スプリンターズSと高松宮記念で2着に好走した一流のスプリンターだった。
サトノレーヴは、少なくとも今回に関しては完璧な立ち回りで、今のところ穴という穴が見つからない。もはや死語かもしれないが、安田記念を制したロマンチックウォリアーと同じく「テンよし、中よし、終いよし」で、センスの塊のような馬。おそらく、今後は対戦相手のレベルが上がっていくものの、スプリント路線は春秋のGⅠを連勝するような絶対王者が長きにわたって不在の状況。大舞台でいきなり通用しても、なんら不思議ではない。
また、ロードカナロア産駒はやや晩成傾向。重賞における複勝率は、なんと7歳馬が最も高く、ファストフォースやキルロードが高松宮記念で好走したのも7歳のときだった。
サトノレーヴ自身、5歳とはいえ今回がまだ8戦目。消耗は少なく、長きにわたる活躍が期待される。
一方、好位につけたものの9着に敗れたのが1番人気アサカラキング。もともと2000m前後の距離を走っていたせいか、スタートの1歩目が遅いのは陣営も認めるところで、実際、今回のレースでもそうなった。ただ、挽回するのにいつも以上に脚を使い、最終的に逃げることも叶わず。一度は直線で先頭に立つも、そこから粘りを欠いた。
現状、1200mの重賞ではさすがにスピード不足か。かといって、大きく失速しているわけでもなく、阪急杯でハナ差2着と好走している点からも、1400mこそが最も力を発揮出る舞台なのかもしれない。
逆に、枠順や展開がやや不利な中で、次走狙ってみたいのが6着ゾンニッヒ。大外枠からのスタートと、序盤から流れが速くなったことで、道中は後ろから2頭目となり、先頭とはかなりの差。さらに、直線に向いてもしばらく前が壁で、追えたのは実質150mほど。それでもメンバー中2位タイの上がりを繰り出し、勝ち馬とは0秒4差、2着とは0秒2差だった。
外枠がさほど不利にならない当レースでも、今回はさすがに厳しかった印象。9番人気6着という結果で、次走、再び武豊騎手が騎乗したとしても、そこまで人気にはならなさそう。逃げ争いが激化しそうなメンバー構成であれば、積極的に狙ってみたい。
写真:@gomashiophoto