[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]福ちゃんの血統表(シーズン1-10)

毎年、数えきれないほど多くの馬たちが生まれる牧場において、強くて速いサラブレッドをつくるために、一定数の不受胎や流産、奇形の問題は許容されてきたのです。もちろん、大手の牧場も海外からサンデーサイレンスなどの血が入っていない繁殖牝馬を導入して血の更新に努めていますが、爆発的に増えるサンデーサイレンス系に対しては、付け焼き刃であり、自転車操業的であるとも言えます。

奇形で生まれた福ちゃんとスパツィアーレの不受胎の問題が重なり、点が線となり、もう一度、配合に関しては考え直さねばならないと僕は思い始めました。僕のような腰かけ生産者にとっては、配合を考えるぐらいしか、奇形や不受胎を防ぐ方法はないからです。2頭しか繁殖牝馬を持っていない僕にとって、1頭が不受胎、もう1頭が生まれてきたと思ったら病気を抱えていたのでは正直厳しいのです。お前は運が悪かったのだと言われてしまうとそれまでですが、いくつかの不運が同時に我が身に降りかかったことにより、近親交配の弊害について真剣に考えなければならなくなりました。

改めて福ちゃんの血統表を眺めてみると、5代血統表を見る限りは、ノーザンテーストの4×5のインクロスしか生じていません。ところが、ひと世代さかのぼって、母ダートムーアの5代血統表を見てみると、Northern Dancerの5×4というインクロスがあります。

次に父タイセイレジェンドの5代血統表を見ると、Northern Dancerの5×5というインクロスが2本見つかります(ちなみに、父と母をまたいで配合されたときにインクロスの効果は生じますので、父がどれだけインクロスを持っていても、母がどれだけインクロスが濃くても、父と母が同一の血を共有していない限り、インクロスの効果は顕在化しません)。

このように5代血統表では見えなかったインクロスが6代前までさかのぼると見えてくるのです。他の馬たちの配合と比べてではなく、あくまでも福ちゃんの血統表だけを見ると、Northern Dancerのクロスがある繁殖牝馬にこちらもNorthern Dancerのクロスが生じている種牡馬を配合した血統構成になります。

Northern Dancerがこれだけインクロスしてしまうのは、それだけ世界の血統図を塗り替えてきたということでもあります。この先、日本の競馬においてはサンデーサイレンスの血が重ね合わせられてゆくでしょうし、クリスエスに代表されるロベルト系も勢いがありますから、そうなるとHail to Reasonの血があふれ出すことにもつながるはずです。

売り手も買い手も、その時代に勢いのある血を求めて殺到すると、血の偏りが生じ、多様性が失われてしまうのはサラブレッド生産の宿命なのかもしれません。その影には不受胎や奇形、流産という問題が隠れているのです。数十頭もしくは100頭を超える馬を毎年生産している牧場にとっては、そうした問題はあくまでも確率の問題として片づけることもできるかもしれませんが、僕にとっては大問題なのです。客観的に見ると、たまたま1頭は不受胎が続き、1頭からは奇形が生まれたのだと思えなくもありませんが、さすがに僕は神さまが鳴らしている警鐘に気づいてしまいました。僕は決めました。インクロスが生じる配合はやめて、できる限りアウトクロスの配合にしようと。それが生産者として僕にできる唯一の仕事なのだと思います。

問題はどこまでのアウトクロスにこだわるかです。5代目までアウトクロスでも、その先まで考えると実はインクロスになっていることもありますし、5代目までにインクロスがわずかにあっても、その先は意外とアウトクロスになっていることもあります。理想的なのは、5代目までは完全アウトクロス、かつその先もインクロスが薄い配合でしょうか。そこまで突き詰めていくと、配合できる種牡馬は限られてしまう気がします。潔癖症のようにアウトクロスにこだわりすぎるのも良くないと思いますので、できるだけインクロスの少ない、多様性のある配合を心掛けることにします。そうしなければ、そもそも繁殖牝馬が受胎すらしないのです(僕の場合)。

次に、スパツィアーレの5代血統表を見てみると、Hail to Reasonの4×5というインクロスがあります。そして、My Bupersの血も母系に2つ重ねられていますね。My Bupersは牝系クロスなので、意図的に配合しない限り、これ以上、濃くなることはないとして、Hail to Reasonには気をつけなければいけません。つまり、サンデーサイレンスやロベルトの血を引く種牡馬を配合すると、前者はそもそもサンデーサイレンスのインクロスが生じ、後者であってもHail to Reasonが濃くなるということです。

それよりも特徴的なのは、現代のサラブレッドにしては珍しく、ノーザンダンサーの血をほとんど内包していない点です。ハーツクライの母アイリッシュダンスに1本だけノーザンダンサーの血が入っているだけで、それ以外は非ノーザンダンサー系で構成されています。つまり、こちらはダートムーアと逆でノーザンダンサー系の種牡馬を配合しても多様性は損なわれないということです。

リアルスティールはノーザンダンサーの血が比較的濃いタイプの種牡馬でしたから、悪くはなかったと思いますが、サンデーサイレンスの3×4のインクロスがある以上、Hail to Reasonも濃くなってしまったのは事実です。恐る恐る、昨年の種付けを振り返ってみると、チュウワウィザードはサンデーサイレンスの4×4、カレンブラックヒルはサンデーサイレンスの3×4、同じくイスラボニータもサンデーサイレンスの3×4のインクロスが生じています。これでは受胎しなくて当然ですね。もちろん、インクロス以外にも不受胎の理由は考えられ、いくつかの要素が絡み合ってのものだと思いますが、それにしても自ら受胎の確率を下げる配合をしていたことを深く反省しました。

今年に入って最初に配合したリアルスティールも不受胎であったことで、もう一度、スパツィアーレの受胎しやすい配合を考え直す機会を与えてもらいました。これだと思って出した答案が間違っていて、もう一度考えてきなさいと先生から差し返されたような気持ちです。次こそは正解を得たいと思います。

(次回へ続く→)

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