[重賞回顧]自分らしくありのままに。絶妙なペース配分で美しく逃げ切ったアリスヴェリテが重賞初制覇~2024年・マーメイドS~

18年ぶりに京都で開催されたマーメイドSは荒れるハンデ重賞としても知られ、前走条件戦組の活躍が目立つレース。

一方で、エアグルーヴとアドマイヤグルーヴ(二冠馬ドゥラメンテの母)の母娘をはじめ、2023年の世界No.1ホースとなったイクイノックスの母シャトーブランシュなど、名馬の母を数多く送り出してきたという、違った側面も持っている。

今回も、二冠牝馬の産駒をはじめ、国内外のGⅠ馬の半妹など、名繁殖となりそうな良血馬が複数出走。ハンデ戦らしく断然の支持を集めた馬はいなかったものの、4頭が単勝10倍を切り、その中でエーデルブルーメが1番人気に推された。

初戦以外の14戦で掲示板を確保するなど、安定した走りを見せているエーデルブルーメは、オープン昇級までやや時間を要したものの、前走ダイワスカーレットCを勝利。上がり33秒9はメンバー中最速で、2着に1馬身半の差をつける完勝だった。

二代母ビワハイジは、GⅠ6勝のブエナビスタをはじめ、6頭もの重賞勝ち馬を送り出した名品。福永祐一調教師とともに、重賞初制覇が懸かっていた。

やや離れた2番人気となったのがミッキーゴージャス。母が二冠馬のミッキークイーンという良血馬ミッキーゴージャスは、敗れたのが、GⅠ2戦と休み明けの西海賞だけ。2走前の愛知杯で、既に重賞初制覇を成し遂げている。

今回はトップハンデの56.5kgを背負うものの、言うまでもなく実績は上位。重賞2勝目を懸けての出走だった。

わずかの差でこれに続いたのがコスタボニータ。デビュー4戦目から条件戦を3連勝したコスタボニータは、3勝クラスもわずか3戦で突破。その後、オープンに昇級してからは勝ちあぐねるも、前走の福島牝馬Sで待望の重賞制覇を成し遂げた。

その前走は、直線半ばまで前が詰まる不利があったものの、進路が開いてからは素晴らしい末脚を繰り出し快勝。完全に一皮むけた印象で、重賞2連勝なるか注目を集めていた。

以下、前走の2勝クラスをハイペースで逃げ切ったアリスヴェリテ。3走前の愛知杯で、ミッキーゴージャスの2着に好走したタガノパッション。条件戦を3連勝中のホールネスの順で人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、コスタボニータが出遅れ。両隣のセントカメリア、ゴールドエクリプスも後方からの競馬となった。

一方、逃げが予想されたベリーヴィーナスとアリスヴェリテはともに好発を決め、激しい先行争いになると思われたものの、1コーナー進入前にアリスヴェリテが単独先頭に立ち、あっさりと決着。続く2コーナーで、ベリーヴィーナスとの差を早くも4馬身に広げた。

3番手につけたのはミッキーゴージャスで、インザオベーション、ジューンオレンジが1馬身間隔で続き、ややポジションを上げたタガノパッションが4番手に進出。エリカヴィータを挟んで、エーデルブルーメはちょうど中団に位置し、出遅れを挽回できなかったコスタボニータは、後ろから2頭目に控えていた。

1000m通過は58秒3で、重賞としては平均的な流れ。この時点で、アリスヴェリテは後続との差をおよそ8馬身に広げ、最後方ファユエンまでの差は、優に20馬身を超えていた。

その後、3コーナーに入ってもアリスヴェリテはスピードを緩めず、坂の下りを利してむしろペースアップ。2番手以下では、エーデルブルーメが上昇を開始して4番手につけ、4コーナーでベリーヴィーナスと14頭の差が縮まる中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ってもアリスヴェリテの逃げ脚は衰えず、リードは7馬身。ベリーヴィーナスが先に苦しくなり、替わってエーデルブルーメが2番手に上がるも、残り200mを切ったところで、まだ6馬身ほどの差があった。

一方、そこから1馬身半離れた3番手は、内からピンハイ、ラヴェル、ホールネス、ファユエンが末脚を伸ばし、前2頭との差を懸命に詰めるも、これらの争いを尻目に逃げ切ったアリスヴェリテが1着でゴールイン。2馬身差2着にエーデルブルーメが続き、ホールネスが激戦の3着争いを制した。

良馬場の勝ちタイムは1分57秒2。ありのままに自身の形を貫いたアリスヴェリテが、格上挑戦をものともせず完勝。初めてコンビを組んだ永島まなみ騎手とともに、重賞初制覇を達成した。

各馬短評

1着 アリスヴェリテ

同型のベリーヴィーナスに対して圧倒的に不利な枠だったが、それでも自分の型を貫いてハナにこだわり完勝。あまりに見事で、清々しいまでの逃げ切りだった。

条件戦ではすべて4着以内と安定しており、4歳馬ながら今回が19戦目と非常にタフ。それでいて前走は馬体重を8kg増やし、さらにそこから2kg増えて自身の最高馬体重を更新。肉体面でも充実している。

今後はオープンでの戦いとなり、おそらくハンデ戦でも50キロで出走できることはなくなるため、成績の振れ幅が大きくなるかもしれないが、何度も大仕事をやってのけそう。単騎逃げが見込める際は、特に注意が必要となる。

2着 エーデルブルーメ

この馬もまた自分の形に徹し、100点に近い競馬をしたものの惜敗。勝ち馬と4kgの斤量差も大きかったが、下を向くような内容ではなかった。

少なくとも、牝馬限定重賞では十分やれるだけの実力を持っているが、クラブの規定もあり、おそらく引退までは1年弱。名牝系の出身で、勢いのあるハービンジャー産駒だけに、なんとかタイトルを獲得したい。

3着 ホールネス

アリスヴェリテと同じく、2勝クラスを勝ち上がったばかりの格上挑戦馬。ただ、そのレースが特別戦で2着に0秒3差をつけて完勝したからか(アリスヴェリテは前走タイム差なしの勝利)、勝ち馬より2キロ重い斤量を背負っていた。

それでも、中団からしぶとく末脚を伸ばし好走。わずかの差で賞金を加算できなかったものの、こちらは今回がまだ5戦目。すべて3着以内と底を見せておらず、ポテンシャルは間違いなく高い。

レース総評

ありのままに自身のスタイルを貫いたとはいえ、見ようによっては玉砕覚悟に映ったアリスヴェリテの大逃げ。しかし、その中身を見ると、前半1000m通過が58秒3で、同後半は58秒9=1分57秒2。初コンビの人馬が作り上げたとは思えないほど美しく、絶妙なペース配分だった。

自身のスタイルを貫いたからといって結果が伴うとは限らない。これは競馬の世界に限らず、勝負事全般にいえることだが、今回は成長著しいアリスヴェリテと永島騎手がそれぞれのポテンシャルを存分に発揮。1+1が3や4になり、内容と結果が伴った素晴らしい勝利だった。

アリスヴェリテは父がキズナで、産駒は2024年に入って重賞8勝目。終生のライバルといってもよいエピファネイア産駒と並び最多で、依然リーディング首位を快走している。

一方、母父はコジーンで「父キズナ×母父コジーン」の組み合わせは、JRAでデビューした6頭中5頭がアリスヴェリテのきょうだい。いずれもノースヒルズの生産で加藤誠オーナーが所有しており、全兄キメラヴェリテは2019年の北海道2歳優駿を勝利。半兄リアンヴェリテ(父ゴールドアリュール)も、ダートのオープンを3勝している。

2014年以降におこなわれた3歳以上、もしくは4歳以上の重賞で、前走2勝クラス出走馬が勝利したのは2例のみ。アリスヴェリテも前走2勝クラス出走の格上挑戦だったが、永島騎手応援の意味合いもあったか、単勝は4番人気とかなり見込まれていた。

ただ、今回の1000m通過58秒3は、同56秒8のハイペースでも逃げ切った前走に比べれば、はるかに楽。一方、斤量は前走から3キロ減だったが、そのぶん相手は大幅に強化された。それでも、同じコースでおこなわれた前走から時計を0秒6詰めており、中2週の間隔だったとはいえ、短期間でもう一段階成長したことを感じられる内容だった。

対して、上位人気に推されながら4着以下に敗れた馬の中で、まず触れたいのが3番人気10着のコスタボニータ。

こちらは、言うまでもなく出遅れがすべてだったが、内ラチ沿いから挽回を図ろうとしたところ、1コーナーに入る直前、ピンハイにその位置を取られてしまった。そこを取れていれば、中団のイン(3着ホールネスの内)につけることができていただけに、ここまで大きく負けていなかった可能性はある。

ただ、3着に惜敗した愛知杯でも最後は脚色が鈍っており、おそらくベストは1800m。次走が1800mか1600mであれば、巻き返しを期待したい。

また、トップハンデを背負ったとはいえ、よもやの13着に敗れてしまったのが2番人気ミッキーゴージャス。

こちらは五分のスタートから先行し3番手を確保。おそらく、前半1000mを59秒台半ばで通過しており、絶好位につけているかと思われた。

ところが、3~4コーナー中間から鞍上の手綱が激しく動くと、直線半ばを迎える前に失速。いいところなく馬群に沈んでしまった。

4コーナーの通過順を見ると、2~4番手で通過した5頭中、エーデルブルーメ以外の4頭は11着~14着に大敗。それでも実績馬だけに負けすぎの印象はあるが、川田将雅騎手が今回騎乗したエーデルブルーメや、同騎手がミッキーゴージャスに騎乗して勝利した愛知杯時のように、一気にペースアップするよりも中間点付近からロングスパートをかけ、徐々に加速していくかたちが良いのかもしれない。

また、8月におこなわれた2勝クラスの西海賞でも5着に敗れており、暑さが苦手な可能性もある。

写真:gpic

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