阪神競馬場改修工事の影響で、2年ぶり7度目の小倉開催となった中京記念。サマーマイルシリーズの第2戦に指定されているとはいえ、1800mでおこなわれる今回は、マイルや2000mを得意とする馬はもちろん、小回りの1800mという特殊な条件を狙いすました馬も参戦し、骨っぽいメンバーが顔を揃えた。
また、中京記念は荒れるハンデ重賞としても知られ、今回の斤量差は上下9キロ。例年どおり人気は割れて5頭が単勝10倍を切り、その中でエルトンバローズが1番人気に推された。
初勝利までに5戦を要すも、そこから一気の4連勝、重賞2連勝を成し遂げたエルトンバローズ。毎日王冠では、ソングラインやシュネルマイスターといった当時のトップマイラーを撃破している。以後、勝利から遠ざかっているものの、勝ち馬から0秒2差4着と惜敗したマイルCSなど、実績では抜けた存在。久々の重賞3勝目が懸かっていた。
票数の差で2番人気となったのがエピファニー。牝馬二冠のミッキークイーンをおばに持つ良血エピファニーは、3歳時に条件戦を4連勝。初勝利からわずか8ヶ月でオープンに昇級した。そこから4戦は壁に跳ね返されるも、ケフェウスSでオープン初勝利を成し遂げると、2走前の小倉大賞典で待望の重賞制覇。今回、小倉の重賞を勝利した実績があるのはエピファニーだけで、2度目のタイトル獲得が期待されていた。
3番人気となったのがニホンピロキーフ。前走の鳴尾記念こそ12着に敗れたものの、マイラーズCで3着に好走したニホンピロキーフは、過去3戦3勝と小倉競馬場は大の得意。とりわけ、3勝クラスの関門橋Sは2着に2馬身半差をつける完勝だった。9戦連続コンビを組むのは、この開催終了後にフランスへの武者修行を控えている田口貫太騎手。人馬ともにJRA重賞初制覇を飾り、弾みをつけたいところだった。
以下、3勝クラスとリステッドの都大路Sを連勝中のセオ。前走のエプソムCで5着と健闘したアルナシームの順で、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、僅かにカテドラルが立ち後れたものの、全馬ほぼ揃ったスタート。その中からテーオーシリウスとセルバーグが激しい先行争いを演じ、最内枠を活かしたテーオーシリウスが1コーナーで先手を取った。
1馬身差でセルバーグが続き、8馬身ほど離れた3番手に、この日がJRAのジョッキーとして最後の騎乗となる小牧太騎手鞍上のワールドリバイバルがつけ、セオ、ソレイユヴィータと3頭が一団。さらにそこから2馬身ほど離れた中団も、エルトンバローズ、アナゴサン、アルナシームと3頭が固まり、9番手にエピファニー。ニホンピロキーフは後ろから2頭目につけていた。
途中からハナを奪ったセルバーグは、1000mを57秒5のハイペースで通過。最後方のロングランまでは20馬身近い差で、かなり縦長の隊列となったものの、3コーナーでペースが落ちると、徐々に馬群は凝縮しはじめた。
さらに、600mの標識を通過する直前でテーオーシリウスが失速すると、替わってセオとワールドリバイバル、エルトンバローズ、ソレイユヴィータらが殺到。序盤とは一転して全14頭が6馬身ほどの圏内に固まる中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐエルトンバローズが単独先頭に立ったものの、それも束の間。一気に差を詰めてきたアルナシームがこれを外から交わし、内から迫るエピファニーも含め、上位争いは3頭に絞られた。
その後、ゴール前50mでエルトンバローズを僅かに交わしたエピファニーがアルナシームとの一騎打ちに持ち込もうとするも、この追撃を凌いだアルナシームが最後までしぶとく踏ん張り1着でゴールイン。クビ差及ばなかったエピファニーが惜しくも2着となり、1/2馬身差3着にエルトンバローズが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分47秒2。おじにクラシックホースが2頭いる良血馬アルナシームが9度目の挑戦で重賞初制覇。鞍上の横山典弘騎手は今季4度目の重賞制覇で、自身の持つJRA最年長重賞勝利記録をまたしても更新した。
各馬短評
1着 アルナシーム
五分以上のスタートから中団に位置。ペースが速くなったとはいえ、いつも以上に鞍上の横山典弘騎手が馬のリズムを重視し、気を遣い、その結果ピッタリと折り合った。
管理する橋口慎介調教師によると、東京でおこなわれた前走のエプソムCは手前の替え方がぎこちなかったそうで、中京→小倉の開催変更を最大限に活かした勝利。今後のローテーションは未定だが、天皇賞であれば左回りを克服する必要があり、そう考えるとマイルCSに最大目標を置くのか。それとも、選出されれば父が現役時代に得意とした香港へ渡るのか。晩成型が少なくないモーリス産駒だけに、今後も活躍が期待される。
2着 エピファニー
勝ち馬と同じくコンビ継続3戦目。やはり馬のリズムを重視した乗り方で道中は中団やや後ろに位置し、仕掛けのタイミングやコーナリングも完璧だったが、枠順や位置取りの差で僅かに及ばなかった。
とはいえ、後ろ向きになるような内容ではなく、改めて小回り1800mでは安定して走れることを証明。勝ち馬と共通点は多いが、マイルか2000mかでいえば、こちらは2000mのほうが良いのではないだろうか。
また、自身以外にもブレイディヴェーグやミッキーゴージャスが重賞を立て続けに勝利するなど、勢いある一族の出身。杉原誠人騎手とともに、さらなる飛躍を期待したい。
3着 エルトンバローズ
GⅡ勝ちの実績があるため、一見すると物足りない結果に映るが、直線で突き抜けられなかったのは人気を背負う立場で早目に動いた分。枠順の差や59キロのハンデも影響しており、それでいて2頭に交わされたあとも懸命に食らいつくなど、十分な内容だった。
こちらは毎日王冠で左回りや大箱のコースを経験、克服しているが、国内に芝1800mのGⅠがないのは如何ともし難い。2023年と同じく、秋は毎日王冠からマイルCSを目指すのがベストだろうか。
レース総評
1000m通過は57秒5と速いペースで流れたものの、3番手以下の各馬も、この地点で前2頭とさほど差のないところに位置しており、離れた後方を追走していた4頭以外には厳しい流れ。後半4ハロンはすべて12秒台半ばのラップで、最後は底力勝負、我慢比べとなった。
そんな底力勝負で強さを発揮するのがロベルト系種牡馬の産駒。1、2着馬はノーザンファーム生産の5歳馬という共通点以外にも、父がロベルト系種牡馬で母父がディープインパクト。なおかつ、母のきょうだいにクラシックホース(アルナシームのおじは皐月賞馬アルアインとダービー馬シャフリヤール)がいる点も共通していた。
また3着エルトンバローズは、母のきょうだいにクラシックホースこそいないものの、父がディープインパクト系種牡馬のディープブリランテ。母父がロベルト系種牡馬のブライアンズタイムと、血統面では1、2着馬と似た部分があった。
ヴィクトリアマイルを制したテンハッピーローズのように、自身の型にハマればとことん強いロベルト系種牡馬の産駒。反面、前向きな気性の持ち主も少なくなく、安定性に欠ける部分も特徴といえるだろう。
アルナシームもまた、2着に2馬身差をつけ完勝した新馬戦や、上位3頭が後にGⅠ馬となった2021年の朝日杯フューチュリティSで4着に好走するなど、デビュー当初から素晴らしいパフォーマンスを発揮した一方で、2戦目の東スポ杯2歳Sでは武豊騎手でさえも制御不能に陥り6着敗戦。脆さをみせていた。
そんなアルナシームと向き合ったのが、2走前からコンビを組み始めた横山典弘騎手。調教時から馬に寄り添い、前向きさを否定せず、繊細さにも気を遣い、陣営とも積極的に意見を出し合う。それがコンビ継続3戦目でついに結実。期待の素質馬に待望の重賞タイトルをもたらした。
思えば、古馬になって徐々に気難しいところを出し始めたゴールドシップに寄り添い、2度目の宝塚記念勝利や、念願の天皇賞(春)制覇を実現したのも横山典弘騎手。2023年と2024年、横山典騎手が勝利した5つの重賞は、すべてロベルト系種牡馬の産駒によるものだが、決してこれは偶然ではないだろう。
真摯に馬と向き合い、寄り添い、最善の結果を導くため陣営とも徹底的に議論を交わす――。今回の勝利に、最年長ダービージョッキーの矜持をみた。
写真:gpic