史上二頭目の三冠馬シンザンの名を冠したシンザン記念は、2010年以降、3頭の三冠馬を輩出。出世レースとしての地位を確立した。
とりわけ、今も語り草となっているのが2011年のレース。勝ったレッドデイヴィスを筆頭に、7着馬までが後に重賞を勝利し、その中には、当年の三冠馬オルフェーヴル(同レースで2着)や、桜花賞馬マルセリーナ(同3着)も含まれるなど、非常にメンバーレベルが高い一戦だった。また、翌年の覇者ジェンティルドンナ、2018年の覇者アーモンドアイと、歴史的名牝2頭が初めて重賞を制したのもこのレースで、三冠達成の足掛かりを作っている。
ただ、2年ぶりの中京開催となった今回は、確たる主役がいない混戦。人気は割れて5頭が単勝オッズ10倍を切る中、メンバー唯一の重賞勝ち馬、アルテヴェローチェが1番人気に推された。
デビュー2連勝でサウジアラビアロイヤルCを制したアルテヴェローチェは、前走GⅠの朝日杯フューチュリティSで1番人気に支持された。ところが、レースは非常に遅い流れとなり、後方に位置していたアルテヴェローチェは直線よく追い込むも5着。初黒星を喫してしまった。
川田将雅騎手との初コンビで巻き返しを期す今回は、実績面で負けられない一戦。2つ目のタイトル獲得をかけての出走だった。
これに続いたのがマイネルチケット。新馬戦で、素質馬マスカレードボールと接戦を演じたマイネルチケットが強さを発揮したのは、続くデビュー2戦目。直線半ばまで周りを囲まれ、進路をなくしていたにもかかわらず、残り100mで3馬身以上あった前2頭との差を一気に詰め、差し切った内容は圧巻だった。
その後、重賞で3、2着と好走して臨む今回は、前述の未勝利戦と同じ舞台。3戦連続コンビを組む戸崎圭太騎手とともに、重賞初制覇を目指していた。
僅かの差で3番人気となったのがリラエンブレム。2022年のノーザンファームミックスセールにおいて税込7,920万円で落札されたリラエンブレムは、10月京都の新馬戦を好タイムで快勝。初陣を飾った。
それ以来、2ヶ月半ぶりの実戦となる今回は、抽選をくぐり抜けての出走。リーディングサイアー、キズナの産駒から世代4頭目の重賞ウイナーが誕生するか、注目を集めていた。
以下、サウジアラビアロイヤルCで2着に惜敗したタイセイカレント。東スポ杯2歳S6着から臨むジーティーマンの順で、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、カラヴァジェスティ、レーヴブリリアントが出遅れ。ダッシュがつかなかったウォーターガーベラとオンザムーブも、後方からの競馬を余儀なくされた。
一方、前は好スタートを切ったアーリントンロウがいく構えをみせるも、ラージギャラリーがこれを交わし、タイセイカレントとともに3頭横一線の状態。その後ろも、リラエンブレムをはじめとして4頭が横一線となり、アルテヴェローチェとマイネルチケットはちょうど中団に位置していた。
600m通過は35秒1と平均的な流れで、前から後ろまではおよそ10馬身。出走16頭にしてはコンパクトな隊列となったものの、ここでレーヴブリリアントが一気に上昇を開始し、中間点付近で先頭に立った。
さらに、続く4コーナーでアルテヴェローチェが早くもスパートを開始。先団に取り付こうとする中、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、内からラージギャラリーが先頭に立つも、馬場の中央を伸びたアルテヴェローチェが、坂の途中で先頭に躍り出た。
ところが、それも束の間。その内に進路を取ったリラエンブレムが坂上で先頭に立つと、そこから後続との差を徐々に広げ、最後は2馬身1/2差をつけ1着でゴールイン。アルテヴェローチェが2着で、後方から追い込んだウォーターガーベラがマイネルチケットとの接戦を制し3着に食い込んだ。
良馬場の勝ち時計は1分34秒6。デビューから2連勝としたリラエンブレムが重賞初制覇。キズナ産駒から、また一頭、重賞ウイナーが誕生した。
各馬短評
1着 リラエンブレム
序盤はややいきたがる素振りをみせたものの、アルテヴェローチェが上がっていった進路をなぞるように、一呼吸おいてからスパート。その後、直線半ばで同馬を内から交わしさって最終的に2馬身1/2差をつけ、メンバー中、最速の上がりをマークしての完勝だった。
距離が延びて折り合いがやや懸念されるものの、例えば、皐月賞は例年よどみない流れになるレース。ホープフルSを勝ったクロワデュノールは文句なしに強いが、やや差し有利の展開になったとはいえリラエンブレムの勝ちっぷりも良く、第2グループか、その次くらいまで一気に番付をあげたといってもいい内容だった。
2着 アルテヴェローチェ
巻き返しを期す一戦で1番人気に推されていたこともあり、早目スパートから勝ちにいく競馬。それが響いたか、早い段階で勝ち馬に捕らえられた点は、一見するとやや物足りない内容にも映る。
しかし、前2走は後方待機から直線追い込む戦法。この先メンバーレベルが上がっていく中で、そういった戦法はなかなか決まりにくい。逆に、今回のようなレースが板につけば大舞台でも結果を残せるはずで、しかも晩成タイプが多いモーリス産駒。将来性は十分にある。
3着 ウォーターガーベラ
前2走と同じくダッシュがつかず後方からの競馬となるも、内ラチ沿いでジッと我慢。直線では、外へ内へと巧みに進路を切り替えながら、最後の最後でマイネルチケットを交わし3着を確保した。
前年の当レースで17番人気ながら3着に激走し、今回と同じ舞台でおこなわれた京都金杯でも2着に好走したウォーターリヒトは半兄。そんな兄と同じく人気薄で3着と激走したところに血統の不思議を感じるが、モーリス産駒と同様、レイデオロ産駒もまた晩成タイプが多い。同産駒の牝馬はかなり苦戦しているものの、今回、牡牝混合の重賞で好走したこともあり、この傾向を覆す急先鋒となるか。今後が注目される。
レース総評
前半800m通過が46秒8で、同後半は47秒8=1分34秒6。やや上がりを要すレースとなり、中京でおこなわれた2021年から23年のシンザン記念と比較すると勝ち時計は最も遅く、タイム面では強調できない。
ただ、前述の3年間は開催3日目におこなわれたのに対し、今回は開催5日目。しかも、今開催は2日目(1月6日)の午後に降った雨によって馬場が急速に悪化し、それから1週間が経過したこの日も、良馬場発表とはいえ、3~4コーナーの内ラチ沿いは傷みが顕著に出ていた。それでもラスト3ハロンは加速ラップで、リラエンブレムに関してはゴール板通過時も末脚が衰えそうな雰囲気はなく、十分に評価できる内容だった。
そのリラエンブレムは、2024年のリーディングサイアーおよび2歳リーディングサイアーに輝いたキズナの産駒。この世代4頭目のJRA重賞勝ち馬で、母父父がサドラーズウェルズ、母系にデインヒルを持つ点は、2024年のラジオNIKKEI杯2歳Sを制したエリキングと共通している。
他、母系にダンチヒ(デインヒルの父)を持つキズナ産駒としては、2024年の皐月賞馬ジャスティンミラノ、GⅡ2勝シックスペンス、ダート重賞2勝サンライズジパング、桜花賞とオークスで3着に健闘したライトバックなどがおり(4頭とも現4歳世代)、キズナの成功パターンと断言してほぼ間違いない組み合わせである。
また、リラエンブレムは2022年のノーザンファームミックスセールの出身。2019年に繁殖牝馬のセリとして新設された同セールに、当歳馬も上場されるようになったのはこの年から。リラエンブレムは同セールの一期生で、この期は他に、2024年の函館2歳Sを勝利したサトノカルナバルや、馬名だけでなく血統や2戦目の勝ちっぷりが話題となっているショウヘイなど、逸材が複数頭取引されており、上場された38頭中10頭がJRAで勝ち上がった(2025年1月13日終了時点)。規模こそセレクトセールほど大きくはないものの、上場馬の質は非常に高く、頭数も年々増加しているため、これまで以上に注目されるセリとなるだろう。
写真:LeCourage