![[重賞回顧]マジックマンと夢を掴んだサトノレーヴが、秋の雪辱を果たすGⅠ初制覇!~2025年・高松宮記念~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/03/IMG_9924.jpeg)
GⅠシリーズの本格的な幕開けを告げる高松宮記念。この路線、すなわち1200m戦のレベルがオセアニアと並んで世界屈指といわれるのが香港で、高松宮記念と同日におこなわれた当地のGⅡスプリントCは、地元馬カーインライジングが楽勝した。同馬はこれで11連勝を達成。絶対王者の地位を確固たるものにしつつある中、対照的に、日本の短距離界は長らく王者不在の時代が続いている。
また、2025年の日本競馬は、複数のGⅠの前哨戦について実施時期が見直され、本番との間隔を広げるために、例年より1、2週間前倒しでおこなわれることになった。それでも、年末の2歳GⅠを制した3頭のうち2頭は、早々にクラシック直行を明言。そして、高松宮記念で人気を集めた5頭も、すべて今回がシーズン初戦の馬だった。
ただ、王者不在の状況を表わすように、これら5頭がいずれも単勝オッズ10倍を切る混戦模様。その中で、1番人気に推されたのは牝馬ナムラクレアだった。
重賞5勝の実績がありながら、高松宮記念で2年連続2着に惜敗しているナムラクレア。それ以外にもGⅠで3着3回の実績があり、ビッグタイトルにあと少しのところまで迫っている。
これまで、GⅠに出走する際は必ず前哨戦にも出走していたものの、今回は勝利した阪神C以来3ヶ月ぶりの実戦。そのレースに続いてクリストフ・ルメール騎手とコンビを組み、悲願のGⅠ制覇が懸かっていた。
僅かの差でこれに続いたのがサトノレーヴ。
2024年のスプリンターズSに出走するまで、1200mでは7戦6勝2着1回とほぼ完璧な成績を残していたサトノレーヴは、1番人気に支持された同レースでよもやの7着に敗れてしまった。それでも、年末の香港スプリントではカーインライジングに0秒1差3着と好走。実力の高さを改めて証明した。
こちらは、前走に続いて「マジックマン」ことジョアン・モレイラ騎手とコンビを組み必勝態勢。ナムラクレアと同じく、GⅠ初制覇が懸かっていた。
そして、3番人気となったのがルガルだった。
2024年のシルクロードSで重賞初制覇を飾ったルガルは、続く高松宮記念で10着と大敗。レース後には骨折も判明し、休養を余儀なくされてしまった。
それでも、半年ぶりの実戦となったスプリンターズSで巻き返しGⅠ初制覇。香港スプリントは11着に終わるも、JRA賞の最優秀スプリンターを受賞するなど飛躍の一年となった。
3ヶ月半ぶりの実戦となる今回は、秋春スプリントGⅠ制覇と前年の雪辱を果たす一戦。大きな注目を集めていた。
以下、GⅠ昇格以降2頭目の連覇が懸かるマッドクール。スプリンターズSでルガルの2着に好走したトウシンマカオの順に、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートからウイングレイテストがいこうとするところ、ビッグシーザー、ルガル、ペアポルックスがこれに競り掛け、最終的にビッグシーザーが先手を奪った。これらの直後にモズメイメイとエイシンフェンサーがつけて6頭が先団を形成し、マッドクール、サトノレーヴ、ママコチャらが中団に位置して、トウシンマカオが11番手。さらにそこから1馬身差、後ろから6頭目にナムラクレアは控えていた。
600m通過は33秒8とミドルペースで、先頭から最後方のスズハロームまでは、およそ14馬身。ただ、後ろ4頭以外の14頭は10馬身以内に固まり、4コーナーでも隊列にほぼ変化は見られないまま、レースは直線勝負を迎えた。
直線に入ると、ルガルがビッグシーザーに並びかけ、坂上まで2頭の競り合いが続いた。その後、エイシンフェンサーとママコチャがこの争いに加わり、4頭横一線の中からママコチャが先頭に躍り出たものの、それも束の間。馬場の中央から末脚を伸ばしたサトノレーヴが、残り100mでこれらをまとめて交わすと、直後に迫ってきたナムラクレアの追撃も封じ1着でゴールイン。惜しくも3/4馬身届かなかったナムラクレアが3年連続2着で、そこから1馬身1/4離れた3着にママコチャが入った。
良馬場の勝ち時計は1分7秒9。香港スプリントに出走した日本馬の中では最先着だったサトノレーヴが、スプリンターズSの雪辱を果たすGⅠ初制覇。鞍上のモレイラ騎手は3度目のJRA・GⅠ勝利で、管理する堀宣行調教師は、キンシャサノキセキで連覇を達成した2011年以来3度目の高松宮記念制覇となった。

各馬短評
1着 サトノレーヴ
中団やや前を追走して迎えた直線坂下で進路を失いかけたようにもみえたが、さすがモレイラ騎手。これは、強い向かい風を避けるための作戦で、その後、外に持ち出されてからは素晴らしい末脚を披露し、ナムラクレアの追撃も封じた。
今回より20kg以上重く、スタートで僅かに出遅れたスプリンターズSを除けば崩れておらず、初の左回りも難なくクリア。国内の春秋スプリントGⅠを連勝したのは2018年のファインニードルが最後だが、サトノレーヴは今回が12戦目と消耗も少なく、短距離界の天下統一を成し遂げる可能性は十分にある。

2着 ナムラクレア
サトノレーヴをマークする形で直線に向くも、前にサトノレーヴ、横にドロップオブライトがいたため進路がなく、ワンテンポ仕掛けが遅れてしまった。
ただ、これも、しいてあげるとするならの敗因で、人馬とも限りなく100点に近い内容。とにかく、ビッグタイトルを獲らしてあげたい馬であることに変わりはないが、高速馬場になるようなら、再度のヴィクトリアマイル参戦もおもしろいかもしれない。

3着 ママコチャ
2023年のスプリンターズS制覇以降、大舞台ではやや実力を発揮できずにいた。それでも、前走のオーシャンSで復活のきっかけを掴んだか、天候に恵まれたのが良かったのか、GⅠで再び好走。先に抜け出して3着に好走した点は十分に評価できる。
ただ、6歳という年齢や、ライバルたちの充実ぶりを考えれば、現状GⅠを勝ち切るまでは少し厳しいかもしれない。逆に、GⅡ以下であれば、まだまだ活躍してくれるのではないだろうか。

レース総評
前日に重馬場でスタートした最終週の中京芝は、この週のみBコースを使用。ただ、内柵沿い、特に3、4コーナーの内柵沿いにカバーしきれない傷みがあった。
それでも、馬場状態は稍重まで回復し、レース当日の朝は良馬場に。さらにそこから回復したものの、気温が低かったせいか、いわゆるパンパンの良馬場、高速馬場にはならなかった。
そんな中おこなわれた高松宮記念は、前半600m通過が33秒8、同後半34秒1=1分7秒9と、前後半はほぼイーブンだった。ただ、2ハロン目が10秒2と速く、後方の4頭以外は差なくほぼ一団。さらに、直線は強い向かい風が吹くなど先行馬にはやや不利な展開で、中団から差してきた二桁馬番の6歳馬4頭が上位を占めた。
逆に、これらを踏まえれば、5番手追走から直線半ばで先頭に並びかけ、5着と見せ場を作ったエイシンフェンサーは評価できる内容。今回を含む直近3走は、11、9、8番人気と評価は低いものの、1、1、5着と充実している。
しかも、父ファインニードルが本格化して春秋スプリントGⅠ制覇を成し遂げたのも、同じく5歳シーズン。次走以降GⅡ以下のレースに出走し、なお過小評価されるようなら狙ってみたい。
一方、勝ったサトノレーヴは、父がロードカナロアで産駒3頭目の高松宮記念勝利。ただ、不思議なことに、スプリンターズSを制した産駒は今のところいない。
対して母の父は、ロードカナロアと同じくスプリンターズSを連覇したサクラバクシンオーで、父ロードカナロア×母父サクラバクシンオーという日本の短距離史上最強の呼び声高い両馬の組み合わせからは、サトノレーヴ以外にも、ファストフォースやキルロード、テイエムトッキュウ、サイクロトロン、キープカルムなどオープン馬が続出。とりわけ、高松宮記念ではファストフォースが12番人気1着、キルロードが17番人気3着、そしてサトノレーヴが優勝と、抜群の相性を誇っている。
また、母系に注目すると、サトノレーヴの10歳上の半兄にはハクサンムーンがいる(父はアドマイヤムーン)。当時、現役屈指のスピードを武器に活躍したハクサンムーンは、重賞を3勝しながら、GⅠは2着2回3着1回と、あと僅かのところで勝利できなかった。それでも、2013年のセントウルSでは、重賞5連勝中(GⅠ4連勝)だったロードカナロアの進撃をストップしてみせた。そのハクサンムーンが叶えられなかった夢を、ロードカナロア産駒の半弟サトノレーヴが叶えた点にも、なにか運命めいたものを感じずにはいられない。
そして、さらに母系を遡ると5代母に名牝ゲランの名前があり、この一族からは1988年のオークス馬コスモドリームや、同年の阪神3歳S(現・阪神ジュベナイルフィリーズ。当時は牡牝混合戦)を制したラッキーゲラン。90年の阪神大賞典と日経賞を連勝したオースミシャダイが誕生するなど、オールドファンが泣いて喜ぶ血統。近年では、香港のGⅠを2勝し、現在は種牡馬として活躍しているウインブライトもこの一族の出身である。
写真:@QZygbdf8L1kEB9U