![[重賞回顧]緑に赤の”王者の印”とともに~2025年・ジャパンカップ~](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2025/12/IMG_5063.jpeg)
2025年11月30日。
東京競馬場第12レース、秋の東京開催の締めくくりとなるG1、ジャパンカップが幕を開ける。
日本、そして世界のトップホースが東京芝2400メートルでナンバーワンの座を懸けてぶつかり合う、千秋楽にふさわしい大一番だ。
今年の日本ダービー馬クロワデュノール、昨年の覇者ダノンデサイル、一昨年の王者タスティエーラ、3頭のダービー馬が参戦、それぞれが誇りを懸けてこの舞台に挑む。
前走天皇賞(秋)を3歳で制したマスカレードボール、エリザベス女王杯以来のG1タイトルを狙うブレイディヴェーグ、そしてこの秋の古馬三冠レースをもって引退が決まっているジャスティンパレスも東京2400mのこの舞台に再び挑む。
前年のジャパンカップで2着同着だったシンエンペラーは、今年こそ1着の座に君臨出来るだろうか。
もう1頭の同着馬、菊花賞馬のドゥレッツァも参戦予定だったが、蹄球部の内側に炎症を発症したため当日朝に無念の出走取消が発表された。
海外からは今年の欧州年度代表馬、カランダガンが来日。
日本での騎乗経験もあるバルザローナ騎手とのコンビで挑む。
来日前にG1を三連勝しており、騙馬ゆえに凱旋門賞へ出走できない事情から、この秋の大舞台に日本を選んでくれた存在だ。
春のドバイシーマクラシックではダノンデサイルの2着だったが、秋の東京芝2400メートルで再び相まみえることになる。
今年の出走馬は、17頭全馬が重賞ウィナーという豪華絢爛な顔触れ。
7万人を超えるファンが見守る中、ファンファーレが鳴り響くと、レース直前の熱気は一転して静寂へ。
1頭1頭ゲートに収まっていく馬たちを、ファンは息を呑んで見つめていた。
この先に待つ結末が、あまりにも劇的で、永く語り継がれるであろうことを、この時はまだ誰も知らない。
レース概況
レースはスタート直後から波乱の幕開けとなった。
発馬の際にアドマイヤテラがつまずいたことで川田将雅騎手が落馬、アドマイヤテラはカラ馬のまま他の16頭と共に前へ飛び出していった。
逃げ候補として注目されていたホウオウビスケッツとサンライズアース、どちらがハナを取るか注目されたが、答えはそのどちらでもなく、かつて津村騎手と逃げた経験のあるセイウンハーデスが先頭に立った。
掛かり気味の出足だったが、津村騎手は無理に抑えず、馬の気持ちに任せて行かせた形となった。
セイウンハーデスの直後には先行勢が固まり、内枠の利を最大限に生かしたクロワデュノールがすぐに最内を確保し、ホウオウビスケッツもセイウンハーデスを見る位置で追走。
外枠からタスティエーラとシンエンペラーも前目を狙う。
さらに内には2枠のコスモキュランダとディープモンスター、7枠のダノンデサイルとマスカレードボールが中段外目に構え、カランダガンはその真後ろ。
完全に二強を“直後でマーク”する形だ。
セイウンハーデスの1000メートル通過は57秒6、2番手のホウオウビスケッツも58秒台後半から59秒のラインで通過し、ペースは明らかに流れたまま後半戦へ。
カランダガンの後ろ、後方にはダノンベルーガが内を取り、外にはジャスティンパレス、さらにその後ろでヨーホーレイク、シュトルーヴェ、ブレイディヴェーグが末脚勝負のタイミングを待つ隊列となった。
3コーナー手前、クロワデュノールが早めに前を捕まえ埒沿いから先行馬の外目に動き、これを追ってシンエンペラーは外へ、タスティエーラは内を狙って進出。
4コーナーではカラ馬のアドマイヤテラが逃げるセイウンハーデスの外を走っていたため、各馬は直線で“どの進路を選ぶか”の決断を迫られる場面となった。
残り400メートルでセイウンハーデスの脚が上がり、真っ先に先頭へ出たのはクロワデュノール。
北村友一騎手の右鞭に応えながら懸命に伸びるが、すぐ背後からダノンデサイル、そして外からはマスカレードボールとカランダガンが並んで迫る。
残り200メートル、クロワデュノールへ3頭が一気に襲いかかり、カランダガンとマスカレードボールが完全に抜け出して馬体を併せる。
そして最後に、わずかアタマ差で前へ出たのはフランスから来た欧州年度代表馬カランダガン。
バルザローナ騎手の懸命のアクションに応え、これがアルカセット以来20年ぶりとなる海外馬のジャパンカ
マスカレードボールは惜しくもアタマ差で2着。
その背で追いすがったルメール騎手の姿は、ハーツクライでアルカセットに挑んだ2005年の記憶を呼び起こしたファンもいるだろう。
決着タイムは2分20秒3、アーモンドアイのレコードを0秒3更新する驚異のレコードである。
世界最強の末脚を府中のターフで見せた激走に、バルザローナ騎手とルメール騎手はハイタッチで健闘を称え合った。
2頭が西日の向こうに突き抜ける中、3着は最後にクロワデュノールを交わしたダノンデサイル。
クロワデュノールは4着に粘り、5着争いは後方から追い込んだジャスティンパレスとブレイディヴェーグの接戦、半馬身差でジャスティンパレスに軍配が上がった。
そして、2頭の接戦という結果ではあるが、直線最後までカラ馬のアドマイヤテラも2頭に食らいついて完走、最後は外回りコースへと駆けて行った。
その後、内回りコース入り口でマスカレードボールのルメール騎手、ダノンデサイルの戸崎圭太騎手が落馬。アドマイヤテラを避ける際の進路取りによる接触だったが、関係者からはマスカレードボール、ダノンデサイルともに無事と報告された。
アドマイヤテラと落馬した川田騎手も異常なしとされ、展開もタイムもアクシデントも、すべてが濃縮された2分20秒の歴史的一戦となった。

各馬短評
1着 カランダガン バルザローナ騎手
欧州年度代表馬の看板に偽りなし。
流れるペースを苦にせず、マスカレードボール、ダノンデサイルを背後から完全にマークし、直線で馬体を併せた瞬間にもう一段ギアを上げる勝負根性は圧巻だった。
海外馬が日本の高速馬場に対応できるのか懸念される中、自身の走破時計でそれをねじ伏せてみせた点は特筆すべきだ。
ドバイでは敗れたダノンデサイルに日本の舞台でリベンジし、さらに3歳馬マスカレードボールとの2キロの斤量差も難なく克服した。

遠征馬としてのアウェーをものともしない精神力と、長い直線で加速し続ける性能は、歴代のジャパンカップ勝ち馬の中でも屈指のレベル。
まさに欧州王者の矜持が光る優勝だった。
レース後のインタビューで、バルザローナ騎手が「また来年戻って来られればと思います」と語ったのも印象的。
5歳を迎える来年、再び日本のファンを魅了する走りを見られるか、今から楽しみでならない。

2着 マスカレードボール ルメール騎手
3歳秋は菊花賞に向かわず天皇賞(秋)へ挑戦してG1タイトルを獲得。
続くジャパンカップでもダービー2着馬としての実力を遺憾なく発揮したが、勝ったカランダガンが強かったという他ない内容だった。
ルメール騎手は「3、4コーナーで少し内にモタれ、反応がわずかに遅れた」と振り返っているものの、現地の写真やレース動画には、外から迫るカランダガンをマスカレードボール自身が確認し、勝負に向かう瞬間を捉えた姿も写っていた。
3歳にして秋の古馬路線で優勝と2着の連続好走、しかも天皇賞(秋)では皐月賞馬ミュージアムマイルに、そしてこのジャパンカップではダービー馬クロワデュノールに先着したことも、世代屈指の能力を示には十分すぎる戦果だ。
勝負服と鞍上が、20年前にアルカセットへ挑んだハーツクライと重なるだけに、ファンも往年の名勝負を思い出したのではないだろうか。
アタマ差の惜敗ではあったが、古馬相手に堂々と渡り合った価値は非常に大きい。
本馬の半姉マスクトディーヴァも鋭い末脚を武器にしながら、脚部不安でエリザベス女王杯への挑戦が叶わずターフを去った。
その歴史を知るからこそ、3歳シーズンでG1競走4戦を駆け抜けたマスカレードボールには、この先しっかりと脚をケアしながら、無事に古馬シーズンへ向かってほしい。
末脚に宿る才能は確かで、未来は明るい。
3着 ダノンデサイル 戸崎圭太騎手
前走はイギリスのヨーク競馬場で英インターナショナルステークスに挑んだが、結果は5着。
帰国初戦となったこのジャパンカップでも決してスムーズに運べる状況ではなかった。
1コーナーではタスティエーラに寄られ、向こう正面では外にマスカレードボールがぴたりと張り付き、3コーナーではそのマスカレードボールが先に動いた影響で再び前が狭くなる場面がジョッキーカメラに収められている。
それでも直線でクロワデュノールを交わし、最後まで脚を落とさず伸び続けた姿は、昨年のダービー馬としての意地そのものだった。
カランダガンとマスカレードボールの抜け出しには及ばなかったが、幾度となく不利を受け、道中で掛かるシーンもありながら、諦めずに食い下がった精神力は特筆すべきだ。
日本ダービー、ドバイシーマクラシックに続き、2400メートル戦ではやはり安定して力を出せることを改めて証明したと言える。
世界を駆けた“ベリーベリーホース”が、苦しい状況でも戸崎圭太騎手と共に勝負を諦めなかったからこその3着。
折り合い面が今後の課題にはなりそうだが、今回はスムーズさを欠いた中でのもの。
むしろ最後まで諦めなかった勝負への前向きを評価したい内容だった。
4着 クロワデュノール 北村友一騎手
凱旋門賞への挑戦が叶わなかったカランダガンとは対照的に、こちらはフランスに遠征し前哨戦を勝って凱旋門賞へ挑み、そこからの帰国初戦となる一戦だった。
最終追い切りまで出走そのものを迷い、陣営が「有馬記念へスライドする選択肢」まで含めて慎重に見極めたうえでの出走。
その背景を踏まえると、この舞台に立っただけでも立派と言える。
本調子ではない中でもパドックではきれいな馬体を披露し、レースでは北村友一騎手がスタートから完璧な立ち回り。
1枠を利して前へつけ、積極的に勝ちに行く競馬を選んだのは、これまでのクロワデュノールとの経験から能力を信じてこその判断だった。
直線では強豪3頭にかわされたものの、先行勢が崩れた中で唯一掲示板に残った点は高評価。
1コーナーの位置取り、向こう正面でのプレッシャー、そして最後の直線で鞭に対してよれる苦しいシーンがありながらも、最後まで踏ん張り抜いた走りは、今年のダービー馬としての地力を十分に示した。
本調子ではない状態での4着は、人馬が諦めず積み上げた努力の結晶とも言える。
来季こそ完全な状態で、同世代のマスカレードボール、そして皐月賞で敗れ秋の再戦が叶わなかったミュージアムマイルへのリベンジに挑んでほしい。
レース総評
芝2400メートルの世界レコードが塗り替えられた2025年のジャパンカップは、単なる秋のG1競走ではなかった。
極限の速さと精密な駆け引きが重なり合い、世界を駆ける強者たちが誇りを懸けてぶつかった“国際競馬の頂上決戦”そのものだった。
そんな舞台で栄冠をつかんだのは、遠いフランスからやってきた欧州王者カランダガンだった。
緑地に赤の肩章という伝統の勝負服をまとい、今年二月に亡くなったアガ・カーン四世殿下の忘れ形見として戦い続けてきた。
騙馬ゆえに凱旋門賞には出走できない運命を背負いながらも、世界の大舞台で己の力を証明し続け、今回でG1競走4連勝という偉業に到達した。

日本の高速で美しくも厳しい芝2400メートルを駆け抜け、世界最速の時計で抜け出したその姿は、亡き殿下に捧ぐ勝利のようでもあった。
その勝負服の色が西日に照らされ、まばゆく浮かび上がった瞬間、観客席に広がったどよめきと祝福は、確かにこの馬の物語と共鳴していた。
7万人を超えるファンが見守る中、バルザローナ騎手とともに凱歌を受けたカランダガン。
その傍らで静かに誓うように揺れる赤い肩章は、殿下からサラ王女へ受け継がれた馬たち、そして“世界と戦い続ける宿命”そのものだった。
事実は、ときに小説よりもはるかにドラマティックである。
今年のジャパンカップが証明したのは、まさにその一言に尽きる。

写真:s1nihs
