[インタビュー]コディーノやグランアレグリアを調教。新人から名門に所属した杉原騎手が語る、藤沢厩舎での日々。

2011年のデビューと同時に、日本競馬界でも随一の名門・藤沢厩舎に所属した杉原騎手。
藤沢調教師といえば、古くは90年代にはタイキシャトルやバブルガムフェロー、00年代にはシンボリクリスエスやゼンノロブロイらを管理。10年代にもレイデオロやグランアレグリアなど、数えきれない名馬を送り出してきたレジェンドだ。
そんな名門に新人の頃から所属し、2022年・藤沢厩舎の解散と共にフリーとなった杉原騎手に、藤沢厩舎での日々を伺ってきた。

「最初は『すごい厩舎にいくんだなあ』と漠然と思っていたんですが……」

「競馬学校で所属先を言い渡されて、最初は『すごい厩舎にいくんだなあ』と漠然と思っていたんですが、いざ厩舎での実習が始まると『とんでもないところにきてしまった……』という思いに変わっていきました。全てがすごいというか……毎日が驚きの連続でした」

藤沢厩舎に所属することになったばかりの日々を、杉原騎手はそう振り返る。
一流の調教師に、一流のスタッフ。最初は、馬の乗り方、扱い方など、どれをとっても自身の技術のなさを痛感するばかりだったろいう。鎧の踏み方など、競馬学校で学んだことを基礎としつつ、それ以上に多くのことを徹底的にスタッフの方々に教わっていった。

「今振り返っても『あのレベルの調教をするところは、なかなかないだろうな……』と感じます。スタッフもすごく優秀で、みんな自分で考えてやっていたのが印象的です。僕も毎日、藤沢厩舎の馬に乗っていましたが、他にも様々なスタッフが馬に関わっているわけで、その人たちすべての工夫の積み重ねによりあの調整が成り立っていました」

厩舎の所属騎手として、若手の頃から様々な一流馬の調教に跨ってきた杉原騎手。
その中でも1番勉強させてもらったという馬が、コディーノだ。
コディーノはデビューから3連勝で札幌2歳S、東スポ杯2歳Sを制した世代屈指の実力馬。朝日杯FSで2着に敗れてしまったものの、依然としてクラシック有力候補の一角だった。

「はじめて『お前は毎日この馬に乗れ』と言われたのが、コディーノでした。2歳末からダービーまで、ずっと付きっきりでしたね。半年間、毎日コディーノと向き合っていたと思います。前向きすぎる気性の馬ですから、一瞬たりとも気が抜けなかったです。ただ、調整していく上で、主戦の横山典騎手に『乗りやすくなってきたよ!』と声をかけていただいたことがあり、本当に嬉しかったです。横山典騎手からは『なかなかこんな馬はいないから。セイウンスカイに近いレベルだぞ』と言われて『それはすごい馬だなぁ』と驚いたのを覚えています」

一番プレッシャーを感じた名牝、グランアレグリア

もう一頭、印象に残るのはグランアレグリア。
こちらは2019年〜2021年まで3年連続でJRA賞を受賞している歴史的名牝でもある。
2020年安田記念では、アーモンドアイを相手に2馬身半差をつけて勝利した。

「調教含めてプレッシャーを感じたのはグランアレグリアが一番でしょうね。調教の段階から前向き過ぎる性格で、おさえるのにずっと苦労していました。我慢させることを教える日々でしたね」

グランアレグリアは桜花賞やスプリンターズS、安田記念やマイルCSを制しているように、1200m戦〜1600m戦で強さを見せた牝馬だった。しかし一方で、短距離で結果を出して以降も、中距離の大レースへ果敢に挑戦していった。

「自分でどんどんいっちゃうタイプなので、スプリント戦・マイル戦はまだしも、2000m戦を最後までスタミナが残るように走らせるには、どうすれば良いのか……藤沢先生と相談しながら、色々とチャレンジしました。先生のオーダーに対して、自分とグランアレグリアだけで応えられるわけではありません。併せ馬の相手とも呼吸をあわせながら、思い描いた調教をしていく必要があります。当然、かなりの難しさがあります」

そうした尽力があったこともあり、グランアレグリアは大阪杯で4着、天皇賞・秋で3着など、2000m戦でも好走。どちらも、無敗の三冠馬コントレイルにクビ差まで迫る熱戦だった。スプリントG1を制した馬として、十分すぎるほどの結果を出せたと言えるだろう。引退レースのマイルCSで、グランアレグリアは他馬を置き去りにして上がり最速で勝利した。

「引退までプレッシャーを感じる日々でしたね。ただ、藤沢厩舎を特集するテレビ番組で流された、追い切りを任された瞬間にプレッシャーでしゃがみ込んでいるような映像は『うまく編集されたなー』と思いました(苦笑) 緊張はしましたが、頭抱えるほどは悩んでいませんよ!(笑)」

厩舎は、藤沢調教師の定年退職とともに解散。
杉原騎手はそれからフリーとなり、その約5ヶ月後、自身にとって初めてとなる重賞制覇を成し遂げる。その勝利後、藤沢元調教師からもお祝いの連絡があったという。

「"藤沢厩舎の一員としてやりたい"という想いを原動力に、ここまで頑張ってこられたと思います。他のところだったら、全然ここまでやれていないんじゃないでしょうか。偉大な師匠のもと、さまざまなきっかけを与えてもらえました。G1馬の調教を任せてもらえるというのはどれほど貴重な経験か……。藤沢厩舎じゃなかったらもう騎手を辞めていたかもしれないですし、何も頑張るきっかけがなかったかもしれないです。本当に感謝しています」

藤沢厩舎の騎手から、フリーへ。
名門厩舎が育てた騎手は、恩師への感謝を胸にさらなる飛躍を目指す。

写真:かぼす

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